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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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75話


最初に口を開いたのは、カースヴェル側の弁論人だった。


「カースヴェル家は、ノエラン・ルヴァルティエ様の親権を主張いたします。

一人娘マリエン様の忘れ形見であるノエラン様には、より健全な家庭環境のもとで成長していただきたい。

それは、愛する娘を失った祖父母としての、あまりにも当然の願いなのであります。」


同情を誘うような口調で弁論人が語れば、カースヴェル侯爵夫妻は目元を押さえ、涙を拭う仕草を見せた。


その様子に、セルディアンは鼻で笑う。


「……まるで猿芝居だな」


小さく呟かれたその言葉に、アナイスは思わず苦笑を浮かべた。


一方、カリスは静かに手を挙げ、発言の許可を求める。


「“より健全な環境”と仰いましたが、ルヴァルティエ家が不健全であるとは到底言えません。……そして、“愛する娘”との主張にも反論いたします。」


カリスは一拍置き、淡々と続けた。


「マリエン・ルヴァルティエ様が亡くなられた際、カースヴェル侯爵夫妻は葬儀に参列されておりません。それが、“愛する子”を喪った親の行動とは、とても思えません」


「それは、ルヴァルティエ公爵が連絡を寄越さなかったからだ!」


すかさず噛みつくように声を荒げたのは、カースヴェル侯爵だった。


しかし、カリスは表情一つ変えない。


「マリエン様の訃報は、ルヴァルティエ家より正式に送付されております。……こちらが、その写しです」


そう言って、手元の文書を差し出す。

向けられた先は――主判事ではなく、若い陪席判事だった。


「……確かに、正式な文書ですね」


内容を確認した陪席判事は頷き、その書面を主判事へと渡す。


自分が陪席判事より“後に”確認する形となったことに、主判事の眉がわずかに吊り上がる。


だがカリスは、そんな様子など意に介さず言葉を続けた。


「仮に訃報が届いていなかったとしても、公爵家の不幸は帝国中に知れ渡っていたはずです。……にもかかわらず、カースヴェル侯爵夫妻がルヴァルティエ家を訪れた事実はありません」


カリスが同意を求めるように傍聴席を見渡すと、そこにいた者たちは一様に頷いた。


この場の誰もが、あの出来事を覚えている。


直接の報せを受けていない者であっても、その事実は広く知れ渡っていた。


カースヴェル側の弁論人は、すぐさま声を張り上げる。


「確かに、カースヴェル夫妻とマリエン様の間には、誤解によるすれ違いがありました。しかし、だからこそ――

残されたたった一人の孫であるノエラン様には、相応しい家庭環境が必要なのであります!

一人親であるルヴァルティエ公爵家が“相応しい”とは言えません」


その言葉に、カリスは即座に反論した。


「ルヴァルティエ公爵様は、近日中にご結婚を予定しております。

“年老いた”祖父母よりも、よほど相応しい環境であると主張いたします」


「まだ結婚されていない以上、その主張には疑問の余地がありますな」


「先の狩猟大会において、皇帝陛下がお二人のご結婚をお認めになられました。……“稼業”にお忙しいカースヴェル侯爵様は、ご存じなかったのでしょうか?」


カリスの言う“稼業”が、真っ当なものでないことは明らかだった。


毒を含んだその言葉に、カースヴェル侯爵の顔が怒りで歪む。


一方、セルディアンは面白そうに目を細めていた。



「結婚、と言いましても……ねえ」


カースヴェル側の弁論人は、わざとらしく言葉を濁すと、ゆっくりとアナイスへ視線を向けた。


「ただ夫婦が揃えばよい、というものではありません。……お相手のセリオン侯爵令嬢は、長らく社交の場にも姿を見せておらず……精神を病んでいるとの噂もある。

そのような母親のもとで、果たして正常な教育が受けられるのでしょうか?」


言葉の端々に滲む嘲り。

その瞬間、セルディアンの視線が鋭く弁論人を射抜いた。


その殺気を帯びた眼差しに晒され、弁論人は慌てて目を逸らす。

誤魔化すように小さく咳払いをした。


「それに……血の繋がりのない親のもとで生きることの辛さは、セリオン侯爵令嬢ご自身が、誰よりもご存じなのではありませんか?

それこそ……精神を病んでしまうほどに」


再び、アナイスへ向けられる視線。

ドーラ家のことを暗に示すその言葉にも、アナイスはただ静かに微笑んでみせるだけだった。


それまで沈黙を保っていた主判事が、ひとつ咳払いをして口を開く。


「確かに、血の繋がりというものはどうにもならぬものだ。……この点においては、カースヴェル侯爵家の主張を――」


突然、裁判を締めくくろうとするかのような言葉。

その瞬間、傍聴席がざわめきに包まれた。


「やっぱりな……」

「とんだ茶番だ」

「まったく……こんなことが許されるとは……」


皇室の思惑通りに進む、形だけの裁判。


本来は平等であるべき天秤は、常に皇室に都合の良い方へと傾く。

その事実に対する不満と失望が、大法廷の空気を重く満たしていった。


「お待ちください」


凛とした声が、ざわめきを切り裂いた。



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