36話
セルディアンの話しを聞いたアナイスは、驚きと同時に胸の奥が高鳴るのを感じていた。
フクロウの目を立ち上げてから、様々な情報を得てきた。
それは、大陸の果ての果てで起きたことまでも、だ。
情報の波に触れ続けてきたアナイスが初めて知る事実に血が騒ぐ。
それはもはや、職業病と言うべきものだった。
もっと知りたい──その衝動が喉元まで込み上げる。
しかし、これ以上は踏み込みすぎだと判断し、アナイスは湧き出る好奇心を胸の奥に押し込め、今は目の前の事に集中する。
そんなアナイスを横目で見ながら、セルディアンもミランダ・フォンテの行方を追う作業へ戻る。
だが──。
多くの事を知り、いつも冷静に判断するアナイスが、今は好奇心に輝く瞳をしている。
新しい一面に触れるたび、不思議と胸がざわつき、目が離せなくなる。
それが単なる興味によるものなのか。
それとも──。
(……何を考えているんだ)
思考が妙な方向へ走りそうになり、セルディアンは小さく頭を振って断ち切った。
アナイスもセルディアンも、それぞれ騒ぐ頭を落ち着かせるため、必要以上に集中して手元の資料へ没頭していく。
――どれほど時間が経っただろう。
成果もなく、資料を置いたセルディアンはふとアナイスのほうを見る。
アナイスはソファにもたれ、静かな寝息を立てていた。
時計は深夜三時を示している。
「……集中しすぎたか」
らしくない自分に苦笑しつつ、セルディアンはアナイスのもとへ歩み寄る。
そしてそっと横抱きに持ち上げた。
部屋へ運ぼうと、扉に向かうが──
夜の冷え込んだ廊下へ連れ出すことに、気が引けた。
踵を返し、自室のベッドにアナイスをそっと寝かせる。
「ん……」
アナイスは小さく唸り、少し開いた口が、何かを言おうとするように微かに動く。
その柔らかな寝顔に、自然と笑みがこぼれる。
セルディアンはしばらくアナイスを見守り、そっと髪に触れた。
指の間をさらりと滑り落ちる、柔らかい銀の髪。
もう一度撫でようと手を動かしかけ──
セルディアンは苦笑しながら、そっと手を引っ込めた。
「……まったく、らしくない」
ぽつりと呟き、窮屈なソファへ身を納める。
夜明け前の静けさが部屋を包む中、セルディアンはゆっくりと瞼を閉じた。




