第七章
第七章 壊れた日常の中でカタチを求める。
いつから壊れて
いつから離れて
いつから叫んで
いつから泣いていたのだろうか?
僕は日常に戻り
君は遠くへ行ってしまう。
君はいつから壊れていたのだろうか?
君はいつから離れていたのだろうか?
君はいつから叫んでいたのだろうか?
君はいつから泣いていたのだろうか?
壊れた日常、壊れた僕。
明日は絶望
昨日が希望。
そして今日は空っぽなんだと思う。
明日を、今日を、昨日も捨てて
僕はどこへ行くのだろうか?
それは誰にもわからない。
それが僕にはわからない。
姉が死んでから三週間ほどたったある日、渡が海へ行こうと言い出した。
犯人はまだ捕まっておらず、町は警察であふれていた。
来週開かれるお祭りが中止になるかと思ったが、例年より警備を厳しくするということで予定通り開催されることになった。
だが、肝心の古本市の方は中止にはならないものの規模が縮小され第一ホールだけになり、持ち物の持ち込みは財布だけとなり、さらに財布の中身をチェックされボディチェックも行われるため、整理券を配って限られた人数しか入れないようにするらしかった。
僕が自分の部屋で古本市の事を考えていると玄関のチャイムが鳴った。
『いらっしゃいませ!!ご注文は私にしますか?それとも私にしますか?』
女性の声で再生されたチャイムの声の主は姉だった。
チャイムを変なのに変えて死んでいった姉を恨む。
姉が死んだことで両親は帰ってきてそれからずっと僕と日常を送ろうとしているが、僕からしてみれば親が居る日なんて日常なんかではなかった。
僕の日常には姉が居て、渡が居て、波子さんが居て、そして縁が居て・・・それでみんなで馬鹿騒ぎする。それが日常だったのに・・・。
僕は昨日の夜に準備しておいたリュックを背負うと、部屋の明かりを消して部屋を出て玄関に向かった。
途中親に話しかけられたが無視した。話したい気分ではなかった。
玄関で靴を履き外へ出ると渡と波子さんが普段通りに笑顔でそこにいた。
「いってきます」僕は一応だけどそう親に言ってドアを閉めた。
僕は再度渡たちの方を見て
「行こうか、海に」
そう力なく言うと渡に「笑顔だ、笑顔!」などと言われてしまった。
そして波子さんは渡に続くように「元気出して海へ行こう!」と、言いながら右手に作った拳を天に向かって突き上げると僕に背を向けて歩き出した。
僕も歩き出した。その後ろに渡が続く。
少し歩いたところで渡が
「縁さんにそんな顔して話してるのか?」そう聞いてきたので僕は無言でうなずく、すると渡はさらに僕に合わせるような歩幅に変えて横に並ぶと波子さんの後姿を眺めながら
「縁さんに優しくしてあげなよ・・・後悔しないように相手の事を考えて傍にいてあげろよな?わかったか?」
僕は頷くしかなかった。今はそれしか出来なかった。
失ったら次を求めるしかない。
僕の頭の中でそんな考えが最近ぐるぐると回っていた。
夏の日差しが照りつける中、僕たちは駅へと一歩また一歩と歩みを進めた。
これから始まる壮絶なバトルの事など知らずにただ、歩いていた。
「それにしても今年は暑すぎる・・・」
そう渡が僕の隣で呟いたが、それは僕と波子さんも夏休みに入って何度も口にした言葉でもあった。こんな暑い日は誰もが思うのだ。
「「「あぁ、かき氷食べたい・・・」」」と、駅に入る前に三人で同時に呟いた。
1
海があるのは絆町の三駅ほど先にある終点の光風町という田舎な町で、絆町や躑躅町と違うのは海がどの場所からでも見える事だった。
この近隣の町に住んでいる人たちは皆、夏になるとここの海に遊びに来るのだった。
当然僕や渡それに波子さんに絆先輩は毎年のようにここに一度は来て夏を満喫するのだった。だが、今回は絆先輩はデートが忙しいとか言って一緒に来れなかったのだが、気にするようなことでもなかった。
「さてと!まずはいつもの海の家へダッシュ!でもやるか!」そう絆先輩を頭の中でザクザクいじめてると僕の右隣を歩いていた渡が突然そんなことを言った。
少しびっくりしてツッコミを入れ忘れそうになるが、なんとか持ち直して
「この暑さで走ったらぶっ倒れるよ?」
みんな、似合っていないが一応麦わら帽子を装備してきている。が、それだけでこの夏の日差しが防げるようなら誰も苦労しない。
「渡ぅ、また去年みたいに誰も来ないようなとこで・・・ね?」
あぁ、もうすでに夏の暑さにやられた人が一名渡の隣にいる。
「うん、okだよ。去年は楽しかったからな~今年もやりますか!」
前言撤回!渡も含め2名が夏の暑さにやられた模様です。
「あれはあとでベトベトして気持ち悪いから嫌なんだけど・・・まぁやるなら早く行ってやって、海で洗い流そうか・・・」
僕もどうやら限界らしい。
2
砂浜に波子さんの声が響く。
「あぁ、そこ・・・違うもうちょっと左をつく感じで・・・そうそこ!ほら、もうイっていいのぉ~♡」
