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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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12話


バルナールが淹れてくれた茶を飲み、一息ついたアナイスは、ノエランの部屋の前に立っていた。

胸の鼓動がわずかに速くなる。


静かに控えていたバルナールが扉をノックする。


「ノエラン様。お客様がお見えです。」


返ってきたのは、かすかな「どうぞ」という声。

扉を開けたのは、年配の女性――メイド長のエーナだった。


「まあまあ、アナイスお嬢様。いらっしゃいませ。」


柔らかな笑みを浮かべながら、エーナは恭しく頭を下げ、室内へと案内した。


部屋の中央で、少し所在なさげに立つ少年がひとり。

黒髪に、サファイアのような瞳――ノエラン・ルヴァルティエ。


アナイスはスカートの裾をつまみ、丁寧にお辞儀をする。


「ノエラン様。お初にお目にかかります。アナイス・セリオンと申します。」


ノエランは小さく息を吸い込み、少し緊張した面持ちで返した。


「……ノエラン・ルヴァルティエです。」


たどたどしい声ではあったが、その仕草には幼いながらも気品があった。


アナイスは(突然来て、戸惑わせてしまったかしら……)と胸の内で思った。

だが、彼女を見つめるノエランの瞳は、驚きよりも――好奇心で輝いていた。


その無垢な視線に、アナイスは肩の力を少し抜き、柔らかく笑みを浮かべる。


「ノエラン様と、お話がしたくてお伺いしたのですが――」


言葉が終わらぬうちに、ノエランが勢いよく口を開いた。


「ぼ、僕と?!……あ、嬉しい、です……」


途端に恥ずかしさが込み上げたのか、声が小さくなる。

その愛らしい様子に、アナイスは思わず微笑んだ。


そんな二人を温かな目で見つめながら、バルナールは静かに頭を下げた。


「それでは、失礼いたします。」


エーナが続いて言う。


「美味しいお茶とお茶菓子を用意させますね。」


そう言って、若いメイドに嬉しそうに指示を出す。


ノエランはおずおずと手を差し出した。


「こちらに、どうぞ……アナイス様。」


その言葉にアナイスは微笑みながら頷いた。


「はい。ありがとうございます。」


二人は部屋の中央にあるソファへと向かい、向かい合って腰を下ろした。

静かな午後の陽射しが、窓から二人を包み込む。


………


向かい合い座るアナイスとノエランは、メイドが持ってきてくれたお茶を飲んでいた。


ノエランは紅茶にひと口、口を付け、少し渋い顔をする。

テーブルには温められたミルクと砂糖が並んでいる。


どうやら普段は甘いミルクティーを飲んでいるらしい。

けれど今日は、アナイスの前だからか、背伸びをしてストレートで飲もうとしたようだった。


その小さな誇りが微笑ましく、しかし“無理をしてほしくない”と思ったアナイスは、やさしく問いかけた。


「ノエラン様、紅茶の美味しい飲み方を知っていますか?」


ノエランは首をかしげ、「……おいしい?」と小さな声で返す。


アナイスは自分のカップにたっぷりのミルクと砂糖を入れ、そっとかき混ぜた。

その様子にノエランは、驚いたように目を丸くする。


アナイスは出来上がったミルクティーを口にし、やわらかく微笑んだ。


「こうすると、とっても甘くて美味しいんです」


 ノエランは戸惑いながらも、「で、でも……大人は甘くない紅茶を飲むって……」と口ごもる。


「大人も甘い紅茶、飲みますよ」


アナイスは少しイタズラっぽく笑った。


ノエランは一瞬考え、それから顔を赤らめながら言った。


「ほ、本当? じゃ、じゃあ、僕も……ミルクと砂糖を入れようかな」


すまし顔でそう言うが、その手つきは手慣れたもので、思わずアナイスの口元に笑みが浮かぶ。


一口飲んで、ノエランは満足そうに頬を緩めた。

アナイスもその姿に微笑み返し、「美味しいですね」と言う。


「……うん」


ノエランは照れくさそうに笑った。

その笑顔は、今日一番の明るさを見せていた。


その後、二人はお気に入りの本の話、昨日作った雪うさぎの話、好きなお菓子の話――

思いつくまま、たくさんの話をした。


気がつけば、窓の外の光は傾き、雪を照らす橙色が部屋を包んでいた。


「もうこんな時間ですね。そろそろ失礼しますね」


アナイスがそう言うと、ノエランは眉をハの字にし、「あ……そ、そうですね。アナイス様、楽しい時間をありがとうございました……」と、がっかりした様子を隠しきれずに言った。


その小さな声に、アナイスの胸がぎゅっと痛む。

この少年は、広い屋敷の中で、どれほど寂しい思いをしてきたのだろう。


アナイスは優しく微笑み、言葉を選ぶように口を開いた。


「もし、ノエラン様がよろしければ……明日も遊びに来ても良いですか?」


その瞬間、ノエランの顔がぱっと明るくなった。


「も、もちろんです! いつでも来てください!」


その瞳の輝きに、アナイスも自然と笑みをこぼす。


アナイスはメイド長のエーナに目を向けると、

彼女は柔らかい笑みを浮かべて言った。


「午前中は剣術のお稽古がありますので、午後にお越しくださいませ」


アナイスは頷き、「では、午後にまた参りますね」と告げた。


ノエランはぴょんっと立ち上がり、「はい! 待ってます!」と笑顔で答える。


その無邪気な笑みを胸に、アナイスは静かに頭を下げて部屋を後にした。


廊下に出ると、ノエランの部屋の前にはいつの間にかバルナールが控えており、

アナイスを客間まで案内する。


歩きながら、アナイスは小さく微笑んだ。


(ノエラン様……とてもお優しくて、可愛らしい方だったわ)


思い出し笑いをするアナイスを、バルナールは穏やかな目で見守る。


(――お嬢様が、この屋敷に“温かさ”を取り戻してくださるかもしれませんね)


バルナールはそう胸の中でつぶやきながら、静かに歩を進めた。



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