第2話
黒ずくめの男たちに半ば強制的に車に乗せられ向かった先は、見たこともないような大豪邸。
玄関の前で車を降りようとしたら、
「ここは門なので葛城邸はもう少し先です」
などと言われ(ということは、門から葛城邸までの間は庭ということになる)、とんだ辱めを受けた。
「羽月様、着きました」
車のドアを開けて降りようとしたら、黒ずくめの男Aに先にドアを開けられてしまった。
「いいよ別に、そんなことしなくても」
男は羽月の話など聞く必要がない、とでも言うように
「仕事ですから」
と返した。
先程通った門もかなり重そうだったが、玄関の扉さえも重そうだ。なぜ推定なのかというと、やはり黒ずくめたちが扉を開けてくれているから。
羽月はしょっぱなから、この過保護すぎるくらいの扱いに嫌気がさした。
「ようこそ羽月様」
扉を開けてまず目に入ったのは広すぎる玄関と、この声の主。
「羽月様の世話係を務めさせて頂きます、滝川と申します」
彼は丁寧に頭を下げると、また元の直立不動の体勢に戻った。動くたび彼の黒髪がなびく。
格好は映画に出てくるような執事そのものの格好をしているが、そう見えないのは、彼が若く、整った顔をしているせいだろう。
「おまえらは下がれ。羽月様、お疲れでしょうからお部屋にご案内いたします」
自分より年上らしい黒ずくめをおまえら呼ばわりしているのを見ると、滝川は黒ずくめ達よりも上の立場なのだろう。
広い邸内を案内している間、滝川は通ってきた部屋を事務的に説明し、あとは口を閉ざしていた。
羽月の部屋(になった部屋)は、昨日まで住んでいた部屋の三倍は広いが、どこか寒々しい。
ベッドもキングサイズだったが、やはり慣れた自分専用の布団のほうが寝心地がよかった。
「・・・では、夕食の時間になりましたらお呼びいたします。それまでおくつろぎ下さい」
滝川は私を玄関で出迎えたときのように丁寧に頭を下げた。
これは私情だが、この滝川という男、あまり好きではない。さっき玄関で顔を合わせてから今まで、一度たりと表情を変えていないのだ。意図的かは別として、見ているこちらとしてはあまり気持ち良いものではない。
「・・・何故貴女なのでしょうか」
不意に、事務的なこと以外では口を開かなかった滝川が喋りだした。・・・あまり良いことではなさそうだけれど。
「正直、八重蔵様がなぜ貴女を選ばれたのか、理解致しかねます」
「なっ・・・・!」
「どうか葛城の名を汚すことの無きよう」
最初から最後まで、気に入らない男だ。
滝川はなにもなかったように
「失礼いたします」
と言って部屋を後にした。
屈辱的。
今の羽月に一番当てはまる言葉だろう。
しかし、これくらいでめげるような羽月ではない。
(負けるもんか・・・・)
葛城家に、宣戦布告である。