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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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50話


目を覚ましたノエランはひどく興奮した様子で、

このままでは眠れないのではないかとアナイスとセルディアンは心配していた。


しかし、予想に反して少し言葉を交わしたノエランは糸が切れたようにぱたりと眠りに落ちた。


再び規則正しい寝息を立て始めたノエランの顔を覗き込み、二人はそっと部屋を後にする。


二人の足は、自然とセルディアンの私室へと向かっていた。


部屋に入ると、アナイスはいつもの様にソファへ腰を下ろす。


「あ……」


そこでふと、今夜は帰宅してすぐに必要な話を済ませていたことを思い出した。


「す、すみません。私ってば……部屋までついてきちゃいました」


慌てて立ち上がると、セルディアンも今さら気づいたように目を瞬かせる。


「……そうか。もう、話すべきことは終わっていたな」


いつも先の先まで思考を巡らせ、合理を重んじ、無駄を避けてきたセルディアン。


そんな自分が、理由もなくこうしてアナイスと向き合っている。


らしくない、と内心で苦笑いを漏らした。


ーーけれど


(……悪くない)


胸中でそう呟き、セルディアンはアナイスに座るよう視線を送り、テーブルに二つのグラスを置いた。


その仕草に促され、アナイスは再びソファに身を沈める。


トクトク、とブランデーが注がれる音が、静かな室内に心地よく響く。


揺れる琥珀色を、アナイスはぼんやりと眺めていた。


もう一つのグラスへ注ごうとボトルを傾けかけたセルディアンは、ふと手を止める。


「そういえば……令嬢、酒は飲めるのか?」


カリスと過ごす時の癖で持ってきてしまったが、

アナイスが酒を口にする姿を見たことはない。


先ほどの夜会で勧めたのも、アルコールの入っていない飲み物だった。


「……さあ?」


「……飲んだことがない、のか」


少し考え込んだ後、アナイスは自分でも分からない、というように首を傾げる。


その反応にセルディアンはボトルを下げようとすると、アナイスが声を上げる。


「で、でも! 私はもう成人していますし!」


好奇心にきらきらと目を輝かせるアナイス。


ボトルとアナイスを交互に見比べ、セルディアンは小さく息を吐いた。


結局、その好奇心に折れる形で、空のグラスにブランデーを注ぐ。


――ただし、一口よりもずっと少ない量で。


抗議するように見つめるアナイスに、セルディアンは笑った。


「初めてにこの酒は強すぎる」


そう言って、自分のグラスに口をつける。


納得はいっていないものの、アナイスはグラスを両手で抱え、揺れる琥珀色を見つめた。


セルディアンが飲むたび、どんな味なのだろうと気になっていたのだ。


その正体を知れると思うと、胸の高鳴りを抑えきれない。


意を決し、グラスを傾ける。


口に広がる、独特の苦味。

そして飲み込んだ瞬間、喉を焼くような熱。

通り道が分かるかのように駆け抜ける熱に、思わず胸を押さえた。


初めての感覚に目を瞬かせるアナイスに、セルディアンは苦笑いを浮かべながら新しいグラスを差し出した。


それは、いつの間にか用意されていた冷たい水だった。


アナイスはそれを受け取り勢いよく飲み干すと、ようやく熱が和らぎ、ほっと息を吐く。


「……まったく」


笑いを含んだ呟きに視線を向けると、セルディアンは口元を押さえ、肩を揺らしていた。


「公爵様は、いつも美味しそうに飲んでるのに……」


「私は君より、“大人”だからな」


得意げにそう言い、足を組み替えるセルディアン。


その姿を“大人”と呼べるかはさておき、


自分にはまだ早い――


アナイスはそう思い、そっとブランデーの入っていたグラスを遠ざけるのだった。



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