幕間Ⅴ
朝の光が薄いレースのカーテンを透かして差し込むころ、アナイスの客室の扉がノックされた。
扉を開けた瞬間、ふわりと花の香りが広がる。
そこに立っていたメイドのリセの腕には、抱えきれないほど大きな花束。
スイートピーやピンクのバラ、淡い色合いの花々が、まるで春の風を閉じ込めたかのように美しく束ねられていた。
「えっと……これは?」
アナイスが戸惑いながら尋ねると、リセは満面の笑みを浮かべて答えた。
「旦那様からです!!」
「えっ……」
アナイスはさらに困惑する。
“旦那様”――つまりセルディアンからの贈り物、ということだろうか。
思わず顔が引きつるが、婚約者という設定を思い出し、なんとか笑みを整えた。
「す、素敵な花束ね……」
リセは嬉しそうに頷く。
「アナイス様にぴったりな花束ですよね!」
リセの無邪気な言葉に、アナイスは小さく苦笑した。
――おそらく、実際に選んだのはバルナールなのだろう。
それでも、自分の好みにぴったりな淡い色のブーケに、気持ちが躍る。
「お部屋に飾れる花瓶はあるかしら?」
尋ねると、リセは目を輝かせた。
「もちろんですとも!」
ほどなくして、リセは大小さまざまな花瓶を乗せたワゴンを押して戻ってきた。
アナイスは笑みを浮かべながら、花々の配置を考える。
ピンクの薔薇を中央に、スイートピーは軽やかに周囲へ――。
朝食までのひととき、二人は花瓶を並べながら静かな時間を過ごした。
香り立つ花々に包まれ、アナイスの胸の中には、ほんの少しの安らぎと、説明のつかない温かさが広がっていた。




