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フクロウ令嬢と狼公爵  作者: おはよう


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87話


「お父様! アナイス様!」


ルヴァルティエ邸に到着すると、馬車の音を聞きつけたノエランが、玄関から飛び出してきた。



再び訪れることを約束しセリオン領を発ち、邸へ戻る頃には、すでに夕食の時間を大きく過ぎていた。



駆け寄ってきたノエランを、セルディアンは優しく受け止める。


「おかえりなさいませ!」


セルディアンの足元に抱きついたノエランは、頬を擦り寄せるようにして帰りを喜んだ。


その頭を、アナイスはそっと撫でる。


「どこをほっつき歩いてたんだ。腹が減って死にそうだ」


声に顔を上げれば、腕を組み、不満気な顔をしたウィルが立っていた。


その後ろには、カリスとバルナール、そしてエーナにリセの姿もある。


揃って出迎える面々に、アナイスは思わずセルディアンへ視線を向けた。


セルディアンは肩をすくめ、わずかに笑う。


「まずは食事だな」


「……はい」


微笑んで頷き、ノエランの手を取る。

アナイスとセルディアンの間にノエラン。

三人で手を繋ぎ、ルヴァルティエ邸へと足を踏み入れた。


その時になってようやく、長い一日が終わったのだと、胸の奥に静かな安堵が広がっていった。




アナイスとセルディアン、そしてノエラン。

ウィルにカリスも加わり、皆で囲んだ夕食は、終始賑やかなまま終わりを迎えた。


まだ起きているとぐずっていたノエランも、やがて睡魔に負け、エーナに抱えられて部屋へと戻っていった。



そして残された四人は、応接室に集まっていた。


アナイスは揃った顔ぶれを見回す。


「なんだか……こうして揃うのは、久しぶりですね」


嬉しそうに微笑むアナイスとは対照的に、ウィルはじとりとした視線を向けた。


「お前があれこれ頼むからだろう」


「公爵様も、人遣いが荒いですからね」


口々に不満を漏らしながらも、その声音にはどこか気安さが滲んでいる。


皆が――ひとつの区切りに安堵しているのだろう。


その証拠に、セルディアンだけでなく、ウィルやカリスまでもが酒の入ったグラスを手にしていた。


「――我々の勝利に」


セルディアンがそう言ってグラスを軽く掲げると、他の三人もそれに倣う。


ただ一人、アナイスだけがココアの入ったカップを手にしていた。


不満気にセルディアンを見上げるが、彼は肩をすくめるばかりで取り合わない。


その様子に、すかさずウィルが口を挟んだ。


「アナに酒は早いからな」


「もう、成人してるのに……」


アナイスが抗議するようにウィルを見るが、彼は首を横に振るばかりだった。


「最初に飲む酒は、もっと軽いものにしろ」


そう言って、ウィルは自分のグラスを傾ける。


(……“最初”、はもう済んでるんだけど)


いつかの、セルディアンと共に過ごした夜を思い出す。


アナイスのために用意された酒は、飲みやすく、甘やかな味がした。


思わずセルディアンへ視線を向けると――


ばちり、と目が合った。


(……っ!)


慌てて視線を逸らし、誤魔化すようにカップへ口をつける。


そろりと、視線だけで周囲を窺った。


カリスは気にした様子もなく、静かに酒を楽しんでいる。

ウィルは「これ、うまいな」と感心したように、ボトルを眺めていた。


そして――セルディアンは。


何事もないかのようにグラスを傾けている。

けれど、その口元はほんの僅かに――笑みの形をしていた。


それに気付いた瞬間、アナイスは慌ててココアを飲み込む。


騒ぎ出す鼓動を、押し隠すように。



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