幕間Ⅵ
案内を申し出た使用人を断り、ひとり玄関へ向かうウィル。
(……何が契約だ。)
先ほど見たアナイスとセルディアンの様子が脳裏をよぎる。
2人の間には確かな信頼があった。
本人たちは気付いていない様だが、それは契約者同士のそれではなく、男女の………
そこまで考えて、ウィルは自分で思考を断ち切る。
(クソっ。娘を嫁に送る父親ってのは、みんなこんな気持ちになるのか?)
アナイスが幼い頃から、ウィルにとって彼女は娘同然だった。
願いを叶えるために〈フクロウの目〉まで作った。
良い環境とは言えなかったが、手塩にかけて育ててきたつもりだ。
それを――突然見知らぬ男に掻っ攫われるとは思わなかった。
娘を取られた腹立たしさと、
自分の手を離れていく寂しさ。
(…らしくねぇ。家を出てからずっとひとりで生きてきたつもりだったのに。)
ひとりには慣れている。また戻るだけ。
そう思うのに、胸の奥がチクリと痛む。
そんなとき、後ろから小さな気配がついてきていることに気づく。
ウィルはくるりと振り返った。
柱の影から、ノエランがそっと顔を覗かせている。
「おう、坊主。俺に用か?」
ウィルが膝をついて呼ぶと、ノエランははにかみながら影から出てきて、そろそろと近づく。
「えっと……アナイス様の、お父様ですか?」
「ああ。アナイスのお父様だ。」
ウィルが笑ってノエランの頭を撫でると、少年は嬉しそうに胸を張った。
「僕は、ノエラン・ルヴァルティエです!」
そして目をきらきらさせながら、少し考えてから言う。
「あの……アナイス様のお父様ってことは……僕のおじい様になるんですか?」
「……は?」
まさにその瞬間、いつの間にか追いついてきたセルディアンが堪えきれず吹き出した。
「ははは。そうだ、ノエラン。お前の“おじい様”になる人だ。」
「わぁっ!」
ノエランはウィルの手をぎゅっと握りしめる。
「家族が増えて、嬉しいです!」
そのまっすぐな笑顔に──
さっきまで胸に残っていた痛みが、ふっと消えていく。
(家族が増える、か……悪くないな。)
しかし。
「……おじい様は勘弁してくれ。」
ウィルは苦笑いするしかなかった。
そこへ、遅れてやってきたアナイスが三人の表情を見比べ、首を傾げるのだった。




