転生白雪姫〜やっと来た王子様は口が臭かった
《今日も残業か・・・》
ブラック企業に勤め始めて早3年。
もう3ヶ月も朝から深夜まで、
休みなく働いている。
《終電に間に合うかな・・・》
横断歩道の信号を見る代わりに、
自分の腕時計に目をやった。
その時、フラっと意識が遠のき、そのまま・・・
*
「はっ」
茜は一気に息を吸いこみ、意識と取り戻した。
自分の手のひらとジッと見つめ、
生きている自分にホッとし、
立ちあがろうと周りに目をやった。
「こ、ここ・・・どこ??」
キョロキョロとあたりを見渡し、
ここが、西洋風のお屋敷であることは理解できたし、
玄関広間につながる階段にいることもわかった。
右手には雑巾。左手にはバケツ。
「??!へっ???」
茜は少し大きめの声で混乱を口にした。
すると、階段の上の方から
「白雪!!!!!!
ちゃんと手を動かしなさい!!!
義母の言うことは絶対よ!!」
と怒鳴り声が聞こえた。
声のする方に目をやると、そこには、
煌びやかなドレスにギラギラした宝石を身につけた
ケバケバしい化粧の中年女性がいた。
瞬時にブラック企業で不必要に身につけたスキルが発動した。
怒鳴られたら即謝罪。
そしてすぐに手を動かす。
無意識に両手に持っている道具から
掃除をしなければいけないことには本能で気づいた。
状況理解の早さや勘の鋭さも過労の中で生き抜くスキルの一つ。
掃除をしながら、茜は頭をフル回転させた。
《これって、よく転生ってやつ??
つまり私は死んで、物語の中へ転生したのね!
と言うことは・・・
やったー!
もうあの会社に行かなくていいなんて最高すぎる!!》
茜はニヤニヤが止まらない。
そして茜はこの世界を満喫すべく、
今の自分が置かれている状況を整理した。
もちろん雑巾で階段を磨き上げながら。
《えっと、さっき私は『白雪』と呼ばれていたわ。
似ても似つかない母に虐げられているようね。
と言うことは・・・
この物語は 〜白雪姫〜 で決まりようね。
よかったー!
仕事が忙しすぎて最近の小説や漫画を知らなかったから、
定番のお姫様物語で助かったー!》
茜は自分が起承転結を全て知っている物語に転生できたことで
ウハウハな人生の幕開けに鼻歌が止まらない。
もちろんこの浮かれた気持ちで手を動かすので、
すでに階段は全段ピカピカに磨き上がっている。
《あー早く義母の刺客に襲われないかなー
森に逃げ込まないと
毒林檎ももらえないじゃん!
王子様のキッス楽しみすぎー 》
「ぐふ、ぐふふふっ」
茜の不気味な笑い声はしばらく続いた。
*
そして、その夜。
早速その時が訪れた。
「きゃーーーーーーー」
どこか嬉しそうに怯えた演技をする茜。
「待て!お前を殺して報酬たんまりもらうんだ!」
少し太ったおっさんな刺客が追いかけてくる。
茜は物語が進んでいくことが嬉しく、
走る足どりにも浮かれた気持ちが影響していることに気づかない。
茜は、学生時代陸上部だった。
本気で走る心地よさを知ってる。
そう、嬉しさのあまり全力で走った茜は、
早々に刺客をまいてしまった。
振り向く茜。
「・・・あれ?
あのおじさん、どこ??」
あたりを見渡しながら、
「おーーーーーい。」
大声をあげても誰も追ってこない。
遥かかなたまで刺客を置き去りにしてしまった。
《・・・まぁいいわ!
次は毒林檎をもらわないと!
あっ!そうだ!
王子様が私に会いにきやすいように
お城の近くの森へ移動しとこーっと ^^》
茜は忍者を思わせるほどの
俊敏さで森から森へと走った。
道中、7人の小人の家を通り過ぎたことに気づかないほどに、
風よりも、
光よりも早く走った。
《このあたりが良さそうね、
ボロボロだけど山小屋もあるようだし!》
*
そして、白雪(茜)は待った。
・・・結構、待った。
せっかちな白雪はあまりに遅い義母にイライラしてきた。
「あーーーーーー遅い!!!
