幕間Ⅰ
雪の降る音が、静かな執務室に淡く響いていた。
例年よりも早く降り始めた白雪が、ルヴァルティエ公爵領を覆い始めている。
暖炉の火がわずかに揺れ、机上の封書に赤い光を落とした。
セルディアン・ルヴァルティエは、険しい表情のまま一通の手紙を読んでいた。
封には帝国裁判所の印が押されている。
読み進めるにつれ、彼の紅い瞳が冷たく細められていく。
手紙を読み終えると、セルディアンは無言のままそれを握りしめた。
厚手の紙が、彼の掌の中でぐしゃりと音を立てて潰れる。
「……狡猾な蛇め」
低く絞り出すような声が、広い執務室に落ちた。
その言葉を受け、側に控えていた男――カリス・フロイレンが静かに口を開く。
オリーブ色の髪に雪の光が反射し、翡翠の瞳がわずかに揺れた。
「ルヴァルティエを相手に裁判を仕掛けるとは……皇室を味方につけたようですね」
セルディアンは鼻で笑い、潰れた手紙を机の上に叩きつける。
「ふん。いくら狼を丸のみしようとしても、その前に首を噛み切ってやるさ」
カリスは短く息をつき、「しかし、手は打たねば」と淡々と告げる。
セルディアンはしばし沈黙し、やがて深く息を吐いた。
「……燃やしておけ」
そう言って、握りつぶした手紙をカリスへ放り投げる。
カリスはそれを受け取り、何か言いたげに眉を寄せたが、結局は静かに頭を下げた。
「かしこまりました」
その言葉を残し、彼は静かに執務室を後にする。
扉が閉まり、室内に再び静寂が戻った。
暖炉の火がぱちりと弾ける音だけが、彼の孤独を照らしている。
セルディアンは目を閉じ、額に手を当てた。
外の雪は止む気配を見せず、ただ静かに降り積もっていく。
「……ダリエン。ノエランは、俺が守る」
その呟きは、誰にも届かぬ誓いのように、白い息と共に宙へ消えていった。




