表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REAL GAME  作者: 野澤 ちか
48/77

〜第5章〜第1話

こんなにも胸がざわつくのは


自分でも知らない僕の片鱗を見つけてしまったから。



残酷で冷たくて、利己的で強い。


持ち前の運動神経と恵まれた知能を合わせている、別の僕は


男として──いや、ヒトとして最強だと認めざるをえない。


只、生き残る上で、だけであるが・・・



















───ねぇ、ねぇ賢治。


誰かが近くで、僕を呼んでいる。


耳に馴染む聞き慣れた声・・・僕はいつもこの声を1番近くで聞いている。


僕は後ろを振り返り、その声の主の姿を捉えた。


そう、この声は──・・・


「僕じゃないか」


そして特に意識するでもなく、あぁ、これは夢なんだな、と瞬時に悟った。


夢だから、僕の体は宙に浮いていて


僕が僕に呼び掛けられて


妙に冷静な気分になってしまう。



はは・・・


僕は苦笑を浮かべて彼の前に立ち、見つめ返した。


穏やかに微笑む、もうひとりの僕の瞳は全く笑っていなかったから。


「ねぇ賢治。君は僕の事を疎ましがっているでしょう?」


唐突に喋り掛ける、もうひとりの僕。


「そうだよ・・・君が居ると──桜雪に変に思われてしまうんだ。何で平凡に生きてきた僕に入り込むんだ? 分かってるなら、邪魔するなよ」


僕はハッキリと思った事を言った。


どうせこれは夢で、しかも僕が自分で作り上げたものなのに、こんな事をいうのは馬鹿気てるって解りきっている。


でも、それでも言わずにはいられなかった。


今僕の中にいる新たな人格は、僕が造り上げたんだから


夢の中でも、言えば何か変わるかも知れないと思ったから。


そして目の前にいる僕は、僕の中で14年間隠れていた潜在意識なんだから


彼の真意や意識を知っておかなければ、後々困る事になると悟っていたから。



「あぁ・・・確かにそうかもね。いや、既にここに来てから何度も彼女は君に違和感を抱いている。それと僕は、もうずっと前から君の中に潜伏していたんだよ? 君の抑えつけていた願望や不満が入り混じって、僕という人格が誕生したんだ。だから──僕は君の本当の精神を具現化した存在ってわけ」


おかしそうな顔でクスクスと笑う、目の前の僕。


僕は怒りと動揺に満ちた頭を何とか落ち着かせようと、拳をギュッと握り深呼吸をした。


「・・お前が具現化した存在だろうが、別にどうでも良いんだよ。もう表に出て来るな。俺は平凡だし、これからもそうだ。お前の入り込む所何か無い。消えろ!」


何なんだ、コイツ。


本当に僕の一部なのかよ?


こんなにも冷たくて人間味の無いコイツが、僕の抑えてきた本当の自分・・・


こんな奴が表でしゃしゃれば、いつか桜雪に被害が及んでしまうだろう。



誰に対しても本音を隠し、嘘で塗り固めた自分のまま時を過ごす。


今まで全てそれで上手くいってきたし、桜雪がそばにいてくれれば構わないと思ったけど



この人格が僕にとって危険な可能性がある上に、表に出ていこうとするなら話は別だ。


こんな精神も意識も、桜雪に知られる訳にいかない。


「──僕の事を警戒してるの? 僕は君なのに? ははっおかし・・・」


僕がジッと目の前の僕を睨み付けると、彼は不思議そうな顔でおどけた後、手を叩いて爆笑した。


「君が僕を拒否したって、無駄だよ。だって僕は君だし、君は僕だもん。僕が表に出る様になったのだって、君が望んだ結果何だから・・・そう邪険にしないでよ」


──僕が望んだ?


「ふざけんな、俺は望んだ覚えは無い」


「それは君が認めたく無いだけさ」


「違う。事実だ。俺はお前何か必要としていない」


「それは君がそう思いだけでしょう? 自分にとって都合が悪いからね。君が今まで波風立てずに上手くやっていったのだって、汚い感情を全部僕が請け負ってあげたからなのに」


僕って可哀相な立場だなぁと、溜め息をつく。


請け負う、って何の事だよ・・・?


話せば話すほど彼の言いたい事が見えなくなり、僕の頭は酷く混乱していた。


「まぁ良いよ。話ならいつだって出来るしね。僕の名前はナツキ。賢治って名前があるのに変だけど、今度から僕の事はそう呼んでね」


そう言ってナツキは遠ざかっていく。


僕は追い掛けようと手を伸ばすが、ちっとも届かない。


「待てよナツキ!」


「またね」


背を向けて手をヒラヒラと振るナツキを、苦々しい思いで追い掛ける。


ナツキ・・・


「ナツキ!」


「けんちゃんっ」



瞬間──ビクッと背中が仰け反り、僕は夢から現実に引き戻された。


「ね・・・大丈夫? けんちゃん。すごい汗かいてるよ」


そういって優しく髪を撫でる桜雪。


「大丈夫・・・少し悪い夢を見ただけだよ」


「悪い夢・・・?」


「そう、とても恐い奴が俺の前に現れて・・・でも覚めたからもう平気」


桜雪を安心させる為にありがとう、と笑って言う。






僕の愛しい君


君がそばにいるだけで、僕は救われる。


大袈裟だと一笑されたって、君がいないと僕は壊れてしまうだろう。


「けんちゃん?」


「ん・・・何でも無い」


どうか、願う。


彼女の笑顔が守られる様に


僕の平凡が壊されない様に



──君だけは、失いたくないから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