〜第4章〜第1話
僕は部屋に戻らず、自分の番号の席に座り込んで瞑想をしていた。
限りない静寂
暗闇の中と違うのは瞼を開ければ光が見えると言う事。
「瑞希 賢治様」
目を開けて確かめるまでもなく、僕は返事をする。
「…何でしょうか。案内人様」
たった2日だが幾度となく聞かされ、発せられれば耳にまとわりついて離れない無機質な声の主。
参加者を無情に導く執行者だ。
「部屋にお戻りになられないのですか?夕食まで、後3時間はありますよ」
「居ては迷惑、って仰りたいなら立ち去りますが」
瞳を閉じたまま、感情を籠もらせるでもなく、低く呟いた。
「──それが本当のあなたですか。白崎 桜雪様と居られる時とは、ずいぶん物腰が変わるのですね」
瞬間、鋭く睨みつけ案内人を威嚇する。座っているため、見上げる形になるのが気に喰わないが、女性は気にするでも無く淡々と続けていく。
「寂しい、と思ってらっしゃるのでは?彼女と余りにも意識が違う、自分の姿に……」
「はっ?奇妙な発言は控えて貰えます?桜雪がトラウマを乗り越え成長する。何で、俺が悲しむ必要があるんですか」
口だけで笑みを作り、小馬鹿にした様に否定する。
──きっと今の僕を知り合いが見れば、別人じゃないの?と目を疑ってしまいそうになるだろう。
広い食堂に、2人の淡々とした声だけが響き渡る。
案内人は瞼を少し伏せ、非難めいた声でゆっくりと言った。
「でも、あなたは確かな壁を感じた筈です。そして白崎 桜雪様が壊した様に、自身もそれを壊す気は……無いのでしょう?」
真剣な表情になりつつある案内人とは対照に、鬱陶しいな、と感じて眉間にしわを寄せる。
だから、何だよ。
「あんたに関係ないだろ?勝手に詮索すんなよ……」
僕は重々しげに腰を上げ、真っ直ぐドアへと向かう。
こんな所に居る位なら、部屋にいた方がマシだ。
「瑞希 賢治様」
案内人の声は、また元の無機質な音声に戻っていた。
「闇に引きずり込まれない様に。1人で歩むには…あなたは危ういのですから」
それに返事は返さず、扉を閉める。
──あの案内人は、心が読めるのか?
恐ろしいぐらいの、タイミングで──まるで、こちらの全てを理解しきってるかの様な口調。
そして、何故気に掛ける?
真意が読めない案内人に警戒を覚えながらも
僕は長い長い階段を踏みしめる様に、登って行く。
“寂しい、と思ってらっしゃる……”
「──黙れ!!」
石の壁を手で叩き付ける。
石のかけらがポロ…、と小さく落ち、腕をかざせば赤く腫れ上がった手はうっ血しほんのりと滲み出ていた。
それを苦々しい思いで見つめる自分。
──自我が揺れて
傷を負うのは、僕か君か
冷たい汗をこぼしながら、よろよろと部屋に向かう。
世界は歪み、色を変えた。
“こんにちは”
気付けば潜伏していたもう1人の僕が、自分にも抑え付けれない所まで迫っていた。