第7話
こんにちは。
休日なのでもうちょっと更新しますが、今から高校の剣道部に出向いて稽古をしてきますので
次の更新は夜頃に出来たらなぁと、思っています。
では。
モノクロの写真のように
世界が色褪せて、時が止まるのを感じた。
息を吸うのも忘れ、只、けんちゃんの顔を見つめる。
「何…?」
たったそれだけ、絞り出すように言うのが精一杯だった。
「…ごめんなさい」
──でも、私は知ってい。
けんちゃんがこんなタチの悪い嘘何て言わないって事。
だから
だから信じたくない
「嘘だよっ何で?何でお兄ちゃんが死ぬの?!」
「さゆちゃ…」
「何でけんちゃんそんな事言うのっ?変な事言わないで!!嘘付く何て大嫌い!!!お兄ちゃんは死んだりなんか…ゲホッゲホゲホ!…ぅえ……っ」
「さゆちゃん!」
痛い 痛い
ズキズキと痛む胸が熱を持ちながら、体に襲い掛かる。
苦しくて涙が出た。
慌ててナースコールを押すけんちゃんと
苦い顔で駆け込んで来たお医者さんを微かに見た気がした。
──ねぇお兄ちゃん
死んだ、何て嘘だよね?信じなくて良いんだよね??
“ごめんな”
何で謝るの…?
謝らなくたって良いから、会ってよ。
そんな言葉を聞きたい訳じゃないんだから……ねぇお兄ちゃんってば。
黙らないで、応えて……
「大丈夫です。安静にしていれば、順調に回復しますよ」
「そうですか…っ本当にありがとうございます!!」
目を赤く腫らしたお母さんの横顔を、私はぼんやりと眺めていた。
痛みは感じない。
「桜雪っ目が覚めたのね!」
意識を取り戻した事に気付いた母が、抱きつこうとするのをやんわりと拒否し、私は訊ねた。
「お兄ちゃん、死んじゃったの?」
「…ぇ?」
お母さんの、一瞬うろたえた表情を見逃さなかった。
「──どうして…どうして黙ってたのっ」
母はまた涙をポロポロと流し、両手で顔を覆い隠しながら、ごめんね、と消え入る様な声で謝り続ける。
「…ぁの子を責めてしまった……桜雪の姿見てっ、お父さんも紅葉の事を殴って…私も酷い言葉を…っ」
──何でお母さんが泣くの?
泣きたいのは、私の方だよ……っ
「桜雪にはどうしても話せれなかったの。許して……ごめんなさいっ」
聞きたくない。
何でみんな…みんな謝るの?
謝るぐらいだったら、始めからしないでよ。
「何で…余計な事するの?私は気にしてなかったのに……っ酷い!!みんな…ぅっ…ケホッゲホゲホッ」
そして今までポカンと眺めているだけだったお医者さんが、我にかえった様に私の背中をさする。
「桜雪ちゃん、もう喋っちゃ駄目だ…」
「…っ大嫌い!!お兄ちゃんに何言ったのっ?ゲホッ…何でお兄ちゃ…んが死ななきゃいけないのっ……」
「桜雪ちゃん、もう止めて!賢治君は自殺したんだ!!」
ビクッ
体が固まる。
「桜雪ちゃんが病院に運ばれてから、2日後に……。ビルから飛び降りて──即死だった。手の施しようも無かったんだよ……」
言った後、目を瞑ったまま片手で顔の上半分を隠して、天を仰いだ。
それは幼い私には難しい内容過ぎて、所々理解が出来ない部分もあったけど
お兄ちゃんが自分で死を選んだんだ、と言う事だけは分かってしまった。
そしてそれは私のせいなんだと言う事も……
気が付けば涙をこぼしていた。
それが何の涙か、私は知らない。
お兄ちゃんの死に?
自分自身に対する無力さに?
お兄ちゃんを追い込んだ両親に対する憤りに?
分からない。
全部かも知れない。
でも、知りたくもなかったの。
大きな声を出して、その場でしゃくり上げる私の嗚咽だけが室内に響いた。
これほどの悲しみを表す何て出来ない。
そしてきっと心が耐えきれない。
奥底に沈めなきゃ
思い出さない様に
存在も忘れて
“始めから私にお兄ちゃんはいない”
そう信じ込ませ、重く蓋を閉じたの。
──じゃなきゃ、世界が壊れそうだったから。
そして次に目覚めた時は、お兄ちゃんとの思い出全てを消去していた。
“じゃあね”
倉庫の中で植え付けられた、暗闇のトラウマだけを心に抱え残したまま─……。