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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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24話


宣誓式を終え、公爵家の馬車はゆっくりと帰路についた。


「アナイス様、お姫様みたいでした!」


目を輝かせながらノエランが無邪気に言う。


「なら、公爵は姫を攫う魔王だな」


ウィルは不貞腐れたようにぼそりと呟いた。


「お父様は王子様みたいでしたよ!」


「ノエラン……お前はそのまま純粋でいろよ」


膝に乗せたノエランの頭を優しく撫でるウィル。

初めて邸を訪れた日から、なんだかんだと公爵家に立ち寄るようになり、ウィルとノエランはすっかり仲良しになっていた。


そんな二人を横目に、セルディアンは不機嫌そうにぼそり。


「……人たらしなところも、親子そっくりだな」


「人たらしって……」


アナイスは苦笑する。


「君もだろう?屋敷の者たちを、あっという間に味方にした」


「そんな事ないですよ?騎士団の皆さんは、手厳しいです」


「帝国最強の騎士たちだ。そう簡単に絆されてたまるか」


そう言いながらも、内心では “落ちるのは時間の問題だろう” と確信しているセルディアンだった。


「それにしても……」


ウィルが肩を竦める。


「明日の新聞の一面は決まりだな」


その言葉に、アナイスは一気に疲れた顔になる。


セルディアンの予想外の行動により、聖堂内は大騒ぎになった。

囃し立てる者、喜ぶ者、眉をひそめる者。

その混乱の中で、記者らしき者が何人も足早に会場を後にする姿があった。


世間を巻き込むという意味では成功だろう。

けれど、自分が新聞に載ると思うと……アナイスは素直に喜べない。


そんな彼女の心を見透かしたように、セルディアンが言う。


「そう難しい顔をするな。新聞に君の名が載れば、どこかで君の兄君が目にする可能性もある」


アナイスは、はっとしセルディアンを見つめた。


「……まさか、それで記者を?」

セルディアンは肩をすくめるだけで、肯定も否定もしない。


「公爵様……」


アナイスは、自分が思っている以上に兄のことを考えてくれている彼の気持ちに胸が熱くなった。


「……ありがとうございます」


「まあ、あそこまで見せつけたんだ。せいぜい世間に宣伝してもらわないとな」


セルディアンは、自信たっぷりに笑ってみせた



………


アナイスとセルディアン、ノエランとウィルを乗せた馬車の中。


道中、セルディアンとウィルは相変わらず小競り合いを続けていたが、どこか穏やかで、あたたかい空気が満ちていた。


アナイスは寂しく過ごした幼少期で出来た心の傷が少しずつ癒えていくのを実感する。

そういえば…と自身の手を見ると、ドーラ一家により、朝な夕な召使いのように働いて傷だらけだった手先はすっかり綺麗になっていた。


そして――左の薬指で静かに光る指輪。

ダイヤモンドと、それに寄り添うルビーが馬車の灯りに揺れた。


(セリオン領を出た時は、まさかこんな事になるなんて思わなかったな…)


ふと胸に浮かぶ疑問。

どうして両親は、自分をルヴァルティエ家に預けようとしたのだろう――。


考えに沈んでいると、頭上から低い声が降ってきた。


「何を考えている?」


顔を上げると、隣にいるセルディアンがじっとこちらを見ている。

アナイスは、胸に湧いた疑問をそのまま口にした。


「なんで、両親は私をルヴァルティエ家に預けようとしたのかなって。」


セルディアンは「ふむ……」と顎を指先で撫でながら思案するように目を細める。


「バルナールは君を邸に招き入れた。あの“慎重が服を着ているような男”が、だ」


アナイスは思わず目を瞬かせる。


「慎重が……服を……?」


くすり、とセルディアンが笑った。


「ルヴァルティエ家に長年仕えてきた執事だ。君が思っている以上に、あいつは曲者だぞ」


その声音はどこか楽しげだった。


「とにかく、だ。あのバルナールが受け入れたってことは、何か知っているかもしれないな」


「そういえば……初めてお会いした時、セリオン家の者を知っているようなことをおっしゃってました」


「気になるなら、帰ったら聞いてみるといい」


「………。」


「どうした?」


「いえ…ただ、ルヴァルティエ家が私の“帰る場”なんだな、と思って」


そう答えるアナイスは嬉しそうに微笑む。

その言葉に、セルディアンの動きが一瞬止まる。


「……当たり前だろう。君は次期公爵夫人になるんだ」


セルディアンは照れたように、窓の外に視線を向ける。


「…はい。」


そんなセルディアンにアナイスは微笑みながら答えるのだった。




(………なんなんだ、この空気)


いつの間にか寝入ったノエランを膝に抱えたまま寝たふりをしていたウィルは、眉間に深い皺を刻んでいた。

この、なんとも言えない甘さの漂う空気に、ひたすら耐えている。


もちろん、アナイスはそんな苦行を強いられている男の気配に気づくこともなく、ただ静かに微笑んでいた。



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