幕間
遠ざかっていく馬車を、ウィルとエドワードは並んで眺めていた。
「ウィル」
エドワードが声をかけると、ウィルは顔を背ける。
「俺は……お前を信じていないからな」
ぼそりと呟くその声は、どこか力を失っていた。
その響きに、ウィルは心の中で自分自身に呆れる。
カーター伯爵家は、長きにわたり憲兵隊長を歴任してきた名門だった。
幼い頃のウィルは、そんな家門に誇りを抱いていた。
兄エドワードと共に剣を振るい、どちらが隊長に相応しいかを競い合う日々。
憲兵隊の制服を纏う未来を、疑ったことなど一度もなかった。
だが、成長するにつれ――
祖父や父をはじめとする歴代のカーター伯爵が、何をしてきたのかを知ってしまった。
皇帝にとって不都合な者に、ありもしない罪をでっち上げる。
そして牢へと送り、正しい裁きが下る前に消していく。
その数は、もはや数え切れない。
信じていた“正義”とは真逆の現実。
その姿に、ウィルは強い嫌悪を抱いた。
そして――絶対に憲兵にはならないと、兄と共に誓い合ったのだ。
それなのに――
父が亡くなり、伯爵位を継いだ途端。
エドワードは、憲兵への道を選んだ。
信じていた兄に裏切られたという事実。
失望と失意を抱えたまま、ウィルはカーターの名を捨てた。
「俺は、あの時の気持ちに変わりはない」
エドワードの呟きに、ウィルは顔を上げる。
「父たちの行いを、今も軽蔑している」
「なら、なんで憲兵なんかになったんだ!」
込み上げる感情のままに声を荒らげる。
だが、エドワードは落ち着いた表情を崩さなかった。
「変えるためだ」
真っ直ぐに、ウィルを見据える。
「カーター家がしてきたことは消えない。……だからこそ俺は、組織そのものを変えるために、この道を選んだ」
その眼差しには、揺るがぬ意思が宿っていた。
それは――共に過ごしたあの頃と、何一つ変わっていない。
本当は、再会した時から気づいていた。
裏切られたと、兄もまた父たちと同じだと決めつけていたが――
もしかすると、違うのではないかと。
カーターの名を捨て、世界を巡る中で多くの人間に出会った。
善人も、悪人も。
その中で見てきた“悪い人間”と、目の前の兄の姿は――どこか違って見えた。
それでも。
素直に認めるには、ウィルの性格は少しばかり捻くれていた。
「……何かあったら、捏造でもなんでもして、カーター家を潰してやる」
顔を背けたまま吐き捨てる。
その言葉に、エドワードは微笑むように口元を緩めた。
「ああ。よろしく頼むよ」
自然と、二人は同じ方向へ歩き出す。
長い間止まっていた兄弟の時間が――
今、再び動き出した。




