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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第2話

僕には何がある?


君さえ側にいてくれれば充分だと思っていたけど、なら君が去ったらどうすればいい。


君に遠ざかる道を選んだ時──僕に何が起こるんだ。


「・・・砂漠?」


砂に頬が擦りつく感覚に重い瞼を開ければ、どこまでも地平線に広がった砂漠が見えた。


辺りを見回しても、人の気配も街並みも無い。


水色がかった空の下──果ての分からない砂漠の上に足を着ける自分は、まるで世界から置いていかれたかの様だ。


だけど頭の中は酷く冷静で、驚くのさえ面倒臭いと思う。


これが夢か現実か考える事さえ億劫で、夢なら覚めるまで待てばいいし、現実だとしても何かしら起こるまで黙っていればいい。


もし何日も事が起こらないとしたら──それでも構わない。死ぬのを待てば良いだけの話だ。


それなら自殺した事にはならないし、僕も記憶の苦痛から逃れられる。


命を大事にとか生きる意義とか、そんな辻褄合わせみたいな言葉は薄っぺらくて届かないし


何だかんだ美化したがるけど、結局生きていたい奴が勝手に頑張ってるだけなんだ。


その中の少数派だって、死ぬ機会を窺いながら勝手に生きている。


勝手に生きたり自殺したり殺したり、人間の一人相撲だけが横行していていいのか?


砂漠化が進んでるのだって人間のせいなのに。


──自暴自棄と言えばそれまでだけど、途切れ途切れの思考を持て余しながら待っていた。


それが命の終わりか救いの手かは自分にも分からないけど、僕はこんな時でも何かを待ち続けていたい、という事なのかも知れない。


──それから二回の月と太陽を見た。


僕は目覚めた時の姿勢のまま、動く事もせず渇きと飢えに堪えていた。


否、初めから結果は分かりきっていたのだから、堪えるなんて言い方はおかしいかも知れない。


そう、多分あの夜から決めていたんだ。


もうこれ以上ゲームは続けないと。誰かを犠牲にしてまで幸せになる権利なんて無いのだと。


本当は遅いのかも知れない、だが今ならまだ間に合う。死ぬ時は普通のままでいたいんだ。


・・・桜雪なら責めるのかな。


それは違うって怒るのかな。


だけど生きる意味も価値も無いのに、それでもゲームを続けろというのか。


全て失って元の世界に戻ったって、今更どうやって生きていく?


それとも無かった事にして図太く過ごせばいいのか。


「う・・・」


死にへと近付いているのか。体はかなり衰弱している様に思えた。


──当たり前だ。砂漠の真ん中で日中は太陽に容赦なく照りつけられ、夜は急激な寒さに体温を襲われ。その上2日も水も口にしていないとなれば、元気だ、と言う奴こそ異常であろう。


頭が熱を持っているのか意識を失いかけているのか、視界がぼやけて次第にぐにゃぐにゃと歪んでいく。


砂漠のどこかで、誰に知られる事も無くひっそりと、僕は静かに息を引き取るのか。


抵抗する気なんか無いから、早く、この地球から追い出してくれ。


もし行き着く先が地獄でも、構わないから。


「ねえっ、君、大丈夫!?」


空から声が降ってきた。


ぼやけた誰かは、砂を舞い上がらせながら勢い良くこっちに向かう。


段々とその輪郭ははっきりして──目の前に来た時、息を切らしながら心配そうな顔で僕を見る少年を捉えれた。


「・・・っね、君は参加者だよね? 袋は? ずっと此処で倒れてたの?」


「・・・・・・」


「あっ、水!」


そう言って少年は布のナップサックの様な物からボトルを取り出し、僕に近付けた。


「飲んで。このままじゃ死んじゃいそうだよ」


だけど僕は首を小さく横に振って、要らないと意志表示を示す。


「え、遠慮しないで・・・僕は暑いの慣れてるし、水はまだ残ってるし」


──何故この少年はそんなに動揺しているのだろう。


不安そうに僕を心配して、ほっとけばいいのに水までよこそうとして、本当にこのゲームに勝ち抜いてきた10人の中の1人か・・・?


「死んじゃ駄目だ、ねえお願いだから飲んで。ゲームに勝ちたくないの?」


「ゲー・・・ム?」


言葉に理解がついていかなくて、僕は思わず彼に聞き返していた。


「もしかして、第6回戦の内容知らないの?」


「・・・何それ」


すると少年は驚いた様な、不思議そうな顔をして砂を蹴り上げた。


それから少し困った様に手で砂を掬って苦笑を浮かべる。


「──僕達は泉を探さなきゃいけないんだよ」


「泉って」


「さぁ・・・よく分からない。只、案内人に参加者10人にそれぞれの泉があるって言われたんだ。泉が本当に泉を示すのかはともかく、見つけないと元の世界に戻れない」


その言葉で、やっここが今回のゲーム会場である事を認識する。


僕の知らない所で時間は過ぎて、何時の間にかゲームが始まっていたのだ。


「だけど歩いても歩いても景色は変わらない。この中で自分の泉を見つけるなんて絶対に不可能なんだ」


「そ・・・れ以外には?」


「えと、3日分の水と食料だけ袋に入れて貰ったよ」


そうじゃなくて、と語尾を強める。


「案内人は最後・・・とかに、何か言わなかった?」


別に特別な意味なんて無い。だけど彼女のお決まりの挨拶やルール説明以外の言葉に、何かゲームの答えに近付くヒントが示されてるんじゃないかと無意識に思ったんだ。


目の前の少年は子供らしく唸りを挙げながら砂を見つめ、思い出した様に声を洩らす。


「『あなたにとっての泉は? 孤独な砂漠の中であなたは何を思う?』みたいな事、言ってたかなあ・・・」


さっぱりだよね、と不満気に口を尖らせる。


僕はそれに何も応えなかった。


「えっ?」


応える気力さえ、もう残っていなかったんだ。


「ちょ・・・、ねぇっ」


肩を揺さぶる少年の姿が吸い込まれて小さくなる。


まるで混沌とした気持ちから逃げる様に僕は意識を飛ばしていた。


──僕にとっての泉だなんて笑ってしまう。


そんなもの有りはしないって、希望なんか残されてないって十二分に理解してるのに。


良くも悪くも、それでも人は偶像に希望を馳せて砂漠のどこかの泉を探そうとするんだ。


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