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メシ屋御一行、地獄へご招待③

それにしても食欲を掻き立てるこの匂い。和洋中、あらゆる料理が所狭しと並んでいる。数百人を捌くには、ビュッフェ形式のほうが最適だ。俺の想像とは正反対だったが、小太郎さんが生き生きと働いている姿にほっとした。


 俺たちを見るなり、小太郎さんはパッと表情を綻ばせてこちらへ駆けてくる。


「久し振りじゃないか、よく来たね」

「お久し振りです、小太郎さん。お元気そうで何よりです」

「君たちもね」

「小太郎よ、我は腹が減っている! ここにある料理は食べてよいのか?!」

「オレも食いてえ」

「再会も早々に食いしん坊だね。私としてもぜひ食べてもらいたいのだが……」


 小太郎さんは困ったように眉を下げる。


「なんせこの時間帯は席が空いていなくて。あと2時間は待ってもらうことになるなぁ」

「なんだと?! 目の前にこれだけの料理があるというのに!」

「くっ、余計に腹が減ってきやがった」

「すまいないね。しかし、今夜は君たちのために食事会を開く予定だ。現世で世話になったお礼をさせてくれ。それまで待てるかい?」

「ほう、気が利くではないか! 仕方ない、我慢しよう」

「ぐぬぬ」


 意外と物分かりのいい龍さんと、まだ納得していない様子の虎之介。しかし俺は見逃さなかった。羅門が「内緒だぜ、お兄ちゃん」と言いながら、龍さんから貰った駄菓子をこっそり虎之介に手渡す瞬間を。強面のくせにお兄ちゃん大好きっこか。


「小太郎さん、食事会楽しみにしてます! 俺、ずっと小太郎さんの料理食べたかったんです」

「そう言われると私も作り甲斐があるねぇ。精一杯おもてなしさせてくれ。まあ、大史くんの腕には劣るかもしれないがね」

「いや、俺なんてまだまだです。ひよっこ同然ですから」


 念願が叶った。ご先祖様が作るメシを食せる機会など、滅多にない。ここに並んでいる料理はもちろん美味しそうだが、食事会ではどのような料理が出てくるのか……むふふ。


 そんな和やかな雰囲気も束の間、とある席の一角から耳を疑うような言葉が飛び込んできた。


「はあ、本当に不味い! こんな料理が大衆に好まれるなんて、世も末というもの! 美食家の僕の口には合わないね」

「左様でございますな、泰山(たいざん)様。このような低俗な料理など、家畜の餌同然です」

「そうでしょう? うちの専属料理人なら、もっと品のあるものを作れるというのに。まったく、不味いったらありゃしない!」

「ええ、おっしゃる通り」


 そんな文句とは裏腹に、彼らは不味いと言いながらも箸が止まる様子はない。皿に大量に盛られた料理はみるみる減っていき、その食べっぷりは実にわんぱくである。一体どういうことなのだろうか。


 食べ終えた頃を見計らって、小太郎さんは彼らの元へ歩み寄る。


「泰山様、この度もご利用いただきありがとうございます。本日の料理は口に合いましたかな?」

「いつも言ってるでしょ、あんたの料理は不味いって。稚拙で単純な味、このようなものは料理とは呼べないの。元人間のくせに偉そうにしちゃって」

「はは、手厳しいですな。しかし、本日も残さず綺麗に平らげてくださいました。お口に合ったようで何よりです」

「だ、だから! 不味いと言ってるでしょう! ……ちなみに、明日はどんなメニューが並ぶのかしら」

「明日はメインに獄産牛のワイン煮込み、獄産鶏の香味揚げ、異国風カリーなどをご用意する予定です」

「そ、そう。気が向いたら来てやってもいい。なんせ僕は忙しいからね」

「はい、お待ちしております」


 小太郎さんはにこやかに頭を下げると、泰山王と呼ばれる男性は「ふんっ」と鼻を鳴らしてお付きと共に去っていった。すると、終始怪訝な表情を浮かべていた虎之介は呆れながら口を開く。


