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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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52話


「この事が明るみに出れば、さすがのカースヴェル家も、ただでは済まないでしょうね」


カリスが低く呟くと、ウィルも頷いた。


「とはいえ、この報告書だけじゃ、どうとでも言い逃れができますよね」


これだけのことをやってのける家だ。

報告書一枚で追い詰められるとは、とても思えない。

アナイスは眉根を寄せ、そう呟いた。



顎に手を当て、考え込んでいたセルディアンが、ふと思い当たったようにウィルへ視線を向ける。


「この“医者”の正体は、掴んでいるんだろう?」


確信を含んだ問いかけに、ウィルは肩を竦めた。


「ああ。ただ……権力に仕える奴を引き摺り出すには、フクロウじゃ力不足でね」


「権力には、権力――か」


セルディアンは小さく笑うと、カリスへ視線を移した。


「カリス。フクロウと一緒に行ってこい」


「畏まりました」


即座に頷くカリスの横で、ウィルが露骨に顔を歪める。


「俺に休みは無し、か……」


その嘆きを聞き流し、セルディアンは懐中時計を確認すると立ち上がった。


「私はフォンテ男爵に会いに行くとするか」


「待ってください」


セルディアンの言葉に、アナイスは立ち上がり、彼の前に立ちはだかる。


真正面から視線をぶつけた。


「公爵様。私も連れていってください」


「……」


セルディアンは黙したまま、静かにアナイスを見つめ返す。


その張り詰めた空気に、ウィルが慌てたように割って入った。


「アナ。お前は行くべきじゃない」


アナイスは首を横に振る。

セルディアンから視線を逸らすことはなかった。


フォンテ男爵家には、ミランダ・フォンテ男爵令嬢がいる。

薬に侵され、廃人同然となった少女が。


きっとウィルは、そんな彼女の姿に衝撃を受ける私を案じているのだろう。


「……半端な好奇心なら、やめておけ」


しばらくして、セルディアンが静かに口を開いた。

その瞳には、試すような色が宿っている。


アナイスは、さらに強く視線に力を込めた。


「私も関わった一人です。これは……好奇心ではなく責任です」


二人の視線が絡み合う。

互いの覚悟を測るように。


先に視線を緩めたのは、セルディアンだった。


「……ついてこい」


その一言に、アナイスはほっと肩の力を抜いた。


後を追おうと一歩踏み出した瞬間、ウィルに腕を掴まれる。


「……アナ。お前には、綺麗なものだけを見ていてほしい」


心配に染まった瞳。

その気持ちが痛いほど分かるからこそ、アナイスはゆるく首を振った。


人の悪意なら、もう嫌というほど見てきた。

ドーラ一家の振る舞い。

フクロウの目として集めた情報には、目を覆いたくなるようなものも多かった。


「今さら、でしょ?」


そう笑うと、ウィルは諦めたように手を離し、頭をがしがしと掻いた。


「はぁ……頑固なのは、俺に似たか」


そう言って苦笑しながら、ウィルは心配そうにアナイスを見送ったのだった。




静かに馬車が止まると、アナイスはセルディアンと共に地に降り立った。


見上げたフォンテ男爵家の屋敷は、昼間だというのに、どこか薄暗く重苦しい空気を纏っている。


セルディアンは一切の迷いもなく歩を進めると、荒々しく戸を叩いた。


やがて屋敷の内から人の動く気配がし、ゆっくりと扉が開かれる。


そこに立っていたのは、フォンテ男爵本人だった。


セルディアンの姿を認めた瞬間、窶れた男爵の顔に、はっきりとした緊張が走る。


「ル、ルヴァルティエ公爵様が、我が家にどのようなご要件で……」


今にも扉を閉めてしまいそうな男爵に対し、セルディアンは長い足を伸ばし、扉に爪先を差し込むと、そのまま力任せに扉を押し開く。


「――思い当たる節があるのでは?」


不遜とも取れる声音でそう告げると、男爵に止める隙すら与えず、セルディアンは屋敷の中へと踏み込んでいった。


その堂々たる背に一瞬呆気に取られていたアナイスは、はっと我に返る。


「……っ」


慌てて彼の後を追い、アナイスもまた、暗い屋敷の中へ足を踏み入れるのだった。



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