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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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101話


「ん……」


暖かな日差しの眩しさに、アナイスは眉を寄せ、ゆっくりと瞳を開けた。


(なんだか、懐かしい夢を見た気がする……)


ぼんやりと見慣れた天井を見上げ、何度か瞬きを繰り返す。


「起きたか」


すぐ傍から聞こえた、低く穏やかな声。


ゆっくりと視線を向ければ、本を片手に足を組み、こちらを見つめるセルディアンの姿があった。


「……公爵様」


身を起こそうとした瞬間――全身に軋むような痛みが走る。


「……っ!」


何度か試みるが、思うように身体が動かない。


「……起き上がれません」


助けを求めるように見上げると、セルディアンは喉の奥でくつりと笑った。


静かに立ち上がり、ベッドの傍へと歩み寄る。


「筋肉痛だろう」


そう言って、アナイスの背に腕を回す。


「少し辛抱しろ」


抱き寄せるようにして、そっと上体を起こしてやる。


触れた場所から伝わる体温。

ふわりと漂う、彼の匂い。


そのすべてに包まれて――

アナイスは、自分の鼓動が早まっていくのをはっきりと感じていた。



「ル、ルヴァルティエの兵達は無事ですか?」


早まる鼓動を誤魔化すように、ひとつ咳払いをして問いかける。


その頬がほんのりと赤く染まっていることに、本人は気付いていない。


セルディアンはベッドに腰を下ろすと、乱れた髪をそっとすくい、耳へとかけた。


触れた指先のやさしさに、誤魔化したはずの胸の音が、再び騒ぎ出す。


セルディアンの指は離れることなく、アナイスの髪をゆるやかになぞっていた。


「ああ。大きな怪我をした者も居ない」


「そ、そうですか……」


セルディアンの言葉にアナイスの胸に安堵が広がる。


しかし、髪先を弄び続ける指先に、アナイスは落ち着かない様子で目を彷徨わせた。


忙しなく動く視線が、ふとセルディアンの腕に止まる。


捲くられた袖の下――そこには、いくつもの真新しい傷が刻まれていた。


「お怪我を、されたんですか?」


恐る恐る、アナイスはその腕へと手を伸ばす。


そっと傷跡に触れ、なぞった、その瞬間。

びくり、とセルディアンの身体が揺れた。


「ご、ごめんなさい! 痛かったですか?」


慌てて顔を上げると、セルディアンは空いている手で口元を覆い隠している。


けれど、その隙間から覗く頬は、はっきりと赤く染まっていた。


「公爵様……?」


そんなに痛かったのかと、心配げに覗き込めば――

セルディアンは大きく息を吐いた。


まるで、自分を落ち着かせるように。


「……大した怪我じゃない」


その言葉に、アナイスはほっと息をつく。


そして、安心したように再び腕へと指先を滑らせた。

今度は、セルディアンの身体が揺れることはない。


「何があったんですか?」


傷を一つひとつ確かめるように撫でる指先。

その手を、セルディアンはそっと絡め取った。


まるで――それ以上をたしなめるように。


「君の兄君達と、少しな」


「え?!」


兄の名に、アナイスは勢いよく顔を上げる。


「兄が何か失礼を?」


心配を滲ませた瞳に、セルディアンはふっと口元を緩めた。


「いや。帝国からの刺客とでも思われたんだろう」


――そう言って、セルディアンは当時のことを語り始めた。




アストラ連邦へ到着後、各地で情報を集めていく中で――ある傭兵団の噂に行き着いた。


傭兵と呼ぶには、あまりにも上品な佇まい。

そして、他に類を見ない独特の剣術。


その話を聞いた時点で、セルディアンたちは確信に近いものを抱き、その傭兵団のもとを訪ねた。


そこにいたのは、白金の衣を纏う一団。


その中心に立つのは、白銀の髪を一つに束ねた長身の男。

紫の瞳が、静かにこちらを射抜く。


――リュシウス・セリオン。


初対面であっても、一目で分かるほどに、アナイスによく似ていた。


カリスが事情を説明しようと口を開く。

だが――「帝国」の名を出した、その瞬間。


一斉に剣が抜かれた。

問答無用で襲いかかってくる白の騎士たち。


何を言っても、誰一人として耳を貸さない。

ただひたすらに、鋭く、重い剣撃が叩き込まれていく。


戸惑うルヴァルティエの騎士たち。

――そして。

その中でセルディアンは唯一人、楽しげに笑っていた。


光馬騎士団と黒狼騎士団。

白と黒、二つの騎士団の力は、拮抗していた。


やがてその小競り合いは、日が落ちるまで続く。


互いに疲労が滲み、ついに足を止めた頃になって、ようやく話ができる状況になった。


早々に小競り合いの輪から抜け出し、高みの見物を決め込んでいたカリスがアナイスの名を口にすると、光馬騎士団達の表情が変わっていった。


目を見開く者。

息を呑む者。

中には、目を潤ませる者までいる。


だが――


先程まで嬉々として剣を振るっていたセルディアンがアナイスの婚約者だと知った瞬間、収められていた剣が次々と抜かれていく。


再び始まった小競り合い。

それは、近隣の住民が怒鳴り込んでくるまで、終わることはなかったのだった。



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