表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/124

幕間


セルディアン一行は国境を越え、最初の街を訪れていた。


中立を保つこの街には、多くの旅人が行き交っている。


ルヴァルティエ領を出るときに降り始めた雪は、次第に勢いを増していた。


「公爵様、今夜はここで休みましょう」


「ああ」


騎士たちは馬を降り、宿屋へと歩を進める。


しかしセルディアンはクラヴィスをカリスに預けると、「先に休んでいろ」とだけ告げ、足早に雑踏の中へ消えていった。


その背中を呆然と見送る騎士たち。

行き先に心当たりのあるカリスは、楽しげに口元を緩めた。


「公爵様のことは放っておいて、行きましょう」


いまだ首を傾げる騎士たちを連れ、カリスは宿へと向かうのだった。




人々が行き交う街中を、セルディアンは鋭い視線で見渡していく。


やがて、ある店に視線を止めると、迷いなくそこへ足を向けた。


すでに辺りは暗く、店仕舞いの時間。

店主は外で看板を片付けているところだった。


「店内を見ても構わないか?」


「ええ、もちろ……」


気の良さそうな店主が笑顔で振り向くが、セルディアンの姿を認めた瞬間、言葉を失う。


黒尽くめの長身の男。腰には剣。


どう見ても、自分の店――本屋に用があるとは思えない風貌に、店主はぽかんと口を開けた。


セルディアンはそんな様子を気にすることなく、店内へと足を踏み入れる。


素早く視線を巡らせ、ほどなく目当ての一冊を見つけた。


手に取り、中を確かめる。

わずかに、目元が緩む。


それは――花図鑑。


奇しくも、幼い日に開いていたものと同じ一冊だった。


「これをもらおう」


ようやく我に返った店主に声をかけると、店主は慌てて駆け寄ってくる。


「いま、お包みします」


「いや、いい」


短く制すると、セルディアンは紙幣を数枚テーブルに置いた。


そして、そのまま店を後にする。


嵐のように去っていく背中を見送りながら、店主ははっとした。


「お、お客さん! おつり!」


慌てて外へ飛び出すが、そこにセルディアンの姿はもうなかったのだった。




宿へ戻ったセルディアンは、急ぐようにカリスの押さえた部屋へと入る。


マントも脱がぬまま、買ってきたばかりの図鑑を開いた。


頁をめくり、やがてその手が止まる。


視線の先にあるのは――ラベンダー。


その花言葉は――


『あなたを待っています』


指先でなぞったその言葉は、アナイスの声音となり、胸の奥へと静かに落ちていく。


セルディアンは本を閉じると、剣に結ばれたリボンへと触れた。


――その表情は。


おそらく誰も、そしてセルディアン自身さえも知らないほど、柔らかくほどけていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