「イクよ!」僕はそう言い、
次の瞬間、僕は思いっきり出した。
右足を。
それと同時に両腕を振り上げて、思いっきり振り下ろした。
何かを叩いたような“コンッ!”と言う音が誰も居ない砂浜に鳴り響く。
僕は目隠しを空いている右手で取ると目の前にちょうど三等分され割れていることを確認してから波子さんの右で膝を抱えて砂浜にひたすら“の”の字を書いている渡を見て
「渡・・・じゃんけんで負けたんだからしょうがない」その言葉を聞いた渡は“シュバッ”という感じで立ちあがると僕を指さして
「裕二!お前は今年も俺からこの役目を奪った!その罪は重いぞ!」
渡その言葉に対して僕はカウンターと言わんばかりに言い放つ。
「去年は渡が空振りしまくるのがいけないんだろ?」
渡はまたしても膝を抱えて座り込み、“の”の字を書き始めた。
そしてこの時僕は気づいたのだった。
いつの間にか・・・渡の隣から消えて、一人黙々と赤い果肉を塩を振りつつスプーンで器用に種を排除しつつ、スイカを食べでいる波子さんの存在に。
僕に見つかったことに気がついたのか、波子さんは食べるスピードを速めた。
ものすごい速さで消えていくスイカを目の前にして僕は動けなかった。
ハムスターのように頬をパンパンに膨らませてスイカを食べている姿があまりにも可愛かったのだ。そんなことを考えながら眺めていたことを察知したのか渡は突然立ち上がると僕に向かって一言だけ言った。
「波子は俺の大切だ!」
それだけ言うと渡は波子さんのもとへと歩いて行く。
僕にも大切な人が居る。僕は渡のように言えるだろうか?言い切れるだろうか?この時、僕の中でそのことが少し心配になった。
「縁・・・好きだよ」
僕は渡たちに聞こえないようにそう呟いてから自分に大丈夫と、言い聞かせ渡の後を追うように歩きだした。
波子さんの食べる速度は一向に遅くなる気配がないと分かったのか渡は少しの距離なのに走りだした。
波子さんはそれの驚いたのか、スイカを全部持つと逃げ出した。
「待てッーーー!!」と、言いながら追いかける渡から逃げつつさらにスイカを食し続けるという神技を見せている波子さん。
僕は渡に力を貸すことにした。
「渡ー!さっきの言葉のお礼ー!僕も手伝うよー!」
その言葉を聞いた渡は僕の方を一瞬見ると“ニタぁ”と笑みを作りそして
「サンキュー友よ!一気にけりをつけようぜ?」
僕は“うん!”と、頷くと一気に走り出した。
夏の日差しの事なんて忘れて思いっきり砂浜を駆ける。
嫌なことを全部振り落すように思いっきり走った。
3
結局、波子さんには追いつけず、全てのスイカを食べられてしまった僕と渡は海の家でかき氷を食べていた。
「それにしても波子さんは早すぎだよ・・・二人がかりで追いつけないって・・・はぁ」
ため息をつきつつブルーハワイの山をスプーンで崩して食べていく。
その隣ではメロン氷山を同じくスプーンで崩しつつ食べていた。
さらにその隣ではみぞれ氷山といちご氷山の二つを交互にこちらも同じくスプーンで崩しながら食べていた。
「いやいやいやいやいや!何かがおかしいでしょう!?」
「「何が?」」
僕はもう一度ため息をつくと波子さんの方を見て言った。
「あのですね・・・なぜスイカ丸々一個(大玉)を食べておきながら、かき氷を二杯!しかもここ限定の『特盛り』サイズを二杯も!」
「だって暑いんだもん!」そのことを全くもって威張って言うようなことでもないと思うのだが・・・と、僕は思った。なぜならあの暑い中スイカ抱えて走りまわってればそりゃ暑くもなりますよ。と、言うことだ。
こんなアホの娘がゲーマーで僕や渡より上手いとはとてもじゃないけど今は思えなかった。普段とは全然違う顔を見せる・・・学校ではクールな性格で、渡と二人きりになれば無防備で、僕と渡、そして縁も加わった四人のときはテンション高くて・・・でも、今はそんなんじゃなくて子供のころに戻ったような無邪気さを持っている。
またボーっと波子さんを見つめてしまう。
「・・・渡、ちょっと泳いでくるよ」
かき氷を半分くらい残し僕はそう言って立ち上がった。
渡はかき氷を食べながら頷いた。それを確認した僕は、海へと向かった。
突然不安が湧いてきた。心が締め付けられるような苦しみが一瞬で身体全体を駆け巡り、息苦しさを感じて立ち止まった。
目の前には海がある。が、入る気にはなれなかった。
姉の事と縁の事を思い出してしまった。
もう死んでしまった姉と、これから死んでしまうかもしれない縁、二人の事で頭がいっぱいだった。
でも、それは嘘・・・わかってる。縁の事だけで寂しくて辛くて泣きたくて・・・そうやって姉の事を忘れていく自分が許せなかっただけ。
でも、それよりも今は縁を失いたくない、という方が強かった。
そう考えてるとどっちが大切で、どっちが不必要な存在なのか・・・忘れていいことなのだろうか?
