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REAL GAME  作者: 野澤 ちか
27/77

第4話

目覚めるまでの空白を私は知らない。



──四方に色づく白い空間


薬品の臭い


隣で眠るお母さん


…ここは、どこ?


様子を見ようと上体を起こしたら


ズキッと胸が叫んだ。


「桜雪!」


缶コーヒーを片手に携えた父が、私を目で捉えたと同時に駆け寄って、ベッドの上から包み込む。


「お父さん…息が出来ないよ」


「ぁ…ごめんな。そっ、それより体は痛まないか?今、お医者さん呼んでくるからな。優里、優里起きなさい!」


「何…誠二さん。どうかしたの?」


「桜雪が起きたんだ!」


瞬間、バッと顔を上げるお母さん


「桜雪…良かった!もし目覚めなかったら……っ」


涙をこぼして私の髪を優しく撫でる。


「ごめんね…心配かけて。大丈夫、痛くないよ」


私はこれ以上、両親を心配させたくなくて嘘を吐いた。


肺がズキズキと痛み、首筋に冷たい汗を感じるが


必死に我慢して、笑いかける。

「……お兄ちゃんは?」


私は1番、知りたい事を訊ねた。


──私はお兄ちゃんが本当に大好きだった。


それは、7年経った今でも変わらない。



ごめんな桜雪、あの時はちょっとおかしかったんだ


あの時そう言われれば、きっと私は簡単に許してしまえただろう。



大切なお兄ちゃん


あの痛みも


きっと壊せれた。



だけど、父も母も問いに応えはしなかった。


「ねぇ…どうしたの?」


全身から汗が吹き出る


汗ばんだ寝間着が酷く重たく感じた



けれど、それは夏の暑さのせいだと必死に思い込ませる。


けして、肺の痛みのせいじゃ無い。


「あの…ね。桜雪はまだ知らない方が良いと思うの。今は体を治す事を考えて、ね?もう5日も眠ってたのよ……」


お母さんは言葉を選ぶ様に私を諭したが、そんなの理由にならないと思った。


──お母さんは私をごまかそうとしてる。

「お兄ちゃんは…悪くないっ何かあったんだよ!!お兄ちゃんを怒らないで!」


私は叫んでた。


ここで諦めたら、全てが私の知らない所でうやむやに終わらせられる予感がする。


──必死に庇うのは


父も母もお兄ちゃんが私を傷付けたと思ってるんだって事、頭の中で理解してたから。


「ふ…ゲホゲホッ」


骨が軋む。


痛みが止まらない



「どうされたんですか!」


白衣を着たお医者さんが、血相を変えてこちらに入って来た。


「桜雪ちゃんは肋骨が肺に突き刺さっていた状態で、命も危なかったんですよ。手術が終わっても安静にしてなきゃいけないんです!あまり興奮させないであげて下さい」


ピシャリと注意をし終えた後、手早く私の様子を観察する。


「大丈夫かい?あまり大声を出しちゃダメだよ」


先ほどの厳しい態度とは違った、フワリと風に乗る様に優しい声で話し掛けられる。


そのセリフに思わず、はい、と素直に頷いていた。


「窓が無いから分からないかもだけど、今は夜中何だ。他の患者に迷惑がかかるかもしれない、お話は明日にして、今日はゆっくり休みなさい」



「はい…」


さっ、お2人も仮眠室を開けますから、桜雪ちゃんも電気を消すよ、とスイッチに手を掛ける。


「お休み」


「お休みなさい」


パタン、と扉が閉まる。


私はゆっくりと瞼を閉じた。

神さま


この胸のざわつきは何なのですか?


──返事は無い。


お兄ちゃんは、どうしてあんな事したんですか?


やはり、沈黙だけが室内を占めた。


どうして どうして


浮かぶ疑問は絶え間なくて


自分で意味を知れる程、歳も経験もなくて


──この気持ちに名前を付ける事が出来ない。


私は一筋の涙を携えながら


優しい兄の姿を思い出していた。

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