83話
「ドーラ家の者たちのことは、我々憲兵隊が責任を持って追及します」
裏路地を離れ、馬車乗り場へと辿り着いたところで、エドワードは真剣な面持ちでアナイスに告げた。
「ドーラ家をセリオンへ送り込んだ人物――それが判明していない以上、彼らの口封じを図る者が現れる可能性もあります」
ドーラ家がセリオンに現れたのは、アナイスの両親が亡くなって間もない頃だった。
誰かが、裏で糸を引いている。
それはもはや疑いようがない。
事故死とされたセリオン侯爵夫妻。
だが、その死には不可解な点があまりにも多い。
それほどのことを成し得る人物が関与しているのなら、ドーラ家を黙らせることなど、造作もないだろう。
真実が闇に葬られることだけは、避けなければならない。
アナイスの胸中を察したのか、エドワードは表情を引き締め、重く頷いた。
「必ず――真実を明らかにします」
「……信用できるかよ」
エドワードの言葉に、噛みつくようにウィルが呟く。
「皇室の犬のくせに」
吐き捨てるようなその一言に、エドワードはわずかに眉を下げた。
それは、痛みを押し殺すような表情だった。
「皇室の関与が疑われているんだ。憲兵隊に任せた途端、真実なんて永遠に闇の中だ」
ウィルは忌々しげに眉を寄せる。
「令嬢。君はどうしたい?」
それまで沈黙していたセルディアンが口を開いた。
「ルヴァルティエの地下牢にも空きはある。――この男を信頼できないのなら、こちらで引き取ろう」
アナイスを見つめるその瞳には、どこか試すような色が宿っている。
アナイスは、静かに目を伏せた。
ウィルの言う通り、皇室の人間が黒幕であるならば、皇帝直属の組織である憲兵隊に任せれば――ドーラ家の存在は容易く消される可能性がある。
――それでも。
アナイスは顔を上げ、エドワードを見つめた。
その瞳の奥にあるのは、揺るぎない責任と覚悟。
「……エドワード卿に、お任せします」
その言葉に、エドワードは静かに、しかし確かな力を込めて頷いた。
「信用するのか?!」
すぐさまウィルが、咎めるように声を上げる。
だがアナイスは、穏やかに微笑んだ。
「だって――ウィルのお兄様だもの」
その一言に、ウィルの動きが一瞬止まる。
しかしすぐに首を横に振り、忌々しげに吐き捨てた。
「お前は、今までカーター伯爵家が何をしてきたか知らないだろ」
「うん。……だからこそ、エドワード卿を信じられるの」
アナイスは、真っ直ぐにウィルを見つめる。
しばしの沈黙。
やがてウィルは、ふいと視線を逸らした。
「……どうなっても、知らないからな」
それだけを残し、背を向ける。
その背中を、エドワードは苦い表情で見つめていた。
だがすぐに表情を整えると、アナイスへと丁寧に一礼する。
「ドーラ家について、何か分かり次第ご連絡いたします」
「はい。よろしくお願いします」
アナイスは柔らかく微笑み、セルディアンへと視線を向けた。
セルディアンは、満足げに口元を緩めている。
その表情は、アナイスの選択を肯定しているかのようで――
アナイスは、胸の奥がそっと温かくなるのを感じた。




