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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
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第5話

私事ですが、明日はいよいよ市総体です!!


レギュラーも勝ち取る事ができ、中国大会出場を目標に全力を出し切ろうと思いますっ


引退掛かってるので、頑張ります。


密かでも、応援何かしてもらえたら嬉しいです……(照れ

一生分かり合えなくても良いと思った。


そばにいてくれるなら


隣で穏やかな時を過ごそうと思った。


君が好き


だから詮索しないでくれ。


──僕の気持ちを見せよう何て、思ってないから。




「どうしたの?」


アリアの視線に気づき、振り返って訊ねる。


相変わらず少しも表情を変えようとしない彼を、エディは寂しい、と感じているらしいが、僕にはむしろその距離感が好ましく思う。


それも彼の個性。


それにアリアの瞳に冷酷さは感じない。どこまでも透き通った青は、純粋で嘘が無い様に思えた。


彼は僕から目を合わせ続けた状態で立ち止まる、が、またすぐに歩き出す。


それに合わせて、僕も歩み寄る。


「…にしても、神秘的だなぁ」


通行の邪魔をするツタを乱暴に払いのけ、道無き道をひたすら進む。


鬱蒼と茂る森には光も差し込まず、太くて長い樹木だけが至る所に生えていて、らしくなく好奇心で胸が高鳴っていた。


「白神山地か富士の樹海か……」


写真や映像でしか見たことの無い大自然に圧巻された僕は、小さくため息を洩らす。


「…珍しいの?」


その反応に少なからずも興味を持ったのか、彼はポツリと呟いたのだった。


──つまり、君の居た環境では珍しくなかった、って事?と訊きそうになるのをこらえて、質問に答える。


「うん。自然より、造られた物で囲まれた生活してたかな。毎日、大勢の人びとと集団行動して、良り良い人生の為に良い子になって淡々と頑張る──周りの人はこの自然に触れるより、数学の問題を解く方が大事って人ばっかだったよ」


言い終えて、喋り過ぎたと後悔した。


僕はこんなにも饒舌だったか?訊かれてもない事まで口走りやがって……


自分自身に軽い不快感を覚えながら、眉を寄せる。


「…何でも無い。気にしないで」


手を横に振って、何とか苦笑いを浮かべた。

あぁ…時間を戻したいな。──ま、今更無かった事には出来ないけど。


まぁ…後悔先に経たずとは良くいったものだよ。先人の学びは素直に聴くべきですってね、自分─


「君にはそうだったの?」


「…ぇ?」


また聞き流してくれるかな、と思っていたのに、彼の口から出た言葉は意外なものであった。


「──君に映った世界はそうだったの?」


「…………」


何か言いたいのに、声が出ない。


彼はどうして、こう──僕さえも意識してなかった思いを見つけ出してしまうのだろう……


野鳥のさえずり


風が通り過ぎる感覚


耳を澄ませば、確かに感じる生命の息吹きが、ここにある。


……この大自然の中では、気持ちをごまかせれない。


僕は素直に頷いていた。


「アリアには理解出来ない話かも知れない。でも、聞いて欲しい。前の世界は本当は好きじゃ無かった、桜雪──一緒に来た女の子と、初めは早く帰りたいって思ってたんだ……。でも、窮屈で重苦しい元の世界より、ここの方が僕には合ってる気がする。たった4日で決め付けるのはおかしいかも知れないが、初めて僕は──…」


言葉が、止まる。


喋るのを止めた途端、静寂が僕らを包んだ。


空も顔を覗かせる事無き、果てしなく広い森林は──只、悠然と青葉を揺らめかせる。


サワサワサワ…


葉っぱの声が、聴こえた気がした。



嘘は要らない、と。


「…でも僕は初めて14年間知らなかった本物の自分に出会えたんだ──同時に作り物の自分にも。だから、戸惑ってる…今の僕じゃ、彼女にいつか感づかれてしまうんじゃないかってね。内心焦ってるんだよ」


拭い去れない不安。


やはり自分に嘘を吐いたり建て前を語ったって、駄目だ。


思いは、発して初めて確信となる。


「……でも、別にアリアに何とかして欲しいとかじゃ無いから。只、自分がどう思ってるか知りたかったんだ。今言って初めて意識出来た。ありがとう…もう、気にしないで」


──自分で言ってて随分虫が良い終わり方だな、って呆れてしまう。


第一、言うだけ言ってありがとう、何て僕が1番嫌悪するまとめ方だ。


そんな事するのは、無神経で独りよがりで、相手を混乱させる迷惑な奴だなって思ってたのに──まさかそれを自分がする事になる何て。


只、人物の選択は間違えてないと思う。


言った相手が、目の前の人で良かった。


でもアリアには、申し訳ない気持ちでいっぱい。後悔はしてないけど、とんだ被害者であるだろう。


──それとも彼は、僕が吐き出した本音何か対して気にも留めて無いのだろうか?


それなら逆に助かる話だけど……



どちらにしても、この微妙な空気を引きずりたくない。


僕は話題を変えるつもりで、再び歩きだした。


「…さ、そろそろ進もう。ゲームは始まってるし」


アリアは軽く頷き、隣に並ぶ。


森に吸い込まれる様に奥へと進む。


──集中しなきゃ。



ゲームは既に、始まっているのだから。

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