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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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35話


「ルヴァルティエ家が国防を……」


アナイスはゆっくりと呟いた。初めて知る事実を飲み込もうとするように。


「十二年前、大規模なテロ行為がありました。その責任を取る形で当時の内務大臣が辞任しましたが……まさか、その時から?」


セルディアンは、組んだ足を組み替えながら答える。


「正確には、その前から“監査”という立場で関わってはいた。だが──十二年前を境に、完全に我が家へ委託された」


「確か、内務省内部の者が手引きをしたんですよね」


「当時の皇室は、内も外も敵が多かったからな。北方の我々に任せたほうが、まだマシだったんだろう」


「なるほど……」


アナイスは静かに息を呑んだ。


「でも…こんな重要な機密、私が知ってしまっていいんですか?」


心配げに問うアナイスに、セルディアンはなんでもないように肩をすくめる。


「公爵夫人になれば、嫌でも知ることになる。それに──」


言葉を切るセルディアンを、アナイスは小さく首を傾げて見つめた。


「君は善悪を正しく判断できる。私欲に流されるタイプでもない。…そうだろう?」


不意の言葉に、アナイスの胸がどくん、と跳ねた。

褒められ慣れていないせいで、頬が熱を帯びる。


照れを隠すように、アナイスはわざとらしく頬を膨らませて言い返す。


「わ、分かりませんよ?もし公爵様が不親切にしたら……うっかり口が滑っちゃうかもしれません」


セルディアンは一拍置いて──ふっと笑い声を漏らした。

どこか親密な響きを帯びた笑いだった。


「その時は……君が一生かけても払いきれない額の賠償金を請求しよう」


その声音は冗談に聞こえるのに、どこか本気にも聞こえる。

アナイスは「…ひどい」とむくれながらも、胸の奥がなぜか温かくなるのを止められなかった。


………



 あたたかな空気が漂う部屋の中で、二人は気を引き締め直し、消えた令嬢──ミランダ・フォンテがいつ、どこへ渡ったのかを探っていた。


「うーーん……」


アナイスは渡航記録を睨みつけながら唸り声を上げる。


「ミランダ嬢本人の渡航記録は見当たりません。……もし偽名を使って帝国を出ていたとしたら、追うことは難しそうですね…」


そう呟くアナイスに、セルディアンは口の端を上げて笑った。


「令嬢──いや、“フクロウの目”に聞こう」


「?」


「渡航手形は、どれほど精巧に作られても必ず偽造される。対策をしてもいたちごっこだ」


「秘密裏に国外へ出たい者は皆必死ですから、どんなに高額でもお金を出すでしょう。……莫大な利益を生むものが廃れないのも当然です」


「ああ。そこで、だ。国を害する者は外に出さず、かつ身元を特定するには──君ならどうする?」


突然の問いに、アナイスは眉間に皺を寄せて考え込んだ。


外へ出さない……

でも身元は特定する……

怪しい人物を全員洗うのは不可能。

検問を強化すれば手間も時間もかかりすぎる。


「……私ならどうする、かぁ……んー………私が偽造手形を作ることができれば両方叶いますけど……」


口にしてから、ハッとセルディアンを見る。

案の定、公爵は満足げな笑みを浮かべていた。


「まさか……」


セルディアンは何も言わず、一冊の本を差し出した。


開いた瞬間、アナイスは息を呑んだ。


姿絵、名前、住所──

その横の欄には、まったく別の名が記載されている。

さらに家族背景、依頼理由、素性の調査内容まで記されていた。


「……出入国の管理をしながら、偽造手形も作っている……?」


「ああ」


アナイスはページをめくりながら、ある事に気づいて声を上げた。


「手形のデザインが、数年前から微妙に変わっていったのは……区別するため?」


するとセルディアンは堪えきれずに笑い声を漏らした。


「やはり君は頭がいい」


褒められたが、今は照れている余裕すらない。


「同じデザインを使い続ければ、必ず他の業者が偽物を出してくる。だが少しずつ変えていけば、我々が作った“偽造手形”と、他の業者の物はすぐに見分けがつく」


「そして……他の業者の手形を持った者が摘発されれば、信用のある“公爵家製”に依頼が集中して管理ができるようになる…」


「駆け落ちや家庭の問題など些細な事情なら、そのまま通す。だが……調査して少しでも怪しいと判断すれば牢屋行きだ」


アナイスは思わず息を呑む。


──数年ほど前から、帝国の機密情報を国外へ持ち出そうとした者の検挙率が一気に上がった。

その裏に、こんな仕組みがあったとは。


「言っておくが──皇室のお墨付きだから安心しろ」


セルディアンはそう言って、まるで悪戯を暴露した子供のように笑った。


アナイスはその横顔を見つめながら思う。


 ──ルヴァルティエ公爵家が帝国の中で絶大な力を持つ理由。

その核心に触れた気がした。



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