第5話
私事ですが、市総体がいよいよなので部活で思いっきり疲れて、帰ったら即眠る生活が2〜3日続いて更新が遅れました;
しばらくは更新を少し緩めるかもです。
全ては偶然だった。
誰の責任とか、もうそんな次元じゃ無くて
只、痛みを閉じ込めるしか出来なかったのです。
重石をつけて記憶を底に沈めなきゃ
──世界が壊れると知っていたから。
うっすらと光が差し込む。
動いたら痛みが襲うと学習していたから、私はカーテンを引いた看護婦さんの様子をジッと観察していた。
──あの日、病院で目を覚ました時から既に2週間が経っていた。
つい3日前から個室を移り大部屋へ移動する事となったが、まだ怪我が治るのに時間が掛かるんだ、とお医者さんが申し訳なさそうに言っていた。
退院まであと半月
2学期はとっくに始まっていた。
「あら、桜雪ちゃんおはよう。今日はとっても良いお天気だね」
「うんっ、良かったです!今日はずっと晴れますか?雨降ったりしない??」
私は窓の外と看護婦さんを交互に見ながら、早口に訊ねた。
その様子に少し首を傾げながら、不思議そうな顔で見つめる看護婦さん。
「うん…1日中ずーっと晴れだよ。でも桜雪ちゃん、どうしたの?今日は特別な日??」
「ふふっ特別な日ぃ〜♪、今日は運動会なんだよ!みんな頑張ってダンス踊るんだぁ……」
本当はね、私も参加したかったけど
それは言わない。
「そっかぁ…じゃあ応援しなきゃね!みんな桜雪ちゃんの分まで頑張ってくれるよっ」
看護婦さんの笑顔が眩しくて、私も思いっきりの笑顔でピースを向けた。
「じゃあ、またね。私も運動会が成功するように祈ってるね!」
私は手をヒラヒラとさせて、病室から出て行く看護婦さんに微笑み続けた。
パタン…
──あの日以来、お兄ちゃんと会う事は無かった。
何をしてるのか、今どこにいるのか……どうして教えてくれないの?
「桜雪。隣の綾子さんがね、フルーツを桜雪ちゃんに、って下さったの。賢治君からも手紙が預かってるわ」
「え、手紙…?読ませてっ」
思わず声が上滑りなのが恥ずかしいけど、素直に嬉しい。
けんちゃんとの最後の関わりは、あの声だけだったのだ。
夏休み中は面会不可能だったし、大部屋に移ったのは2学期が始まってから
すごく、けんちゃんに会いたかった。
「ふふ…分かったわ。フルーツ切っておくからね」
真っ白な封筒に星のワンポイントがあって、真ん中に大きな字でけんじって書かれてある。
私は逸る気持ちを抑えるように、手紙を開いた。
さゆちゃんへ
こんにちは。お元気ですか?ぼくは元気にみんなと遊んでいます。おみまいに行けれなくて、とても悲しいです。でも、明日はふりかえ休日で学校がないから、会いに行けます!そしたら、話したいことがあります。さゆちゃんのお兄さんのことです。それから、今日の運動会がんばるからおうえんしてくださいっ
PS:早くさゆちゃんに会いたいです。
けんじより
「明日!けんちゃん来るんだっ」
口元がつい緩んでしまうのを、嬉しさが爆発するのを隠しきれず、何度も何度も同じ文章に目を通す。
初めて会った日からこんなに長い間、声も顔も見れない日々なんて無かった。
それ程に私の隣には、けんちゃんが、けんちゃんの隣には私がいるのが当たり前だったのだ。
──当たり前過ぎて、近くにいるのが必然って言うか……何て言うんだろ?あの頃の私とけんちゃんの中ではそれがとても自然な事で、ちょっとでも離れてる何て考えた事も無かったから……
──無かったから?
私、何て考えようとした?
「桜雪、どうしたの?」
「えっ?!」
お母さんはいったいいつから入っていたのか、隣で私の様子を不思議そうに観察していた。
「ポカンて口開けてたから……、そんなにビックリする事書いてあったの?」
そういって手紙を覗き込んできたので、急いで封筒にしまい込み、ヒミツだよ、と笑った。
でも、ちゃんと笑えてたのかなぁ?貼り付けた様な笑顔をお母さんは不信がっていたかも……
「あら、はいはい。じゃあフルーツ食べましょう」
「うん」
それに、お兄ちゃんの話がある、って書いてあったもん。
──結局、お母さんもお父さんもお兄ちゃんの話になると口を噤んで、話題を変える。
今思えば、小1だったあの頃の私をこれ以上傷付けないように、って必死だったのかもしれない。
それでも、私にそんな気持ち何か分かる訳も無く、もしここで手紙を読まれればけんちゃんに、お話ってなぁに?って訊きかねないと思ったから隠したのだ。
──もっとも、小1の私にそんな高度な思考があった訳では無いから、多分、何となく見せたらいけないな、って程度の思いだったけど。
日の光が、眩しく照りつける。
曇り1つ見せない青い空を眺めながら、あの日もこんな良い天気だったなぁ、ってぼんやり考える。
「まだ暑いね、カーテン閉めようか…」
こんなに良い天気なのに、とっても悲しくなるのは何で?
──私が運命の日をしるのは、次の日の事であった。