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私じゃ駄目なの?

作者: 狂咲狂三
掲載日:2026/04/21

ヤンデレが出てきます。

玄関のドアが閉まる音で、帰ってきたと分かる。時計はもう九時を過ぎていた。

「ただいま」

少しだけかすれた声。毎日同じ時間、同じ調子。

「おかえり」

リビングから返すと、姉は一瞬だけこっちを見て、すぐに目を逸らした。

「ご飯、先に食べてていいから」

「姉さん...」

その声は届かなかった。

姉さんはそれだけ言って、自分の部屋に入っていく。今日も、話せなかった。

同じ家に住んでいるのに、顔を合わせる時間はほんの数分。

小さい頃は、もっと隣にいたはずなのに。昔の姉は、よく笑っていた。

宿題を見てくれたり、くだらない話で笑ったり、寝る前に「おやすみ」と言いに来たり。でも今は、仕事で疲れて帰ってきて、部屋にこもるだけの人。

仕方ないって分かってる。分かってるけど少しだけ、寂しい。

「ねえ、その人って彼女?」

 放課後、帰り道。

隣を歩くクラスメイトが、からかうように笑った。

「違うって。ただの友達」

「ほんとに?」

「ほんとだって」

軽く笑って流す。それだけの、なんでもない会話。

でもその時、ふと視線を感じて振り返った。誰もいない。

気のせいか、と思ってそのまま歩き出した。

夜。

リビングの電気をつけると、ソファに姉が座っていた。

「びっくりした~姉さん起きてたんだ。」

珍しく、まだスーツのまま。

「うん」

短い返事。いつもならもう部屋にいる時間だ。

「どうしたの?」

そう聞くと、少しだけ間が空いた。

「今日、誰といたの?」

不意打ちみたいな質問だった。

「え?」

「帰り道。楽しそうだった」

心臓が、ひとつ遅れて跳ねる。

「……見てたの?」

「たまたま仕事が早く終わって帰ってたの...」

その言い方が、やけに引っかかる。“たまたま”にしては、具体的すぎる。

「女の子だったよね」

「……まあ、クラスメイトだし」

「ふーん」

姉は視線を落としたまま、指先を軽く握ったり開いたりしている。

落ち着かない時の癖だ。昔から、変わってない。

「最近、あんまり話さないね」

「そっちが忙しいんだろ」

「それでも」

そこで言葉が止まる。何かを飲み込むみたいに。

「私、待ってるのに」

小さな声だった。でも、はっきり聞こえた。

「帰ってきても、部屋にいるし」

「疲れてるんだよ」

「分かってるよ」

「少しでも良いから声掛けて欲しかった。」

即答だった。分かってる。でも、それでも。

そう言われてる気がした。姉が立ち上がる。

一歩、二歩。ゆっくり距離を詰めてくる。

逃げる理由はないはずなのに、なぜか足が動かなかった。

「他の子とは、普通に笑うんだ」

「……それは」

「私の前だと、あんまり笑わないのに」

その声は責めているというより、確かめているみたいだった。

自分がどう見えているのかを。手首を掴まれる。

強くはない。でも、確実に離さない力。

「ねえ」

 顔を上げた姉の目は、少しだけ潤んでいた。

「私じゃ、ダメなの?」

問いかけなのに、答えはもう決まっているみたいな言い方だった。

距離が近い。近すぎる。昔なら、こんなの普通だったのに。

今は違う。

「……ダメとかじゃなくて」

「じゃあ何?」

すぐに返される。逃げ道を塞ぐみたいに。

「俺、別に誰とも——」

「嘘」

遮られた。

「さっき、すごく楽しそうだった」

その一言に、何も言えなくなる。

「ねえ、私よりあの子がいいの?私は1人の男として好き。」

 さっきよりも、少しだけ近くで。

「ちゃんと、こっち見てよ。私を受け止めてよ。」

視線を上げると、まっすぐに見られていた。

怒りじゃない。悲しみでもない。置いていかれるのが怖い、みたいな目。

ずっと一緒にいた人なのに。こんな顔、知らなかった。

心臓がうるさい

「僕の初恋は姉さんだった。」

気づいたら、そう言っていた。自分でも分からないまま。

姉は少しだけ驚いた顔をして、そして—ほんの一瞬だけ、安心したように泣いた。

「バカ。バカ、でもよかった」

その声は、どこか危うくて。でも同時に、少しだけ救われたようでもあった。

この人は、最初から変わってなかったのかもしれない。

ただ、俺が見てなかっただけで。






愛は結晶だ。

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