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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
31/77

第8話

「これが全部、やっと思い出した事」


話していく内に彼女の顔は血の気を取り戻し、震えも収まっていた。


「けんちゃんは始めから知ってて…私が傷付かない様にって、ずっと黙っててくれてたんだね」


穏やかに笑う桜雪。


──でもきっと、内は悲しんでる。


「桜雪」


「私弱いねっ、1人だけ忘れて楽になってたんだもん!お母さんもお父さんもそんな話しなかったし…全然、気付かなかったなぁ〜」


「桜雪」


語尾を少し強める。


「だから、剣道してた時スッゴく恐かったんだよね。思い出しそうになるから……。ごめんね!私、けんちゃんの事も少し責めてたみたい。あ〜あ…本当に子どもだったなぁ〜」


「──桜雪!もういいからっ」


「……だって」


桜雪は目に涙を溜めて、こちらを見詰める。


「もう…自分を責めるなよ。桜雪のせいじゃ無いだろ?嫌な物を無理して受け止めなくたって良いだろ。無かった事にすれば良いんだから」


「え……?」


「──見なかった事にすれば良い。それで良くないか?自分を底に追い込んだって傷付くだけだろ。…桜雪のご両親もそう思ったから、何も言わずに黙ってきたんじゃないの?」


僕は努めて冷静に、もっともな意見を述べたつもりだった。


だが彼女の表情からだんだんと浮かんでくる否定の2文字を感じとり、僕は少し戸惑った。


「違うよ…嫌な事から逃げてたって、いつかは限界が来るに決まってる。目を逸らしちゃいけないんだよ……苦しいけど乗り越えなきゃ」


痛々しいその瞳が、真っ直ぐ僕を貫いて離さない。


「私もう逃げない、お兄ちゃんの事も忘れたりしない。……ありがと、けんちゃん。私ね、今までずっとけんちゃんに頼り過ぎてた。だから心配しちゃうんだよね。もう大丈夫だから、良いんだよ…」


それは自立


それは羽ばたき


桜雪はもう、逃げる事しか出来なかった7歳の子供では無いのだ。


「けんちゃん?」


桜雪は自分で作った重い壁を自身の力で崩し、光を浴びた。


記憶を取り戻したのだって、彼女がトラウマを乗り越えようとずっと葛藤してたからだろう。


──その結果、彼女は闇を抱えながらも前に進もうとしている。


「良かったね…でも無理しちゃ駄目だよ。桜雪らしく頑張れば良いんだから」


「うんっ」


たけど、僕は君のように前に進む事は出来ない。


僕の孤独は


僕だけの物



「皆様、中央のスクリーンをご覧下さい」


突然、例の無機質な女性の声が参加者を引き付けた。


スクリーンには、325/1000と言う文字が大きく映し出されている。


「これをもって、第2回戦を終了したいと思います。尚、今回のゲームは2人1組で争うゲームですが、他会場では参加者が奇数の場合もありましたので、その場合は余った方同士で組ませて頂きました。よって、2回戦の勝者は325名となります。では解散致しますので各部屋にお戻り下さい。夕食は6時半からですので、時間厳守で。では、失礼します」


女性の一礼を合図にゾロゾロと勝ち残った参加者は帰っていった。


「私も部屋に戻るねっ!またね」


「うん…」


ひらひらと手を揺らす満面の笑顔の彼女を、僕は暗澹とした思いで見ていた。


遠ざかる後ろ姿を見つめながら


心まですれ違っていくのを感じていたが、その心情は酷く穏やかで、ふちの無い水の様にどこまでも“動”が無かった。



──君となら、上手くやっていけると思ったんだ。


本当に大切な女の子


好きな気持ちに嘘何て1つも無かった。


──でも世界は崩れ始めたのだ


むしろ必然の様に。



君との、子どもの様に幼くて楽しかった歩みはここで終わりだ。


出来るならずっと一緒に心が通じ合えたらと思っていた。



「……さようなら、愛しい人」


誰もいない空間に、独り小さく呟いた。


この道は


誰とも歩めない。

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