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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第2話

「上手く話せないけど、此処に来てから少し・・・や、かなり自分の自我? が変になってて」


「・・・」


「元から性格が歪んでたって言われたらその通りだけど、とにかく支離滅裂で残酷で、なのに自覚があっても直せなくて・・・」


「大丈夫。結論言って」


──僕とアリアは話す場所を考えて部屋に戻った。


何時ものように案内人が居る訳でもないし、食堂に待機と言われた訳でもない。


何より他人に聞かれる場所で話をしたくなかったからだ。


部屋に入ると直ぐにアリアは各自にあてがわれた木製の長椅子に腰掛け、さあどうぞ、と言う風に視線を送ったが


正直、理路整然に話をまとめていた訳では無かったので、不安も混じって意志をはっきりと述べれない。


見かねた彼が、ぐだぐだしなくて良いから主旨を話せ、と暗に指摘する。


その穏やかで迷いの無い一声が僕を冷静にさせた。


「・・・エディを見殺しにした」


「!」


「桜雪の事でからかわれて憎らしくなって、狼が向かってるの知ってたのに助けなかった」


アリアは意表を突かれたかの様に目を見開き、顔を呆然とさせた。


尖った空気がピシリと音を立てて時間が止まる。

どうかしてた。


今になって言えるのはそれだけだ。


だって、あの夜の事は気持ち悪いほど鮮明に脳裏に焼き付いてる癖に、あれ──動機は何故か自分の中でも納得いかない所があるんだから。


からかわれただけで、何故あんな殺意が芽生えたのだろうか。


超高性能の人型ロボットって言葉がそんなに勘に障ったのか?


この自問自答に答えは出そうもない。


あの夜が僕に残したのは後悔と恐怖だけだ。


此処から逃げ出したくなる衝動を抑え、僕は始終アリアの顔を見ない様に視線を逸らしていた。


心臓が、鼓動が激しく波を打ち、痛みに手を押さえる。



・・・頑張れ、自分。恐怖にも苦しみからも目を逸らさないと決めたんだろ。


「それで」


鼓動がその瞬間にこれ以上無いって位、音を立てた気がする。


「賢治は今も憎らしいの?」


──音は空気中にさざ波の様に揺らめいて


耳から神経に伝わって


そうして脳が君の言葉を理解した時


桜が一斉に芽吹く様に、僕はもう一度生まれ変わったかの様な感覚に心臓を揺さぶられた。


人は何度となく愛しさや痛みに振り回されて、世界を変えていく。


そうやって生きていくしかないんだ。


「憎んでない」


「うん、そうだろうと思った」


優しげな微笑みを浮かべたその横顔が余りにも綺麗だったから、僕は思わず見とれてた。


責めないの、とか嫌悪しないのとか疑問を考えれば切りがないけど、彼はまるで気に留めない。


僕はもうそれに羨望の眼差しを向けて自分を劣等だと感じたりはしない。


「寝るから」


フッと真顔に戻ったかと思えば、彼は直ぐにベッドに横になってしまった。


暫くその場に立ち尽くしていると、規則正しい寝息が聞こえてくる。


僕はそれを確認して口元を緩めた後、静かにドアノブに手を掛けた。


だが扉を開いた先に見えた人物と目が合った瞬間──僕は驚きに目を見開いた。


「・・・っさ」


その後の言葉が声にならなくて、口が金魚の様になっているかも知れない。


手はドアノブを握ったまま、次第に体が血の気を引く感覚に青ざめる。


何故こんなにも焦っているのか。


否──疑問に感じる必要も無い。桜雪が目の前に立っていたからだ。


壁にもたれ掛かった体制で僕を見ている限り、前からここに居たのではないだろうか。


だとしたら、彼女は彼との会話を聞いたのだろうか。


僕の推測は連鎖の様に繋がって、やがて重しの如く底に沈んでいく。


もうすぐ起こるであろう未来を、考えたくないと思う自分がいる。


その顔に怒りや蔑みを感じ取れないとしても、けして彼女は笑ってない。


「おかえ、り」


ぎこちない作り笑いは一層空気を沈めた気がする。


僕と彼女との1メートルの距離がまるで遠くに思えて、一歩でも踏み出そうものなら永遠に拒絶されるんじゃないかと本気で感じた。


その瞳が失望と猜疑心で陰るのを見たくなかった。


「けんちゃん」


だけど彼女が口を開いた途端、その瞳から涙が溢れそうになっていて


なのに僕はと言えば声を掛ける事さえ出来なくて


僕が自分の中で納得しても、それは随分なご都合主義に他ならなくて


否──そんな事は今更で、この結論が彼女の意志を無視している事など分かりきっていた。


それでも僕は彼女に与えられる最善を尽くしたくて、未来をを託そうと決めたんだろう?


「ごめん」


僕が彼女に言わなければならないのは、謝りだ。


だが、桜雪はまるでそれが聞こえなかったかの様に言葉を続ける。


「ウザがられても離れたくない」


桜雪は震えた声色で今にも泣きそうな顔で僕を見た。


それが前に僕が言い放った言葉を意味しているんだという事を悟る。


「でも私は、もうけんちゃんが理解出来ない」


近付いた彼女の白い手が、僕のシャツの裾を握る。


「私・・・けんちゃんが恐い」


俯いた彼女の表情を窺う事は叶わなかった。


只、洩れた様に呟かれた一言が、まるで声にならない叫びの如き絶望に思えて仕方なかったんだ。


この気持ちに何と名前を付ければいいのか分からなかったし何も言えなかったけど、お互いがこの沈黙をひたすら憂い、怒り、慈しんでいたのは確かだと思わずには居られない。


そして彼女の手がそっと離れて背中を向けられた時


僕は何故か『別れ』を予感する。


──手を伸ばしても届かない程2人の距離が離れようとしていた時、空気を割いた様に案内人の声が放送として廊下に響いた。


「──これを以て、第6回戦を終了したいと思います。それから只今の皆様のゲーム結果をお知らせしておきます。第3・4会場から1名、第7・8会場から3名、第9・10会場から1名。計5名が第7回戦に出場となっております」


しかし放送はそこで途切れなかった。


「そして皆様、今すぐ食堂へお集まり下さい! 7回戦のルール説明をしたいと思います。尚この7回戦は最終戦です。食堂で皆様をお待ちしています」


ブチッと途切れた音がしたかと思えば、再び静寂が辺りを包み込む。


桜雪は放送の間、背中を向けたまま身動きもしなかった。


だが扉が開く音と共にアリアが部屋から出て来ると、まるでそれが合図の様に走り出し、彼を一瞥もせず食堂へ向かって行った。


階段を駆け降りる足音もやがて消え、気配は完全に消えたというのに


彼女の悲壮に満ちた声だけが、閑寂な廊下にまだ響いている気がした。


「──許されなかった?」


目線はずっと合っていたのに、よほど茫然と立ち尽くしていたのか彼の存在を忘れていた。


「・・・こんなの只の自己満足だよ」



心とは裏腹に、自然と足は食堂の方へと進んでいた。


そう、立ち止まって何かいられない。


「行こう、アリア」


僕がこのゲームに終わりをつけるんだ。

先ずお詫びを申し上げます。

更新が遅れてすみませんでした!(´・ω・)


受験生という事で停滞していましたが、高校合格後も勉強や友だちと遊んでばかりで放置してました…;


そしてお久しぶりです。

元気にしてますっ

恐らく誰も気に留めてないと思われますが、今後も更新が遅くなると考えられます。

ですが絶対に完結させるので、どうか温かく見守ってやって下さい。

ではでは(*´ω`*)

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