どんだけ時間かけんのよ!」
白雪は暇すぎて、
ボロボロの山小屋を修繕することにした。
山小屋にあった工具で森の木を切り、
木材を手に入れ、ペンキで自分好みに塗る。
今流行りのDIYだ。
内装にもこだわった。
畑も耕した。
山小屋の隅にあった野菜の種を蒔き、
水をやり、芽がでるのを毎日楽しみに待った。
*
ある日。
自作した椅子に腰をかけ、
コーヒーを片手に、畑を眺める白雪。
《ふーーー 今日も天気がいいわねー》
自分だけのたっぷりある時間を
しっかりと満喫できる毎日に満たされ始めていた。
そんな毎日に本来の目的を見失いそうになっていたその時、
待ちに待った毒林檎(義母)がやってきた。
「ごんにぢば」
濁音多めに話す老婆の声が聞こえた。
白雪の目がキラキラと輝き始めた。
「はぁ〜い」
嬉しさがブリッ子女子の猫撫で声に変わる。
「今日は美味しい林檎を・・・」
「是非、くださ〜い!」
老婆の言葉に被せるほど前のめりに
りんごを欲しがる白雪。
りんごを一つ渡して、そそくさとその場を立ち去る老婆。
りんごを手にして、
嬉しさのあまり家の前で小躍りを始める白雪。
「ウッヒョーーー!
おっしゃーーー!」
雄叫びにガッツポーズも加わる。
ひとしきり喜びを体全体で表現し終えた白雪は
冷静を取り戻し、
自作したベットを山小屋から引きづりだし、畑の横に設置した。
雨よけのガラスケースはこの日のために特注していたので、
天気に左右されず可愛い状態で王子を待てる。
そして、一度家に戻り、
シャワーを浴び、
歯ブラシを念入りにした。
髪を丁寧にとかし、
化粧は清純女子風の薄めに。
でも、リップは厚めに。
準備が整ったところで、ベットに寝転がり、
ガラスケースを上に被せた。
「よし!」
少しお行儀は悪いが、
寝転んだまま毒林檎を口にする白雪。
思いっきりかぶりついた林檎は
白雪のほっぺをリスのように膨らませる。
意識が遠のく白雪の表情は
明らかにニヤけていた。
*
ピーヒョロロロローーーー(鳥の鳴き声)
「???」
ゆっくりと目をあける白雪。
「え?」
目をパチクリしさせながら、
ガラスケースの中からあたりを見渡す白雪。
誰もいない。
そう、毒林檎の毒の効果がとても薄かったのだ。
聡明な白雪がそのことを悟るのには、数秒も要しない。
怒り狂った白雪がガラスケースから飛び出した。
しかし、どれだけキレても時は流れていく。
《よし!
こうなったら、王子が来そうになったら
寝たふりをしよう。》
冷静になると、最も単純で簡単な対処法を思いついた。
王子がくるまでは、自由にスローライフを楽しむこともできる。
我ながら良き案を思いついたと御満悦な白雪。
とはいえ、一人きりの生活にも飽き始めていた。
その時、どこからともなく真っ白い豚が
白雪の畑の方に歩いてきた。
豚の目が青く光って見えた。
「え?豚!?」
白雪は嬉しくなった。
「わぁ〜。かっわいいーーー!
・・・今夜はトンカツね!!」
そういうと、白雪はそっと豚の背後に回った。
もちろん夕飯のおかずにするつもりだ。
「ブ、ブヒーーーー!」
豚が必死に抵抗する。
「ま、待ちなさい!!」
1人と一匹の格闘はしばらく続いた。
共に体力が底を尽きた頃、
どろんこになったお互いの姿に笑いが起きた。
「ブフッ!!あんた白豚から黒豚になってるわよ!」
「ブヒヒヒ、ブヒヒヒヒヒ、ブヒー」
白雪がお腹を抱えて笑いながら、
「あ〜久しぶりにこんなに笑ったわ、
ありがとう。
ほら、うちへおいで、
体を洗ってあげる!」
といったが
豚は訝しげに白雪を睨む。
「大丈夫!もう食べようなんて思わないわ。
友達になろうって話よ」
豚を安心させるため、白雪は微笑んで見せた。
すると豚は少し考えてから、
白雪の家へ歩き出した。
*
それからというもの
豚と白雪は時々一緒に過ごすようになった。
週に1、2度、白雪の家に遊びに来ては
どこかへ帰っていく。
白雪は言葉も話せない豚に心を許し、
名前もつけた。『ぶーちゃん』と。
会える日は時間が許すまま
豚をブラッシングをし、
畑で採れた野菜を食べさせながら、
体も撫でてやった。
話しかけても相槌しかできない豚が
白雪の唯一の話し相手になった。
豚も白雪と会える時間を楽しみにしているのか、
いつも駆け足で白雪の家へやってくる。
その様子を窓からこっそり見るのも
白雪の楽しみとなっていた。
ある日、豚は自分の瞳と同じ色の淡いブルーの花を一輪咥えて
白雪の元を訪れた。
「私にくれるの?」
白雪が嬉しそうに豚を抱え上げる。
コクリとうなずく豚がほんのり赤くなったように見えた。
「ありがとう」
そう言って、白雪は一輪の花を受け取り、花瓶にさした。
そして、その花を見つめながら白雪は,
豚に自分の転生の話をした。
豚には理解できないだろうと思ったが、
