第3話
カンカンと鉄の音が響く。
屋上へ上がると、桜雪はもう来ていた。
「早いな…」
「来るかなって思ってたから」
笑いながらいたずらっぽい目で見るから、少し視線を逸らした。
〈すきじゃなかったら、幼なじみだからって一緒にいるかよ〉
あのセリフは僕自身の思いだった。
桜雪じゃなかったら、一緒に何ていない。
僕は
このままでいいの?
「さて、探検しよっか?」
「…は?」
「学校探検♪先生に見つからないようにねっ」
……何で急に?
でも、そう言う桜雪の顔は楽しそうで
僕も柄にもなく面白そうに思えたから
桜雪の提案に乗ったのだ。
きっとそれは春のせい。
春が僕の平凡を変えたんだ。
「さぁ、行くぞぉ!れっつご〜」
「ばか、見つかるぞ!」
2限目の授業のチャイムがなると同時に
僕らの探検は始まりを迎える。
これが本当に
長い長い冒険のゲームになるとは知らずに………
人気の無い廊下
ちらほら聞こえる生徒と教師の声
「そういえばサボるの初めてだったなぁ」
「桜雪が?」
意外な事実だ。
「そんな不良じゃ無いもんっ」
頬を軽く膨らませて拗ねる桜雪がちょっと可愛い。
まぁ桜雪は昔からけっこう真面目なんだよな。
そんな事言いながら3階の廊下を通ってたら
「…おい、何しとる!」
「わ…やばいっ……え?」
気が付けば僕は桜雪の手を引っ張り、階段を上がっていた。
「どこ行くの?」
「見つかんない所」
短く言って、無人そうな近くの美術室へ走った。あいつ、生活指導だ。
見つかったら桜雪まで親に呼ばれる。
素早く美術室のドアを開け、更に奥の準備室へ駆け込む。
ガチャ…
鍵は掛けたけど、大丈夫じゃないよな…
「ごめんね、けんちゃん。うちのせいで…」
悲しそうな顔でうなだれている。
「ばぁ-か、別にいいんだよ。んなこと…」
…あれ?
「なぁ…これ何?」
埃被ってて汚いけど…絵だよな。
桜雪の後ろに目立たなげに置いてあるそれは何の絵か分からない状態だった。
「ん〜…油絵、だね。ずいぶん古いけど……前の生徒作品かなぁ?」
「……………」
何でだろ?
「けっけんちゃん?」
何故か僕はその油絵の埃を手で拭っていた。
まだ姿を見せないその絵に、強烈に惹きつけられて
「見たいんだ…」
手が真っ黒になるのも気にせず
「ね。その絵がどうかしたの…?」
困惑する桜雪に応答もせず
…………
………………。
「…りある ゲーム?」
先に口を開いたのは、桜雪だった。
「REAR GAME…リアル……本当の・実在するって意味だから、ゲームの計画・狩猟・遊びの意味と合わせて」
桜雪の言葉で僕も冷静に思考を働かせる。
「何か新しい遊びのことか?かなっ」
「多分ね……でも」
でも、この深い井戸の様なデザインの真ん中にこの英語は違和感がある…
賢治は、もっと良く見ようと顔をさらに絵に近づけた。
──その瞬間
絵に描かれた井戸が大きくなった。
いや、正確に言うなら絵から飛び出したのだ。
「…………」
人間は余りに信じられない出来事に遭遇すると声が出ないと言うが
…本当だったんだ。
そしてそのまま暫く沈黙してた後、空気を破ったのは桜雪だった。
「…先生に言う?」
確かにこの状態は極めておかしい。
見なかった事にして、忘れる訳にはいかないだろう。
実際に井戸が在るんだから…
「そうだな…とりあえず先生を呼ん」
「第三者の介入は許されておりません」
…え?
「今の、どこから?」
桜雪と声を重ねる。
静かな美術室には、人の気配何て始めから無かった。
「規定より、あなた方2名を選出します。それ以外の存在を認める事は出来ません。ご了承下さい」
…気のせいじゃない。
僕は悟る。
「声は井戸からだ…」
ゆっくりと、視線を井戸に向ける。
「あなた方は選ばれました」
僕はまだ知らない。
「時間が来ましたのでこれから説明・実行のために移動して頂きます」
これから始まる、非現実的な世界を
「…何に選ばれたんだよ?」
疑うように、慎重に問い掛ける。
何が起こるか
何が始まるか
「REAL GAMEの参加です」
それはまだ、僕たちには想像もつかない未来何だ。