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幕間
セルディアンは馬車へ戻ると、勢いのまま扉を閉めた。
一人になった途端、思わず自身の両手へと視線を落とす。
そこには、まだアナイスの温もりが残っていた。
――衝動に任せた、自らの行動。
いかなる時も冷静に努める。
それは公爵として、そして騎士団を束ねる者として、義務のようなものだった。
それなのに、アナイスを前にするといとも容易く崩れ去る。
苦い笑みが、わずかにこぼれた。
けれど――
実際に彼女が過ごしてきた空間に触れた途端、込み上げる想いを、抑えることなどできなかった。
あの場所で、どれほどの孤独を抱えていたのか。
想像するだけで、胸の奥が軋む。
ならば――
そのすべてを、この手で埋めたいと、思ってしまう。
「……俺らしくない」
ぽつりと漏れた言葉。
このあと、アナイスを前にどんな顔をすればいいのか迷うなんて。
「……本当に、らしくない」
その呟きは、誰もいない馬車の中に、静かに溶けていった。




