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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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13話


昼前の穏やかな日差しが差し込む中、アナイスは客室のバルコニーに出ていた。

手摺の上には、一羽の白いフクロウが静かにとまっている。


「黒狼の巣にようこそ、ルチェ」


アナイスは笑みを浮かべながら、フクロウの頭を指先で優しく撫でた。


ルチェと呼ばれたフクロウは、小さく鳴いて彼女の手にすり寄る。

アナイスはその足に取り付けられた筒へ短いメモを入れ、軽く頷いた。

そして小さく息をつくように、ルチェの頭に口づけを落とす。


「よろしくね、ルチェ」


一度ふるりと翼を震わせたルチェは、北の空へと音もなく舞い上がった。

白い羽が陽光を受けて煌めき、やがて小さな点になって消えていく。


その姿を見送っていると、客室の扉を叩く音がした。

「はい」と返事をして扉を開けると、そこにはノエランの姿があった。


手には小さな花束を抱え、恥ずかしそうに微笑んでいる。


「ノエラン様。こんにちは」


アナイスが微笑むと、ノエランは少し緊張した面持ちで花束を差し出した。


「アナイス様、これをどうぞ」


「まあ……素敵なブーケですね」


アナイスが嬉しそうに受け取ると、ノエランは一度息を吸い込み――


「あの、アナイス様を昼食にお誘いに来ました!」


そう言って、少し照れくさそうに笑った。


「バルナールに教わったんです。紳士がレディを誘うときは、花束を贈るのがマナーだって」


「まあ! こんな素敵なお誘い、初めてです。ありがとうございます」


アナイスは胸の奥が温かくなるのを感じながら微笑む。


「あの……一緒に食堂に行ってくれますか?」


上目遣いで尋ねるノエランの姿に、アナイスは思わず心の中で叫ぶ。


(か、可愛すぎる……!)


「ええ、もちろんです。――エスコートしていただけますか? 素敵な紳士様」


アナイスが手を差し出すと、ノエランは顔を輝かせて大きく頷いた。


「はい!」


小さな“紳士”は嬉しそうにその手を取り、誇らしげな表情で歩き出した。


その光景を、少し離れた場所で見ていたバルナールとエーナが、そっと目を合わせる。

エーナは口元に手を当て、柔らかく微笑んだ。



………


昼食の時間。

アナイスはルヴァルティエ家に来て以来、初めて屋敷の食堂に足を踏み入れた。


長いテーブル、彫刻の施された椅子、天井から下がるきらびやかなシャンデリア。

すべてが豪奢でありながら、どこか静謐で上品な調和を保っている。


思わず息を呑むアナイスは、ふとセルディアンが現れるのではないかと身構えたが――その姿はなかった。


二人が席に着くと、メイドたちが静かに料理を運び始めた。

銀の器に映る光と香ばしい香りが、心を穏やかに満たしていく。


アナイスは少し迷ったのち、ノエランに問いかけた。


「公爵様は、一緒にお食事をなさらないのですか?」


その言葉に、ノエランは「あ……」と小さく声を漏らし、視線を落とす。


「叔父上は……お忙しいので。たまに、夕食をご一緒するくらいです」


“叔父上”――。

養子として迎えられて五年が経つというのに、「父」と呼べない距離。

その寂しげな横顔に、かつて家族のぬくもりを求めていた頃の自分が重なり、アナイスの胸が痛んだ。


「ノエラン様。よろしければ、私がこの屋敷にいる間――お食事をご一緒してもよろしいですか?」


その言葉に、ノエランの目がぱっと輝く。

アナイスは視線を少し横へ向け、控えているバルナールに確認するように目をやった。

バルナールは柔らかな笑みで頷き、静かに“了承”を伝える。


ノエランは嬉しそうに身を乗り出した。


「ほ、本当ですか?!一緒にごはん、食べられるんですか?!」


アナイスは微笑みながら頷いた。


「はい、もちろんです」


――いつまで一緒にいられるか分からない中で、こんな約束をするのは残酷なのかもしれない。

それでも、ひとりで食卓に向かう寂しさを知るアナイスには、黙って見過ごすことなどできなかった。


(公爵様も……本当は、ノエラン様を気にかけていらっしゃるのに)


ふとそんな思いが胸をよぎる。

そこへ、彩り豊かなサラダが運ばれ、アナイスは思考をそっと胸の奥へしまい、食事を楽しむことにした。


やがて、食堂には自然な笑い声が響き、昼食は穏やかな温もりに包まれていった。


最後のデザートが終わる頃、メイドのリセがアナイスのもとへ静かに近づき、メモとペンを差し出した。


ノエランが興味深そうにそれを見つめる。

アナイスは気づいて微笑みながら説明した。


「美味しいお料理を作ってくださったシェフに、お礼を書いているんです」


ルヴァルティエ家での最初の食事以来、アナイスは毎食後、感謝と感想を綴った小さなメモをシェフに渡していた。


「ノエラン様も書いてみますか?」


差し出されたペンを、ノエランは嬉しそうに受け取る。


小さな手でゆっくりと文字を綴った。


「いちごのアイスがおいしかった いつもありがとう」


その筆跡は少し拙いが、どこまでも真っ直ぐな気持ちがこもっていた。


アナイスは微笑み、ノエランのメモと自分のメモをリセに託す。

静かな陽光の差し込む中、温かな昼食会は穏やかに幕を下ろした。



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