「おい、ありゃなんだ。ずいぶんと失礼なヤツだな」

「あのお方は閻魔大王と並ぶ十王の一人、泰山王(たいざんおう)だよ。専属料理人を抱えるほどの美食家なんだ。あのように憎まれ口を叩いているが、毎日ここへいらっしゃる」

「はん、変なヤツ。不味いと言いながらもとんでもない量を平らげてたぞ。いけ好かないぜ」

「虎之介、“ヤツ”はなく王だ。元人間である私に思うところがあるのだろう。まあ、いつものことだから気にしてはいないよ」


 優美な見た目の泰山王は、確かにプライドが高そうな人だ。いくら優しい小太郎さんでも、心を込めて作った料理に対して「不味い」と言われるのは心中穏やかではないだろう。俺だったら出禁にしてるくらいなのに。


「まあ、気にするな。泰山王は昔からあんな性格だ。この地獄では、亡者の最終的な転生先を決めるのが泰山王。中にはその判決に納得がいかなくて、暴言を吐いたり暴れるヤツだっている。ストレスが溜まってるんだろ」

「へえ、大変な役職なんだな。それでもやっぱり、さっきの言いぐさは引っかかるんだよなぁ」

「我もだ。羅門ならば一喝すると思ったのだがな。腰抜けめ」

「あ? 誰が腰抜けだぁ? あのな、いくら気に入らないヤツでも閻魔様と並ぶ十王に逆らえるわけないだろ。俺様が消される。そうなったら、ここのメシが永久に食えなくなるんだぞ」

「お? 羅門はやっぱり小太郎さんが作るメシが大好きなんだねぇ。ふふ」

「だ、大好きだなんて言ってねえだろ! おい、その気持ち悪い顔で俺様に微笑むな! ……ゴホン、その話はさておきだ。食事会まで時間があるなら、先に処罰場を案内してやる。お前らは特別だからな、獄卒の仕事を体験させてやるよ」

「わ、わあ、体験型アクティビティかぁ。こんなにワクワクしない観光なんて初めてだなぁ……」


 社員食堂での食事を諦めた我々一行は、羅門に連れられて八つの処刑場巡りをすることとなった。正直、行きたくなかった。心の底から。


 地獄では生前に犯した罪によって行き先が異なり、八大地獄と呼ばれる八つの場所へ移される。その行き先を決めるのが閻魔様だ。表の地獄世界とは打って変わり、そこはまさしく想像を絶する世界だった。亡者たちの阿鼻叫喚と凄惨な処刑の様子……炎と血の海が広がる光景には当然言葉が出ない。獄卒たちはチラチラと俺たちの様子を気にしながら、我こそが最恐だと言わんばかりの力みっぷりだ。


 そして羅門の庭である黒縄(こくじょう)地獄では、なぜか大歓迎された。獄卒たちの態度がやけに丁寧だと思ったら、やはり羅門はそこそこ良い役職に就いているらしい。「お前も獄卒にならないか?」と勧められ、渡されたのは1m超えの中華包丁のような武器。重すぎて持ち上がらない俺を横目に、虎之介はその巨大な刃物を片手で軽々と振り回してみせた。化け物かよ。いや、鬼だった。


「さすがお兄ちゃんだぜ! そこにいる亡者を真っ二つにしてやれ」

「ひ、ひえっ! お慈悲を~!」

「は? 出来るわけないだろう。俺は獄卒じゃねえ、人間と共存する身だ。お前たちの仕事は尊重するが、この役目を担うことはできん。しかしだな、この武器はかっこいいから土産に持って帰りたい」

「もちろんだ。お兄ちゃんは器が違うな、どこまでもかっこいい漢だぜ」


 いや、そんな武器いらないだろ。使う場面ないって。そもそも、家に置いておく場所もないってのに。

 しかし、今の俺は地獄の深淵を見てしまったせいでつっこむ気力もない。精神的にくらってしまった俺とは正反対に、龍さんと虎之介は平気そうだ。これが生物としての格の違いなのだろうか。


 さて、この後に食事会を控えてるわけだが……食事が喉を通るか非常に不安である。

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