49話
ルチェに手紙を託した後、アナイスはノエランの部屋を訪れた。
そっと扉をノックすると、エーナが静かに顔を出す。
「ノエラン様にお会いしたくて……」
声を抑えて囁くと、エーナは小さく頷き、アナイスを部屋の中へ招き入れた。
「お二人がお戻りになるまで起きていようと、頑張っていらしたのですが……先ほど、お休みになられました」
エーナも同じように声を潜めて告げる。
ベッドの傍へ近づくと、ノエランは安らかな寝息を立てていた。
長い睫毛が影を落とし、小さな胸が規則正しく上下している。
起こさないよう、そっと頭を撫でる。
すると、ノエランの口元がわずかに緩み、まるで笑ったかのように動いた。
その無防備な寝顔が愛おしくて、アナイスの頬も自然と緩む。
しばらくその様子を見守っていたエーナは、静かに一礼すると、音を立てぬよう部屋を後にした。
しばらくノエランの寝顔を見つめていると、静かに扉が開く音がした。
エーナが戻ってきたのかと思い、アナイスが振り返る。
――そこに立っていたのは、セルディアンだった。
視線が合い、互いに驚いたように動きを止める。
けれど、先に歩み出たのはセルディアンだった。
ノエランの眠るベッドの脇に立つと、そっと、その頭に手を伸ばす。
「……よく寝ているな」
「はい……さっきまで、私たちを待っていたそうです」
囁くように、言葉を交わす。
アナイスは、隣に立つセルディアンの横顔を盗み見た。
わずかに緩んだ目尻。
ノエランを見つめるその表情は、紛れもなく“父親”のものだった。
やがてセルディアンが手を離すと、ノエランの瞳が、ゆっくりと開かれる。
「あ……」
視線を彷徨わせたノエランは、アナイスとセルディアンの姿を認めると、何度か瞬きをした後、勢いよく身体を起こした。
「お、おかえりなさい!」
起こしてしまったことに焦るアナイスとセルディアンとは対照的に、ノエランは満面の笑顔を浮かべている。
その無邪気な表情に、二人は思わず顔を見合わせ――
そして、同時に、苦笑いを浮かべたのだった。




