第4話
どうしたんだろ。
私は不思議に感じていた。
けんちゃんは2回戦の後の夕食にも、次の日の朝食にも顔を出さなかった。
でも昼食でやっとけんちゃんを見かけれたのに、その手には痛々しい包帯が巻かれていたのです。
私は心配になって、どうしたの?と訊ねてみたけれど
ちょっとね…と、曖昧な態度ではぐらかされてしまった。
──彼の振る舞いが、どことなくよそよそしく感じるのは
私の気のせいなのでしょうか…?
「頂きまぁす」
ご飯の前に手を合わせるのは昔からの敷きたり事だから、ここでもずっと続けている。
始めは周りにいる人も訝しげに見つめてきたが
もう慣れてしまっているのか、反応を示さない。
こんな時、けんちゃん以外に話す人がいない自分に軽い寂しさを感じてしまう。
──てゆうか、けんちゃん達以外の人々は誰も言葉を交わさないし、つるんだりしていないのだ。
だから彼らの存在は正直、目立ってるんだけど……
「私も友だち出来たら良いのになぁ」
楽しそうに言葉を交わすけんちゃん
ちょっと羨ましい。
「あ」
ふと、いつもけんちゃんの隣にいる男の子と目が合った。
無口で涼しげな瞳で──少しけんちゃんに似てる子。
私は何となく、手を振ってみた──が、彼は値踏みをするかの様な視線でこちらを一瞥し、フッと瞳を逸らしてまた食事を始めた。
私は行き場の無い腕を気まずげに机に下ろす。
──もしかして、嫌われてる…?
そんな思いが頭によぎり、同時に自分のした行為が酷く恥ずかしく思えた。
てゆうか、元々あんな性格なのかも知れないし、さして私に興味が無いだけな気もするけど……
それでも、何か宙ぶらりんって言うのかな…、空中に放り出された思いをヒョイって避けられるのは虚しく感じる。
私は軽い溜め息を吐いて、食堂から出た。
──そして次の日の朝。
今日は3回戦
参加者は皆、どことなく緊張した面持ちで食堂へと入って行く。
ここには27名、合計325名の参加者が残っている、って一昨日話してた気がする……
てゆう事は、勝ち残ればいつか違う会場の参加者とも戦わなければならないって事…?
私は不安でたまらなかった。
みんなの食事も中盤に差し掛かってきた頃、突然に音声が流れ出す。
中央を見ても、女性はいない。
「──皆様、お早う御座います。昨日はいかがお過ごしでしたか?よく眠れましたでしょうか?早速ですが、1時間後に3回戦を開始致します。ちなみにゲーム会場は──別の世界で行わせて頂きますので、あしからず。ルールの説明もそちらでします。では、失礼…」
決まりきった挨拶と簡潔な説明を淡々とこなし、ブチッ…と放送は切れた。
ザワザワ…
私は神妙な面持ちで、放送で説明された内容を頭の中で繰り返す。
えぇと…
「──別の世界…って言った……?」
何をファンタジックな…と、思うと同時に、あぁそうなんだって納得してしまう自分もいる。
確かに前の私なら、世界は1つだけだと笑えもしたけど、今は違う。
──現に私は有り得ない方法でここに移動したし、今思えば、2回戦でいきなり闇の中に包まれたのだって充分、非現実的な事なのだから……。
否定したって仕方ない。
私は半ば開き直りな気持ちで、今ある現実を受け入れた。
──静かに遠くを見据える。
「うん…大丈夫」
スゥーとゆっくり深呼吸をした後、コップに水を注ぎ食事を再開させた。
この時はまだ、気付かなかったのです。
砂のお城が水に流され、徐々に崩れ始めている事に……。