「ッ!?」いきなりの頭痛が僕を苦しめ言葉が頭の中で鳴り響く
『―――は私の―――のはずでしょ!?なのに――して』
『それは―――だから――――ない』
はっ!と、目をあける。目の前には海が広がっている青い海が、ただ広がっていた。
今のは何だったのだろうか?記憶というのは曖昧・・・僕は誰に何を・・・した?
結局僕の中で不安と欲が渦巻いてグチャグチャに混ざり合い、考えがまとまらない。
僕は今何をしなくてはいけないのか。
僕は今誰を求めればいいのか。
僕は今何を見て進まなきゃいけないのか。
全てが混ざり合い思考を妨げ感情が混乱する。
「裕二君・・・さっきのスイカ割りのところで待ってるね♪」
声を聞いて僕はあわてて振り返る。だがそこには声の主はおらず、家族連れが溢れているだけだった。
「愛花・・・」僕はそう呟きさっき渡たちとスイカ割りをした隠れた砂浜に向かって歩き出した。先で待っててくれるだろうか?
答えが・・・。
4
「なんで見てくれないの?私の裸・・・」
だからなぜそうなるんだ!?
言われた場所へ来て見れば愛花が何も着ないでお出迎え・・・ってもういいよ。
「じゃ、じゃあ、聞くけどなんで僕に、は、裸見てほしいなんて思うんだ?」
「だって前は見てくれなかったし・・・―――が―――――だよ・・・」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが最初の方だけで大体わかった。
「って捕まるよ?」
「裕二君が無理やり・・・って言うから問題ないよ?」
問題オオアリだよ・・・。
「じゃ、僕は渡たちのところへ戻るから・・・って放してくれないかな?」
後ろから抱きしめられているらしい・・・肌が触れ合って幸せ・・・じゃなかった!喜んでどうする自分!
僕はとりあえず話を聞くから放してほしいと言って解放してもらった。
「それで今日は何かご用がおありで?」
「高凪純子の事で話したいことがあるの」
僕は姉の名前を聞いた瞬間、愛花が裸であることを忘れて振り返った。が、すぐに手で目を覆った。
「え、えっと・・・服着てくれない?」
愛花のため息が聞こえて服を着る音が3秒くらい続いてそのあとまた抱きしめられた。
今度は服を着ているらしい・・・けど、早すぎないかな?
抱きついてる愛花をひき剥がすと恐る恐る目をあける。と、そこには真っ白いワンピースを身に纏った愛花が居た。
愛花は僕の顔を覗き込んで目をあけてるのを確認したのか僕を日陰に引っ張っていくといきなり話し出した。
「えっとまず高凪純子は『切断公園』に喰われたんだと思う」
「喰われた?」
「そう都市伝説に遭遇することを『喰われる』って私は言ってるの・・・なんとなく食べられちゃう感じだから」そう言って愛花は自分の口をパクパクさせた。
その口をパクパクさせているのを10秒ほど続けた愛花は飽きたのか話を再開した。
「それで調べてみたら如月縁も10年前に喰われてた・・・と思う」
僕は驚かなかった縁から神隠しにあったことがあると聞いていたからだ。
それが意外だったのか愛花は話すのをいったん中断し考え始め1分ほどで考えがまとまったのか再開した。
「それでその都市伝説って言うのはたぶん『永遊広場』・・・裕二君も行ったでしょ?」
「えいゆうひろば?・・・あぁ愛花が自分から飛び込んだ・・・漢字は?」
「永遠の“永”遊園地の“遊”そして普通に“広場”って書くの・・・次行くけど、そこで遊び始めたら二度と出てこれないはずなのにどうやって如月縁が出てこれたのかなぁ?」
そうそこだ、そこが分からない。僕は愛花が居たから出てこれた・・・ってことは
「縁の他にも誰か居た?」
愛花は無言で頷くと僕に近づき抱きつくと耳元で囁いた。
「たぶんそれは―――だよ」