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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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30話


“アナイスにしかできないこと”

――その正体は、すぐに判明した。


アナイスの目の前には、あふれ返るほどの布地の山。

机いっぱいに広げられたデザイン画。


アナイスはソファに沈み込み、ぐったりと肩を落とす。


“アナイスにできないこと”

それはつまり、ドレスを仕立てることだった。


以前、数多くのドレスを買ったと言うのに…


そんなアナイスとは対照的に、リセを筆頭としたメイドたちは大盛り上がりだった。


「アナイス様にはこの色が!」

「こっちも素敵ですっ!」


ひっきりなしに布地を差し出しては、見比べ、また新たな布地を出してくる。


「ア、アナイス様は肌が白いので……こういった濃い色味もお似合いになるかと……」


控えめな声で布を差し出したのは、若いデザイナーのコレットだった。

公爵家御用達だった仕立て屋のマダムは、以前行ったあの時、セルディアンの気に障ったらしい。

今回はこのコレットが呼ばれたのだ。


クローゼットに眠るドレスの数々は、手切れ金、みたいなものか。


コレットは緊張のせいでぎこちなく動くものの、机に並べられたデザイン画はどれも繊細で上品。

刺繍の細やかさ、美しく流れるライン

この若きデザインナーは、腕を見込まれ呼ばれたのだろう。

なにより、どのデザインアナイス好みだった。


アナイスはそっと布に触れ、微笑む。


「素敵な色ね」


差し出された布は、なめらかな絹でできており、濃紺から薄紫へと溶け合うようなグラデーション。

まるで、夜明け前の空を閉じ込めなような色だった。


「こちらの布地でしたら、こ、こちらとか、こういったデザインに合うかと…」


緊張のせいで言葉がつっかえながらも、コレットは数枚のデザイン画を広げて見せる。


横からリセが覗き込み、目を輝かせた。


「素敵! まるでアナイス様のために作られたみたい!」


その一言に、コレットの顔は真っ赤に染まる。


「じ、実は……アナイス様の宣誓式でのお姿を見て……イメージが、あの……溢れ出てしまいまして……」


アナイスも、メイドたちも目を丸くした。


「……これ、全部アナイス様のためのデザインなんですか?!」


リセが声を上げると、コレットはさらに小さくなりながら


「……はい……」


と答えた。


アナイスはそっとコレットの手を取る。


「ありがとう。とても嬉しいわ」


その一言に、コレットの瞳が潤み、胸を押さえて感激している。

これまで貴族の仕事で「遅い」「流行りじゃない」と文句ばかり言われてきた彼女にとって、アナイスの優しい言葉は胸に刺さるほど温かかった。


アナイスは真剣な面持ちでデザイン画を見比べ始める。

自分のために描かれた作品なのだから、適当に決めるわけにはいかない。


そのとき、扉がノックされ――セルディアンが入ってきた。


賑やかだったメイドたちは、さっと脇へ下がり控えの姿勢を取る。


突然の公爵登場に、コレットは悲鳴寸前の表情で立ち上がり、深々と頭を下げた。


その姿にセルディアンは、「私のことは気にせず続けてくれ」と言った。


「は、ははいいぃ……!」


コレットは完全に挙動不審で震えている。


アナイスは苦笑し、セルディアンに言う。


「突然公爵様が現れたら、気にしない方が難しいですよ?」


セルディアンは不思議そうに


「そうなのか?」


とコレットに視線を向ける。


「め、めめめめ滅相もございません!!」


コレットはさらに硬直し、ほとんど泣きそうだった。


その様子にわずかに眉をひそめ、セルディアンはアナイスの方へ向き直る。


「君は初対面でも堂々としていたが?」


アナイスは苦笑しながら答える。


「心臓が飛び出るほど緊張してましたよ。平静を装ってただけです」


「どうだか」


セルディアンはそう言いながら、当然のようにアナイスの隣へ腰を下ろす。

その表情はどこか柔らかかった。


その二人の距離感を見たコレットは、胸の中で叫ぶ。


(やっぱり……帝国一のカップル!!……尊い!!)


――こうして、アナイスの夜会の準備は、にぎやかに進んでいくのだった。



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