この日、白雪は無償にこの話をしたくなった。
豚に自分のことを知ったもらいたいと思う気持ちが強くなった、
それほどまでに豚は白雪の心の拠り所になっていた。
「・・・だからね、ぶーちゃん、
私は王子様を待っているのよ。
なかなか来ないから、もう来ないのかもね。
でも、とても楽しみにしていたのよ。」
豚を膝に乗せて優しく話しかける白雪に、
豚は耳を立ててじっと聞いていた。
そして、豚は小さな青い目で、白雪の顔を寂しそうに見つめた。
*
それから数日後。
遠くから、馬のかける音が聞こえてきた。
日々の森の生活の中では聞き慣れないその音に
白雪はハッとした。
「もしかして・・・王子様?!」
白雪は急いで畑の横に用意していたベッドに横になり、
目を瞑った。
しばらくすると、2頭の馬の足音が止まった。
するとベッド近くまで歩み寄ろうとする足音と話声が
白雪の耳に聞こえてきた。
「ねぇ、ほんとにキスしなきゃダメなの?」
「王子、これは決まりです。絶対なのです!!」
「つか、なんでオレなの?」
目を瞑っていたもわかる揉めている様子に
白雪は気が気ではない。
薄目を開けて、声のする方を見ると
王子と思しき人物の背中を
騎士と思しき人物が必死に押している。
ブツブツと文句を言いながらも
白雪の前まできた王子らしき人は
自身の顔を白雪の顔に近づける。
《いよいよね!》
白雪はドキドキしながら、唇が触れるのを待っていた。
その時、王子らしき人が小さくため息をついた。
「はぁ・・・」
白雪は彼の感じの悪さにイラッとしたが、
王子は王子なのだと自分に言い聞かせるため、
ひっそりと鼻で深呼吸した。
白雪が深く息を吸い込んだその時、
「くっさ!!」
白雪は、王子の息の臭さに思わず、
飛び起きてしまった。
王子と騎士の顔がギョッとしていたが、
白雪も同じくギョッとした。
3人の沈黙がしばらく続いた後、
この状況を打破しようと王子が言った。
「えっと・・・
・・・
うちくる?」
・・・こうして、〜白雪姫〜の物語通り、
白雪は王子と一緒に城へ向かうことができた。
一行が城に着くや否や、
結婚式への準備が進められた。
結婚へのスピード感は物語のエンディングの近さを感じさせる。
*
次の日。
白雪の部屋へ昨日の騎士がやってきた。
「私はルーウェンと申します。
昨日は突然のことで、ご挨拶できませんで、
失礼いたしました。
今日より王子様との結婚式当日まで、
貴方様の護衛を務めることとなりました。
よろしくお願いいたします。」
そういうと、ルーウェンは深々とお辞儀をした。
白雪もルーウェンにお辞儀を返した。
ルーウェンの白に近い金色の髪とブルーの瞳が
部屋に差し込む光に反射して、キラキラ輝いた。
その姿に見惚れる白雪の顔を
ルーウェンも真っ直ぐ見つめていた。
それから数週間。
王子は白雪の部屋を訪れることはなく、
会話を交わすこともなかった。
「ねぇ、ルーウェン、
王子様は何をされているの?」
「執務にお忙しいのです」
毎日同じ回答をするルーウェンに
白雪の表情が曇る。
白雪も気づいていた。
王子が自分に微塵も興味がないことを。
そして、自分も王子に何の感情もないことを。
「あのね、ルーウェン。
一度、自分の家に戻ってもいいかしら。
大切なお友達がそろそろ心配してる頃だと思うの。
お願いよ。」
城に来てからというもの感情を表に出さなかった白雪が
初めて感情を露わにして
涙ぐみながらルーウェンに頼み込んだ。
その様子にルーウェンは頷くしかなかった。
ルーウェンは城の者たちに気づかれないよう
白雪を自分のマントで覆いながら、
自身の馬の元へ走った。
馬に乗ったルーウェンは、
白雪に手を差し伸べた。
「さぁ!」
ルーウェンの手をとり、
白雪も馬に乗った。
2人の体が思ったより密着していたので、
恥ずかしさのあまり白雪はうつむいた。
《ルーウェンは恥ずかしくないのかしら?》
興味本位に顔をあげ、
白雪がルーウェンの顔を見た。
すると耳まで真っ赤になっているルーウェンの顔が
思ったより近くにあって、
驚いた白雪は思わず体勢を崩した。
「わぁっ!」
馬から落ちそうになる白雪の腕をグッとつかみ、
力強く支えるルーウェンに思わずしがみつく。
「ご、ごめんなさい」
即座に謝る白雪。
「いえ」
護衛騎士としての役割を疎かにしてしまった反省からか
ルーウェンの表情は一気に堅くなった。
しばらく進むと
白雪の家が見えてきた。
「ぶーちゃん、きてるかしら」
白雪は寂しそうに小さく呟いた。
ルーウェンのエスコートで
馬から降りると
白雪は一目散に畑へ駆け寄った。
走り出す白雪を追いかけるルーウェン。
「どうされましたか?」
「見て!芽が出てるわ!」
白雪が嬉しそうにルーウェンに報告する。
ルーウェンは畑を覗き込むと
急に興奮した様子で、
「わっ!ほんとだ!!!
