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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第3話

目覚めたら全て夢だった──って展開をもう何度願った事だろうか。


分かってる、これは現実だ。


大昔の人物と会話をしたり、空間移動したり魔女と出会ったり、今時、小学生だって騙せそうにない話だけど本当の事なんだ。


もし友人に今までの事を言っても誰も信じてくれないかも知れない。


だけど少なくとも、僕はそれが本当だって知ってる。


他の誰かが知らなくても、当事者は真実を知ってるんだ。


だからどうか


僕の罪を無かった事にしないで欲しい。


僕が今も呼吸をしているのは、然るべき裁きを待っているからだ。


もっと苦痛を、もっと絶望を。


そうして立ち直れない位に傷付いて、自分の醜さを呪いながら死ねばいい。


誰も手を差し伸べなくていいから。


──もう、助けてなんて言わないから。


頬ひんやりとする感覚に、虚ろな瞳を開く。


頬やおでこには水で湿らせた様なタオルが置かれていた。


隣で腰を下ろしている少年は、僕が目覚めた事に気が付くと美しく優しい笑みを浮かべた。


「それやってると、ちょっとは楽じゃない?」


・・・こいつ、まだ居たのか。


僕は腕をゆっくりと挙げて、顔に当てられたタオルを彼の前に出した。


「あ、もうぬるくなった?」


ただ返したつもりだったのに、何を思ったのか差し出したタオルを水に濡らそうとする。


「違う・・・必要ないから」


「だから、本当に遠慮なんてしないでってば」


「別に遠慮は」


「あ、眠ってる間に水と食べ物飲ませちゃったからね? 食べ物って言っても便利なカプセル型になってるから、ちょっと変な感じもするけど・・・」


「は?」


「だって命が本当に危なかったし、僕が渡しても断ると思ったから」


──確かに飢えも疲労感も殆ど無い。


体は心なしか、と言うより格段に元気になっていた。


「倒れてたと思ったら今度は目の前で意識失うんだもん。驚いちゃった」


そう言ってはにかんだ笑顔を向ける彼が何だか眩しくて、僕はそこはかとない後ろめたさに目線を逸らした。


「どうしたの?」


「・・・何でそうやって助けようとするんだ。俺が助かっても君に利益は無いだろ」


「り、利益って」


「この世界で自分の事だけ考えたって誰も責めない。親切心なら、僕の命を1日延ばしただけでもう充分分かりました。ご親切にどうもありがとう」


自分でも随分抑揚の無い声だな、と他人事の様に感じた。


だからと言って言い直す気なんか無かったし、彼のした行為は悪いけど食料の無駄遣いだ。


客観的に考えれば今の僕の態度は最悪なもので、相手が相手なら憎しみまで覚えかねないと思ってはいたが、彼が親切にした事を悔やんで罵声の一つでもかけてくれれば結構だと本気で思ってたし、むしろこっちも余計な事に心を砕かなくて済む。


──元々、親切にされる様な人間じゃないんだし。


それから暫くの沈黙にふと目線を合わせれば、少年は唇をギュッと結び頭を俯かせていた。


「・・・そんなの変だよ。目の前に倒れてる人がいたら助けるのは当然だ。あなたは自分のする事を何時も損得で考えてるの? 死んでも構わないの?」


「・・・何、怒ってるんだ」


顔を上げた少年の瞳には怒りが宿っていた。


否、罵倒すれば良いとは思っていたが、それは親切にしてもらっといて有り難くも感じてない僕に対する苛立ち──という意味での話で。


そう、怒りの種類が違うんだ。


彼の心にある腹立だしさは何に対してなんだ?


