幕間Ⅳ
帝国南部のとある港町。
潮の香りと喧騒が入り混じる中、屋根の上に一羽の白い梟が静かに息を潜めていた。
琥珀色の瞳が、港に入ってきた一艘の船をじっと見つめる。
やがて船から一人の男が降り立つのを確認すると、梟は羽音も軽く、男のもとへと飛び立った。
「うおっ! 熱烈な歓迎だな。お前は……ディーか?」
突進してきた梟を腕に受け止めながら、男が苦笑する。
その言葉を聞いた梟は、男の深緑の髪を嘴でつついた。まるで否定するかのように。
「いててっ……悪い、悪い。ルチェだったか」
男はそう言いながらも、どこか楽しげに笑う。
「ははっ、昼間だからご機嫌ななめか。梟は夜行性だもんな」
軽口を叩きつつ、白い梟――ルチェの足に括られた小さな筒を外す。
中に入っていたのは、一枚の紙片。
それを広げた男――“フクロウの目”の中心人物、ウィル――の表情が、途端に引き締まる。
紙には、短い文といくつかの印が記されていた。
――AからWへ。
その下には、簡略化された蛇の印と、丸屋根の建物の印。
蛇はカースヴェル侯爵家を。
丸屋根は裁判所を意味している。
“フクロウの目”では、全ての連絡を暗号と印で交わすのが常だった。
「カースヴェル家の裁判を調べろ、か。…何故“蛇”を?」
低く呟き、思案に沈むウィルの頭を、ルチェが再び嘴で突く。
「いってぇ……! わかったわかった、報酬だろ?」
苦笑しながら腰の革袋から乾燥肉を取り出すと、ルチェは満足げにそれをくわえた。
そして一声鳴くと、青空へ向かって舞い上がる。
その白い影をしばらく見送っていたウィルは、ぼそりと呟いた。
「……まったく。うちのお嬢さんは人遣いが荒い」
深緑の髪をかき上げると、彼は港の喧騒の中へと紛れていった。




