幕間Ⅸ
朝。
執事バルナールは、セルディアンの私室を訪れた。
室内に足を踏み入れた瞬間、テーブルの上に並ぶグラスが目に入り、彼は主人に悟られぬ程度に片眉を上げる。
最近、セルディアンが夜の時間をアナイスと過ごすようになったことは、屋敷の使用人たちの間でも周知の事実だった。
とはいえ、いつもはグラスとカップの組み合わせが常だったはずである。
グラスの傍らに置かれた、空のブランデーのボトル。
それを手に取り片付け始めたバルナールは、静かに主人へ声をかけた。
「新しいものをご用意いたしますね」
わずかに疑うような視線を向けると、セルディアンは肩をすくめた。
「……安心しろ。舐める程度しか飲ませていない」
その言葉に、バルナールは小さく息を吐く。
セルディアンに限ってそんな事はなかろうと思いつつも一瞬、アナイスを酒で酔わせ不埒な真似を――などと疑ってしまったのだ。
――しかし。
「ついでに、飲みやすい酒も用意しておいてくれ」
その一言に、バルナールは動きを止めた。
セルディアンが飲むのは決まって強いものばかり。
“飲みやすい酒”など、彼の口から出る言葉ではない。
先ほど緩めた目元に再び力を込め、バルナールは主人を見やる。
「……旦那様。紳士らしく、どうか節度をお持ちくださいませ」
セルディアンは返事の代わりに、ただ肩をすくめたのだが――
酒に酔ったアナイスを見てみたい。
そんな下心を、老執事に見透かされた気がして、僅かに視線を彷徨わせたのだった。




