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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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67話


喧騒を背に、セルディアンは顔を覆い隠すアナイスを抱えて歩いた。

しばらく進んだ後、彼はゆっくりと彼女を地面に降ろす。

アナイスはそのまましゃがみ込んだ。


そばに居るクラヴィスが、何事かと心配するように鼻先を擦り寄せた。


その鼻先を、そっと撫でながらおずおずと視線を上げれば、様子を見守っていたセルディアンと目が合った。


「…っ!」


慌てて視線を逸らせるアナイスに、セルディアンは呆れた様に笑うと、アナイスと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「まさか、口付けされるとは思わなかったな」


そう言うと、アナイスの顎に手を掛け、すっと唇をなぞった。


みるみる内に顔を赤く染めるアナイスの姿に、セルディアンは満足そうに笑った。




「ゴホンッ」


二人の様子を離れた所で様子を伺っていたランスは気不味そうに咳払いをした。


「…公爵様、お客様がお越しです」


ランスの声に二人同時に顔を上げれば、ランスの横には一人の男が居た。


緩く波打つ金色の髪に青色の瞳。

それは、皇族の一員である証。


男の姿を認めたセルディアンは、肩を竦めて笑う。


「なんだ、ジュリアスか。」


「まったく…。人をこき使っておきながら、自分はお楽しみ?」


セルディアンに応える姿は気安い。


ーージュリアス・インペリオス

それは、この帝国の後継者争いから身を引いた、皇子。


「君が、セリオン侯爵令嬢だね」


「アナイス・セリオンと申します」


アナイスは立ち上がると、礼儀正しくお辞儀をした。


ジュリアスは穏やかに微笑むと一つ頷いた。


その立ち居振る舞いから感じられる余裕。


それは、狼を前に怯える皇帝には無いものだった。




「それで?」


ジュリアスが視線を向けると、セルディアンは一つ頷き、ゆっくりと口を開いた。


語られたのは、これまでに掴んだカースヴェル家の数々の悪行。

そして――その背後にいる皇族の存在だった。


ジュリアスは途中で口を挟むこともなく、静かに耳を傾けている。

すべてを聞き終えると、彼は小さく息を吐いた。


「民の手本となるべき者の腐っていく姿を見るのは……本当に残念だ」


独り言のような呟き。

そこに滲んでいるのは、怒りか、悲しみか。

あるいは、その両方なのかもしれない。


その様子を、アナイスは息を呑んで見守っていた。


やがてジュリアスは、いつもの穏やかな微笑みに戻る。


「それで、僕に何をさせるつもり?」


その問いに、セルディアンはわずかに口元を歪めた。


「近々、裁判が開かれる」


低く告げると、ジュリアスは静かに頷く。


「皇室側の人間が判事になるように手を回してくれ」


セルディアンの瞳が、鋭く光った。


「皇室側の人間、ですか?」


アナイスは思わず問い返す。


カースヴェルの裁判は、皇室が裏で糸を引いている可能性がある。


その状況で、裁判の行方を左右する判事が皇族側の人間であれば――

むしろルヴァルティエに不利になるのではないか。


そんな懸念が胸をよぎり、アナイスは不安げに眉を下げた。


その様子を見て、セルディアンは薄く笑う。

まるで、その疑問すら予想していたかのように。

その表情には、揺るぎない自信が浮かんでいた。


「そもそも、今回の裁判はノエランの親権を巡るものだ。カースヴェルは、皇室の力を借りてノエラン――つまり、ルヴァルティエの力を手にしようと企んでいる」


セルディアンの言葉に、ジュリアスが肩を竦めた。


「皇室としても、ルヴァルティエを野放しにしておくつもりはないだろうしね」


皇族の一人でありながら、どこか他人事のような口調だった。


「しかし、だ。カースヴェルの悪事が明るみに出れば……」


セルディアンが続けると、ジュリアスはその先を引き取るように言う。


「共倒れする前に、蛇の尻尾を切り落とすだろうね」


二人は視線を合わせ、くすりと笑った。

どこか楽しげなその笑みは、よく似ていた。


「でも……皇室がカースヴェルを見捨てれば、関わっていると言うようなものでは?」


アナイスが疑問を口にすると、ジュリアスは静かに頷く。


「詳細を知る我々にとっては、ね」


ジュリアスが穏やかな声音ではあるが、含みを持たせてそう答えると、セルディアンは鼻で笑う。


「腐っても皇族だからな。一貴族の言葉だけでどうこう出来るとは思っていない」


その言葉に、アナイスは思わず眉根を寄せた。


目の前で非道な行いがなされているというのに、関わった者すべてが裁きを受けるわけではない。

どうしようもない歯痒さが、胸に広がる。


「まずは、カースヴェルが潰れればそれでいい。今はな」


セルディアンはそう言うと、アナイスの頭にそっと手を置いた。


優しく撫でながら、柔らかな微笑みを向ける。

まるで彼女の胸の内を汲み取り、慰めるように。


その様子を見たジュリアスは、一瞬だけ目を見開いた。


旧友の、思いがけない一面。


だがすぐに、口元を緩める。

その瞳には、どこか嬉しそうな色が滲んでいたのだった。



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