それは僕には全く検討もつかない事で、彼の心境を推し量るには頭が冷静になれていなくて。


責める様な口調に動揺して、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。


だけど彼の言葉はそこで終わらない。


「あなたは何の為にゲームを続けてきたんだ! 何で死のうとするの? 君も生きる為にゲームをしてきたんでしょ。帰りたいからこんなふざけた事を続けてるんじゃないの!」


咳を切った様にまくし立てた後、息を荒げながら首を横に振る。


「・・・何があったのか僕には分からない。でも死にたいならそれを止める権利は無いよ」


そう言い残すとサッと背を向けて歩いていった。


足元の砂を踏み締める様に進む彼の背中が遠ざかるのを、暗澹とした気持ちで見つめる。


その姿が見えなくなる前に目線を下げてうなだれる。


彼の気持ちを全て理解出来たなんて言えないけど、少なくとも利益で動いた訳じゃ無かったって事は分かったよ。


──彼は『優しい』人間なんだ。


誰かを自然に思いやれて、そこに利益や喜びを感じる心を持ち合わせてはいないんだ。


・・・そんな人もいるんだ。


此処にいても、誰かの犠牲の上に命を成り立たせられる状況を強いられても、変わらず自分でいられる者もいる。


僕もそんな人間だったなら、けして死のう何て考えなかったんだろう。


「・・・会いたい」


ふと桜雪の姿が脳裏に浮かぶ。


彼女の柔らかな声をを、無邪気な笑顔をを思い出しては、何だか無性に会いたい衝動に駆られた。


僕の人生と言えば悪意の塊で、全てを嘲笑ったり騙したりばかりの日々を悪戯に過ごしてた気がするけど、今そんな生き方を少し後悔もしているんだ。


誰にでも微笑んであげるのは簡単で、傷付かない予防線を張るのは痛がりの僕にとって楽な方法で、此処にさえ居なければそんな自分を自覚する事も、変えたいと思う事も無かったんだろう。


だけど痛みを麻痺させる人生の先に待っているのは、深い虚無感と孤独だけなんだ。


・・・あぁ、全然少しじゃない。僕は今の僕に大きな後悔の念を抱いている。


今なら分かるよ。


僕は君に憧れていたんだ。


あの日、生水臭い水槽の掃除を1人でしていた彼女に


あの日、誰からも世話をされなくなっていた花に水を与えていた彼女に


その姿は只真摯に眩しくて


僕には到底真似出来ない事を自然にやってのける彼女は、誰よりも綺麗で特別だったんだ。


なぁ


醜い本音を言えば許されたいよ。


最低だって軽蔑されてもやり直したいんだよ。


無かった事にはしない。どんなに過去に苦しんでも、自分に胸を張れるチャンスが欲しいんだ。


「桜雪ーっ!!」


胸から込み上げる衝動に叫んでいた。


何度となく声を枯らして彼女の名を呼んでいた。


この広すぎる砂漠の上で君に声が届くなんてこれっぽっちも思っていたなかったけど


僕の想いが声となり波となり君に少しでも伝わるのなら


それは砂漠の中で泉を見つける様な奇跡なんだろう。


僕にとっての泉は君だよ。


君なんだよ。


こんなありふれた言葉、以前なら僕にとって馬鹿にする対象だったけど


僕が生まれている時点で奇跡だし


君と巡り会えた事も奇跡なんだから


次の奇跡が起きる可能性も信じてみたいんだ。


「さ・・・っ!」


喉が痛みに悲鳴を上げた。


同時に体がよろけて横に倒れる。


呼吸が出来なくて窒息死するんじゃないかって位、喉が痛んでいた。


人間ってやっぱり脆い。


機械なら大音量で音を出し続けれるし、宇宙にだって移動出来るのに。


でも、それでも人間が良い。


生まれ変わったって人間が良いって、今なら言える。


神様、あなたの存在だってちゃんと信じてみる。


──僕にもう一度、奇跡を起こして下さい。


「ねえ」


「・・・」


少年は僅かに腰をかがめ、真っ直ぐに僕を見つめる。


──彼が後にある真実を与えてくれる事を、僕はまだ知る由もなかった。

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