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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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89話


ウィルとカリスと別れた後、アナイスはセルディアンに連れられ、彼の私室へとやってきた。


「ほら」


いつもの場所に腰を下ろすと、セルディアンはグラスを手渡す。

そこへ、金色の液体が静かに注がれた。


きらきらと光を宿すそれをしばらく眺めてから、アナイスはそっと口をつける。


「美味しい……」


ぶどうを思わせる香りと、ほのかな甘みが口いっぱいに広がり、自然と頬が緩んだ。


「君の父親には言うなよ」


先ほどのウィルを思い浮かべ、セルディアンは口の端を引き上げる。


「はい」


アナイスも小さく笑い、もう一度グラスに口をつけると、そっとセルディアンへと視線を向けた。


長い脚を組み、ゆったりとグラスを傾ける姿。

わずかに緩んだ胸元が、妙に目を引く。


「……なんだ?」


不意に声をかけられ、アナイスははっと顔を上げた。

気付けば、セルディアンが楽しげにこちらを見ている。


慌てて表情を引き締めた。


「えっと……将来、ノエラン様もお酒を飲みたがるのかな、と思いまして」


思いついたことを、そのまま口にする。

セルディアンは顎に指先を当て、わずかに考え込んだ。


「……確かに。君の父親と同じようなことを言ってしまいそうだな」


真剣に悩むその様子に、アナイスは思わず笑みを浮かべる。


「ふふ……その時は、公爵様がしてくださったように、私がこっそり――」


そこまで言って、言葉が途切れた。


ノエランが成長したその時。

自分は、この家にはいない。


――契約は、三年。


当たり前のように思い描いた未来が、訪れないという現実に、胸の奥がずきりと痛んだ。


「どうした?」


黙り込んだアナイスに、セルディアンが声をかけると、はっとしたように顔を上げ、アナイスは苦く笑った。


「いえ……ノエラン様がお酒を飲める頃には、私はこの家にはいないので……それで」


言葉が、少しだけ早くなる。


「薄情だな」


セルディアンが、静かに言葉を重ねた。


「え……?」


「契約が終わったら、この家に近付かないつもりか?」


「……来ても、良いんですか……?」


おずおずと問い返すアナイスに、セルディアンはあっさりと答える。


「当たり前だろう」


その一言に、胸の奥がほんのりと温かくなる。


――けれど。


その温もりの中に、消えきらない小さな痛みが、静かに残り続けていた。



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