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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第4話

「なぁ・・・正直、俺もう帰りたいよ」


食堂の中で、ふと聞こえる3〜4人の雑談。


その中の1人の冒頭の台詞を皮切りに、一斉に仲間が俺も俺もと喋り出す。


年齢層や人種を見て──ここで出来た仲間何だろう。


「今まで必死になってきたけど、こんな殺し合いみたいな事したくねぇ」


「自分のせいで死んだ人がいるって思うと・・・すごい可哀相だよな」


「負けた方が楽だ! こんなゲーム考える奴の神経を疑うね」


一方の僕といえば、椅子に腰掛け頬杖をつきながら、そいつらを良い人ぶりっこな奴らだと見下していた。



この世界の絶対は、ゲームに勝つ事。


自分の命がかかってるんだ、人を蹴落とすには充分な理由だろう。



しょせん綺麗事なんか甘ったるい人生を送った奴だけが言える台詞。


僕は私は、こんな風に思える温もりのある人間なんだって


さも当然の様に公言してる奴をみると、見下したくなる。


それで優しくなったつもりかよ。上から物見れて勝ち誇ったつもりかよ。



そんな奴ら──自己満足に浸って死んでしまえ。










「あいつらさ、あれで犬、救ったつもりなん?」


「え?」


小学校の頃、夕暮れの帰り道に犬を見かけた事があった。


ダンボール箱の中でタオルに包まれてる、茶色の毛並みの可愛らしい犬。


ありたきりに、可愛がって下さいってダンボール箱に大きく書かれてある。


通っていた小学校の近くに置かれてあったせいか、その犬の存在はポツポツ知られる様になり


放課後にはクラスメートの女子達が、パンや牛乳を持って集まるようになった。


だが──僕は正直その女子達に好感は持てなかった。


可哀相だと無闇にエサだけ与えて、飽きれば見向きもしなくなる。


本当に犬が可哀相で可愛いと思うなら、飼い主を見つけたり家に置いたりすれば良い。


中途半端に可愛がって無責任だ。


「桜雪はあの人達が無責任だと思わねぇの?金魚の時だって最後まで育ててたのは俺達だけだったじゃん」


始業式の日の事


ある日、あの中にいる沼田さんが夏に縁日でとった金魚を、学校に持って来た事があった。


話し合いの結果、金魚は学校の水槽で飼うことになり、初めは女子も男子もこぞって世話をしていたが


1週間もすれば、男子は金魚に飽き


沼田さんを含めた女子達も次第に世話を面倒臭がって、その金魚の事などすっかり忘れて見向きもしなくなった。


そして見かねた桜雪が、放課後に掃除やエサをあげたりする様になったのだ。



当然、僕がそれを放っておく訳もなく、結局朝と放課後に2人で世話をするのが定着し


何ヶ月もすれば、すっかり金魚に愛着を湧かせていたが


──ある朝、何時も様に2人で水槽の様子を見たら


金魚はプカプカと浮かんでいた。


死んでいたのだ。


縁日の金魚の寿命が長くないのは知っていたし、悲しく思いながらも早く墓を作ってあげなきゃと考えていたが


金魚が死んだ事を聞きつけた沼田さんグループの女子が、可哀相だと騒いだのだった。


そして沼田さんが花を植え、みんなで墓を作った。


悲しいね、って顔を曇らせて。




──僕も桜雪も、金魚の墓作りはしなかった。


クラスメートの人達と一緒に括りたくなかったからだ。


「お墓の隣に植えた花も、誰も水あげなくなったよね」


桜雪は特に何の感情も込めず呟いた。


「・・・あの犬さ、誰も飼わない様だったら飼う人見つけてあげようよ」


それには応えず、僕も感情を込めず淡々と喋る。


「けんちゃん、優しいね」


そう言う桜雪の笑顔が、僕にはとても眩しくて


妙に後ろめたい気持ちになっていた。




夕暮れの帰り道


手を繋ぐ僕達


桜雪はどんな気持ちで水槽の掃除をしだしたんだろ。


花に水をやるようになったんだろ。


僕に優しいと言ったんだろ。


──誰にも興味を失われた金魚が


桜雪には、どう映ったんだろ。




淡々と、静かに花壇にじょうろの水をかける彼女が


僕には眩しかった。




──桜雪は『本物』だったから。


僕は瞳をゆっくりと閉じて、心を研ぎ澄ました。



ゲームには勝つ


でもそれは、桜雪を守る為。


もう一度、あの醜い世界に帰る為に。


けして、あのナツキに心を支配されたりしない。


僕は僕の自我を保つんだ。


ナツキの入り込む隙間何か無い位──頑丈に。




静かに決意する


もう心を乱されたりしないと。




「────」


真っ暗な闇の中で


誰かがフッと笑った気がした。

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