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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第4話

──もうあんまり時間が無い。


あれから画数を数えてみたり、逆さまにして見たりと試行錯誤を繰り返してみたけど無意味な結果に終わっていた。


そもそも文章じゃないなら、こんな事をしたって無駄な気がするけど。


「まだヒントが隠されてるって事なのかな・・・」


それとも何かをしないと文章にならないとか。


私は大きな溜め息を吐いて、背中にもたれ掛かった。


「もう・・・八方塞がりだよー」


こうしている間にも時間は無常に過ぎていく。


秒針が動く音にこんなにも苛ついたのは初めてだ。


「20分・・・」


紙を手でグシャリと握り潰し、隅に放り投げる。


壁に当たったそれは虚しくゴミの一つと化し、また部屋は沈黙した。


「・・・・・・ここで死んじゃうのかなぁ」


一度は諦めずに頑張ったけど、万策尽きた今、これが自分の限界何だと悟れる。


第一、私には初めからこんなゲーム無理だったんだよ。


そう、今まで勝ってきたのが不思議な位私には何も無い。


真面目で、人より少しばかり体力と知恵があるだけ。


──私が生き残っているのは、運が良いのと周りに助けられていたからってだけだもん。


「ごめんね、けんちゃん」


生きて2人で元の世界に帰るって約束してたのに。


桜雪


私を呼ぶ低くて落ち着いた声。


優しい面影。


辛い時も楽しい時もそばに居てくれたのは


「・・・・・・嫌だよ。もっともっと生きたい。帰ったらする事がたくさん残ってるのに、これからなのに! 私まだ・・・・・・死にたくないよっ」


涙が溢れて溢れて止まらなかった。


生きたいと強く願っているのに、時間だけが過ぎて行くのは余りにも残酷だ。


──もう私に残された時間は17分だけなのだ。


鏡に映る自分も17分後には・・・


「・・・鏡?」


あの文字もしかして──・・・


私はグシャグシャになった紙に向かって走り出し、それを丁寧に広げて鏡の前に映した。


「パイプの中・・・あなたが求めてる、こと」


Pipe inside.


What you are requesting.


そこに表れたのは2つの英文だった。



──何で今まで気付かなかったんだろ、これは只の鏡文字だったんだ。


「私逆に紙を持って読んでたから・・・余計に解らなかったんだね」


そうで無かったら、もっと早く気付いていた筈なのに。


「・・・えーと」


あれだけ泣きまくった後で、自分が何をすれば良いのか思い付かなかった。


しばらくの間立ち尽くし、ふと時計に目を留める。


──残り11分。


「あ・・・ま、まだ間に合うかもっ」


途端に体が、呪縛から解き放たれたかの様に動き出す。


鈍っていた頭も、これまでに無い位冴え渡っていた。


目線が捉えるは、簡易ベッドのパイプ。


考え込むより先ずは実行──それに紙に書かれていたパイプの意味を考えれば他に結び付きそうなものが無かった。


パイプを一本一本抜いて取り外し、中を確かめる。


「・・・あった」


勘は外れてはいなかった。予想通り、最後に外したパイプを逆さまに見上げた瞬間──何か四角い物が床に落ちた。


小さなキューブの様なそれを急いで拾い上げる。


「・・・オートロック?」


キューブに埋め込まれてあるアルファベットのAが4つ並べられたそれは、金庫やドアに使われる鍵要らずの錠前と呼ばれるものだ。


試しにダイヤルを1つ後ろに動かせばBが、前に動かせばZの文字。普段は暗証番号式の物しか見た事無いけど間違いない──けど。


「これじゃあロックの意味が無いんじゃ・・・」


そう、ロックする物がなければオートロックは要らない。


これの使用法に、再び行き詰まりを迎えそうになった時──淡々とした淀みの無い声が、私の呼吸を一瞬止めた。


ゆっくりと時計を確認する。


「な、何だてっきり時間過ぎたと思って・・・」


ホッと胸をなで下ろすと同時に、タイムリミットが10分だという事に焦りを感じた。


ちょっとゆっくりし過ぎた・・・?


「──ゲーム終了まで残り10分となりましたが、各会場の結果が芳しくなく、ここ第7・8会場も脱出者はまだ僅か3名です」


3名・・・その中にけんちゃんは入っているのだろうか。


「よって、最後の関門にたどり着いている者だけに解るヒントを付ける事に決定しました」


「・・・え?」


だ、駄目です。案内人さん、そんな事したら一気に脱出者が出て私この世とお別れかもです。


冷や汗のせいか、体中が少し寒くなる。


「ヒント──」


涙目になる情けない顔を手で覆った。


もう、仕方ない。ここまで来れたのが凄かったんだもん。そうだよ、初めから諦めれば──・・・


「ロック式。暗号の4つのアルファベットを正確に合わせ、その隣のレバーを引けば脱出出来ます。しかし一度間違えれば即ゲーム終了。ヒントは紙に書いてあるでしょう。では健闘を祈ります」


「・・・・・・」

・・・へ?


「これが最後の関門だったんだ?」


当然ながら、その問いに応えてくれる者はいない。


でも別に良い。


「あ、そっかこれがレバー・・・」


これが案内人さんの言ってるヒントに間違いないから。


「・・・よしっ」


左手で拳を作り、空に向かって気合いを入れる──もう迷う時間は残されていないのだ。


晴れ晴れしい爽やかな顔で、紙とキューブを見合わせる。


「勝負だよね? けんちゃん」


残り時間──4分。


左から順にゆっくりとダイヤルを回す。



──あなたが求めている事は何ですか?



そして穏やかな顔でレバーを引いた。


──だってこれを求めていなければ、こんなに必死にゲームをする必要何て無いでしょう?


「・・・・・・」


早鐘の様に心臓が音を打つのを、抑える様に胸を両手で押さえつける。


大丈夫、大丈夫。


言い聞かせる様に頭の中で繰り返す。


ジャッジが下されるまでの時間が酷く長い様に思えた。


そして緊張が絶頂まで到達しそうだという時にようやく、案内人のゲーム終了と言う短い言葉が聞こえてきたのだった。


瞬間──フヮッとした軽い感覚と共に視界が変化する。


「桜雪っ!」


低くて落ち着いて、でも今はどこか嬉しそうな声色。


「──これをもって、第4回戦を終了したいと思います。それから、只今の全会場の皆様のゲーム結果をお知らせしておきます。第1・2は5名、第3・4は名6、第5・6は3名、第7・8は5名、第9・10は1名。計20名が第5回戦に出場となっております」


「けんちゃんっ」


彼のもとへ駆け寄りそのまま顔を押し付ける。

周りの人達の事も案内人さんの報告の事も、今はどうだって良かった。


「・・・桜雪?」


そんな、どうしたの? みたいな口調で言わないで。


持たれ掛からせて、安心させて。


──私はゆっくりと彼から離れ、微笑みを浮かべる。


「良かった・・・」


そう言うと、けんちゃんの瞳が優しくなった気がした。


「俺も」


──顔をクシャクシャにして笑う彼が、酷く愛しかったの。

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