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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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45話


会場に足を踏み入れた瞬間、居並ぶ貴族たちの視線が一斉にアナイスとセルディアンへと注がれた。


想像以上の人の数に、アナイスは思わず目を見張る。


「宣誓式の時より、人が多いですね」


セルディアンは鼻で笑った。


「人が集まれば、それだけ金になる」


顔を寄せて言葉を交わす二人のもとへ、一人の老紳士が近づいてくる。


「ほっほっほっ。お噂通り、仲睦まじいですな」


声に応じて顔を向けると、老紳士――マディラー伯爵が目尻を下げていた。


「ご無沙汰しております、公爵様。そして、お初にお目にかかります、セリオン侯爵令嬢様」


「盛況だな」


伯爵への丁寧な挨拶もなく、セルディアンは肩をすくめて言った。


「ほっほっほっ。少々、公爵様のお名前を拝借いたしましてな」


噂の中心にいるセルディアンとアナイスが出席すると聞きつけ、真相を確かめようと多くの者が集まったのだろう。


「宣伝料でも請求するべきか?」


「それでしたら、我が商団の品を贈りましょう」


その返答に、セルディアンは露骨に嫌そうな顔で手を振る。

ルヴァルティエ家に卸した品となれば、人々は挙って買い求める。


どこまで行っても商売へと繋げようとする伯爵に、隣に立つアナイスも思わず苦笑した。


その様子に気づいた伯爵は、アナイスへと恭しく頭を下げる。


「どうぞ、ごゆるりとお楽しみください」


そう言い残し、伯爵は人波の中へと消えていった。


その背を見送りながら、セルディアンは小さく息を吐く。


「まったく、食えない爺だ」


そう呟き、颯爽と歩き出した。

セルディアンの進む先では、自然と人垣が割れていく。


それはルヴァルティエ公爵家という名が持つ影響力を如実に物語っている様だった。

時折耳に入る陰口にも一切動じないその背中に、気高い品格を感じ、アナイスは自然と背筋を伸ばした。


そのとき――。


「はっ! なぁにが、国民に仕える騎士だ!」


嘲笑混じりの声が、会場に響いた。

アナイスは足を止める。

声の主は、笑うたびに突き出た腹を揺らす男だった。

腰に携えた宝石だらけの剣が、下品な笑いと共に揺れ、ひどく癪に障る。


「騎士など、我々のような価値ある命のために死ぬ方が幸せというものだろう!」


その言葉に、アナイスの手に力がこもる。

それを察したセルディアンは、口角をわずかに上げると、そっと一歩後ろへ下がった。


それを合図に、アナイスは毅然と男の前へ進み出る。


「貴族の義務を、ご理解されていないようですね?」


冷ややかな声音にも、男は構わず笑い続けた。


「義務だと? 平民でもあるまいし。我々が背負う必要などあるか」


止める者はいない。

周囲には眉をひそめる者もいたが、同意するように薄く笑う者もいた。


「お嬢さんに、貴族が何たるかを儂が教えてやろう」


卑下た笑みを浮かべ、男が手を伸ばす。



――バシッ。


その手は、触れる寸前でアナイスによって叩き落とされた。


赤くなった手を呆然と見つめた次の瞬間、男は顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。


「ぶ、無礼者!! 儂を誰だと思っている!!

皇帝に長く仕えるトリス伯爵だぞ!!」


その叫びに、アナイスは嘲るように微笑み、一歩踏み込んだ。


そして男の腰に提げられた宝石だらけの剣を掴み、躊躇なく引き抜く。


驚きに怯む男をよそに、アナイスはその剣を豪奢な床へと突き立てた。


深く息を吸い込み、凛とした声で告げる。


「貴族とは、責を負い、逃げぬ覚悟を持つ者。

貴族とは、驕らず、己を律する者。

貴族とは、声なき者の声となる者。

貴族とは、力を持ちながら、それを私さぬ者。

そして――

民のために、率先して犠牲となる覚悟を持つ者です。

それを持たぬ者に、貴族を名乗る資格はありません」


周囲を一瞥し、最後に男の目を真っ直ぐに見据える。


「恥を知りなさい」


その声が、空気を震わせた。

いつの間にか、会場は静まり返り、誰もが息を呑んでアナイスを見つめていた。


沈黙の中、誰かが呟く。


「……ノブレス・オブリージュ」


――ノブレス・オブリージュ。

それは、貴族の義務。

貴族の覚悟を示す言葉。


その言葉の意味を、誰もが理解していた。

誰もが、アナイスを見つめていた。

ノブレス・オブリージュ、その体現者を。



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