これって、先月一緒に種を蒔いたカブの芽!!?
すげーーー!
早く食べたい!!」
と満面の笑みで白雪の方を向く。
「・・・」
白雪は唖然とした。
その様子にルーウェンは
『しまった!』という表情をした。
《これはもう隠しきれないか・・・》
ルーウェンが覚悟を決めたその時、
「・・・キッモ(気持ち悪いの略)」
白雪から衝撃の一言が飛び出した。
白雪が軽蔑の目を向けるので、
ルーウェンが血の気が引いて固まった。
馬に乗ったあたりからいい雰囲気だと思っていた2人だが、
妄想癖のあるイケメンには興味がないと言わんばかりの
白雪からのまさかの先制パンチ。
「ちょ・・・
ちょっと待って・・・」
動揺するイケメン騎士にさらなるパンチをお見舞いする白雪。
「あの、はっきり言います。
恋人っぽい思い出を捏造するのは
本当に気持ち悪い。」
顔を歪めて不快な思いを前面に出す白雪に
絶句するイケメン騎士ルーウェン。
弁解の余地もなければ、
『キモい』というレッテルを貼られる現状を
何とかしたいという強い思いが
ルーウェンの瞳に火をつけた。
「白雪、これを見てほしい」
そういうと
ルーウェンは青白い光に包まれた。
次の瞬間、『ポンッ』という音がしたかと思うと、
180センチはあろうルーウェンの身長がみるみる小さくなっていく。
そして、ルーウェンを包み込む光が消える頃、
そこには一匹の豚がいた。
「ぶーちゃん!!!」
ここでも、聡明で勘の鋭い白雪の力が発揮される。
「ぶーちゃんはルーウェンで、
ルーウェンはぶーちゃん!」
深くうなづく豚。
「ルーウェンは豚の姿で周囲を油断させながら
森の中の見回ったり、情報を収集してたのね?
そこで私に出会った。
そうなのね??」
「ブヒッ」
そこまで推察できるの!?と驚く豚。
「そうだったのね。
そして、私が王子様を待ってるって話をしたから、
貴方が、息クサ王子を連れてきてくれたのね!?」
「ブ、ブヒーーー」
理解が早いのは助かるが、王子を侮辱するな!
と少し怒る豚。
「ということで、
貴方は私が好きなのね?」
「ブヒッ」
そうそう、とうなずく豚。
《え?いや、え?ちょっ・・・》
慌てた豚は急いで青白い光を起こし
イケメン騎士へと戻った。
そして、
「ちょっと、そこまでは言ってないでしょ!?」
と慌てて訂正するルーウェンに
白雪は
「じゃあ、今から言うの?」
と挑戦的にルーウェンを見つめる。
すると、ルーウェンは ゴホンと小さく咳払いをして、ひざまづき、
白雪に方に右手を差し出した。
「長らくお待たせしました。
僕だけのお姫様になっていただけませんか?」
ウッシッシと言わんばかりの顔で
恥ずかしさを冗談で誤魔化すようにコクリとうなずく白雪。
そして、ルーウェンの右手に自分の左手を重ねた。
赤くなった顔の熱が手からから伝わってしまいそうで、
2人とも照れくさそうに顔を逸らした。
それでも手は離さなかった。
*
それから2人は城へ戻り、王子に事情を話した。
案の定、白雪に気持ちのない王子は2人の結婚に快諾。
ルーウェンは城勤めを続けながらも
住まいは白雪の家へと移した。
そんなルーウェンの日課は、
毎朝白雪より先に起きて、
白雪の唇にそっと自分の唇を重ねることだ。
「さぁ、起きて。白雪。」
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