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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第8話

言葉に詰まる。


やはり、この存在を簡単に受け入れる事は出来ない。


そもそも、ゲームの内容を説明をしようとしてたんじゃないのか?


僕は何とか気持ちを落ち着かせて、2人の出方を待つ事にした。


──穏やかな自然の中に、奇妙な空気が流れている。


「ゲームを説明します。まずはペアの相手と役割を決めて下さい。1人は天使役・もう一方は悪魔役です。その際、2人には自分の役を知られない様にして下さい」


僕は何とか乾いた笑みを浮かべた。


この際、もうどうでも良い。あれが本物か定かじゃないし、もし本物なら現実をしっかり受け止めてやるさ。


──僕はいつから、こんなに投げやりでワイルドな考え方を持てる様になったのだろうか。


それは間違いなく、この世界のお陰だと思う。


僕はアリアに近付き、声を潜めて耳打ちする。


「どうする?俺はどっちでも良いんだけど」


「……じゃあ悪魔が良い」


ぼそりと呟く。


なら僕が天使役か。あんまり似合わない気もするけど、役だから気にしない。


「決まりましたか?では、互いの代表者を選んで下さい」


何となく僕が代表をする事になった。


「ではカードを使って先行を決めます。どちらかが2枚のカードを見えない様に持ち、もう一方がカードを引きます。“当たり”を引けば引いた方、“ハズレ”を引けばカードを持っている方が先行・後方を決める権利を持てます」


と言い、瞬間、空からカードがヒラリと落ちてきた。


それを拾うは


「よろしくね」


可愛らしくウェーブの髪をなびかせる女の子。


屈託なく微笑む彼女の周りには、春の陽気が広がっている様だ。


──まるで、誰かさんだな、と桜雪の顔を思い浮かべる。


「カード、そのまま持って良いよ。俺が引く」


「はぁーい」


後ろで黙っている男の子に、どっちが良いかなぁ、等とはしゃいでる様子に無邪気さを感じる。


男の子は、鬱陶しそうに無愛想な顔をさらに曇らせていたけれど。


「はいっ!どうぞ」


俺の前にカードを差し出して、ニコニコ顔の彼女。


さて、どうしようかな……。


とりあえず、左のカードを引こうとすると、瞬間、彼女の顔はパァッと明るくなった。


だから、僕は右のカードを引く。


「じゃあこれ」


やはり、右のカードには“当たり”と書かれてあった。


あ〜あ。惜しかったなぁ…と、悲しそうに俯く女の子。


「では、先行・後方を選んで下さい」


「──先行」


「それでは、先行の方はYES・Noで答えられる質問を1つ考えて下さい。只し、性別や外見の特徴等、質問しなくても分かりきった内容・答えが曖昧になる質問は禁止です」


僕は目の前にいる女の子を一瞥し、少しの間考える。


「君は、本物の天使なのか?」


質問は、最初に頭に浮かんだものだ。それに正直な所、本物か偽物か気になっている。


──だって“天使”だぞ?


存在を認めるって事は、世界を揺るがえしてしまう。


当然だ。限りなくその存在が浸透されながら、誰も証明が出来ないのだから。


しかも──…


もし彼女が天使なら、隣で手を前に組んでる男の子だって、悪魔だという説が濃厚になる。


「えぇ。そうよ」


彼女は少しも躊躇する事無く、微笑みを投げかけた。


「付け加えるなら、彼は悪魔。訊きたかった事知れて、嬉しい?」


冷水を浴びせられた感覚が襲う。


無邪気に口元を緩ませる彼女が──妙に恐ろしく感じたのは僕の気のせいなのだろうか?



「天使は怖いよ」


いつだってアリアは突拍子も無い言葉を発する。


──只、同時に救いにもなる。


「…どう言う意味?」


僕は彼の声に安堵して、天使から目線を逸らした。


首筋に、冷たい汗がつたう──きっと僕の顔色は酷く青ざめている事だろう。


「あくまで、僕の考え。天使は無邪気だし無知だと思うから、無神経だし思いやり何かこれっぽっちも持たない。残酷で純粋何だ」


「まっ、私、無神経じゃないわ。ねー?賢治」


僕はそれに応える事はしなかった。


それどころか、目も合わせない。


…彼女を見るのは、ちょっと怖いから。


天使は拗ねた様に可愛く頬を膨らませ、白い翼をばたかせたが、僕は無視を決め込む事にした。


「では、あなたはそれを信じますか?」


──は…?


僕はすっかりゲームの事など忘れてた。


いや、ゲームの続きだとしてもどういう意味だ?


「彼女の答えが真実だと思うなら、believe、嘘だと思うならlie、と言って下さい」


僕は常に笑みを絶やさない彼女の方を振り返った。


真実か嘘か…?


「believe…だろ」


根拠ない直感であるが、僕は本能的にそう感じた。


もう迷わない。彼女は天使だ。


「よろしいですね?では、もう1人の方はカードを案内人に見せて下さい」


そう言うと、悪魔らしき男の子は──いつからいたのか、初めてみる男性にカードを渡していた。


あの人が案内人か…


「では案内人はカードを見せて下さい」


男性は無表情に、ゆっくりとカードを裏返した。


「believe…」


呟いたのは、僕。


「瑞希 賢治様の勝利です。これで、3回戦は終わります。大体の流れは解りましたでしょうか?では、練習は終わりにして実際のゲームをして頂きます。それから、最後に重要なルールを言わせて下さい」


場に沈黙が走る。


「移動する前に、天使役と悪魔役を決めて下さい。質問をされた場合、天使役になっていた方は真実の答えしか言ってはいけません。しかし、悪魔役になっていた方は嘘の答えしか言ってはいけません。尚、一度決めた役は取り消しが効かないので、よく話し合って決めて下さい。それでは、これより第3回戦を開始致します」



──水面が凪いだ気がした。


一枚の青葉がゆらゆらと舞う。


それを掴もうとして──手のひらからこぼれていった。


たったそれだけの事なのに、何故こんなにも虚しいのだろうね。


その理由は、僕には分からない。


真実は──人が作り出す、神のみぞ知る事だろう。


僕には必要ない。


勝つのに感情何て、邪魔なだけだ。


「さて、作戦を立てようか」


僕は穏やかで明朗な笑みを携え、アリアを促す。


のん気で明るい男の子を演じて──。

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