第五章
第五章 夏休みと、壊れたカタチ。
壊れたものは元には戻らず、
破片は心を傷つけ、
想いが溢れ出す。
それでも想いは創造され、
傷を癒そうと必死にもがく。
無限に広がる傷口に追いつけず
いつか壊れる心は誰が
癒してくれるんだろうね?
夏休みが始まって一週間が過ぎ、あれから連絡の取れない愛花を忘れかけていた僕の元に一通の手紙が届いた。そこには
「僕の誕生日パーティー?・・・あぁそっか明後日は僕の誕生日だったっけ」
本人すら忘れた誕生日を覚えてくれている渡には感謝することにする。
「うっかり年を取らないところだった」そう僕が二階への階段を上がりながら呟くと二階から降りてくるところだったらしい姉からつっこまれた。
「いや、誕生日忘れたくらいで年取らなかったらそこらじゅう不老不死のやつらで溢れかえってると思うよ?ユウ」
そうこれが僕の姉の高凪純子、特技は僕の財布からの1000円札の抜き取りで、最近の口癖は「比例、綺麗、反比例♪」だったりしてどうしようもない。
「ねぇねぇ?私も“それ”に行って良いよね?渡君の家って美味しいものがいっぱいあるから♪・・・ね?良いでしょ?ユウ」姉はそう言いながら僕が手に持っている“それ”への招待状を指差していた。
“はぁ”とため息をついて僕は姉を見る。そして招待状を読み直した後でもう一度“はぁ”とため息をつき姉に嫌そうに告げる。
「ここに『純子さんも連れてこないとプレゼントは無し!』と書いてある・・・から、いいよ・・・・・・はぁ」
「やった!今日はいい事あったよ・・・文人さん!・・・それよりユウ、ため息ばっかついてると幸せが逃げるわよ?」そう言って僕の横を通り過ぎると「比例、綺麗、反比例~♪」と言う声と共に出かけていった。
家に一人残された僕は会談を上がりきると自分の部屋のドアを開けながら呟いた。
「あれでよく彼氏が出来るよね・・・23歳の純子、お・ね・え・さ・ま」
僕の呟きはすぐに消えていった。
1
「で、何で僕は自分の誕生日会のための買出しにつき合わされてるんだろうね・・・渡。」
僕はこの町で一番でかいスーパーの前で渡に渡されたかごを持ちつつそう文句を言っていた。
姉が出かけた後、僕は自分の部屋で一人でスタダスをやりながらエロゲを攻略していると、このスーパーに大至急来るようにというメールが波子さんから来たので急いで来て見ると渡と波子さんがスタダスやりながら待っていたというわけである。
「まぁ、いいじゃないか裕二、どうせ一人でエロゲ攻略しつつスタダスやってたんだろ?」
図星を疲れた僕は何も言い返すことが出来ず黙ってしまった。それを見た渡はびっくりしたような顔で
「あれ?当たってた?いや、マジでそうだとは・・・」そう言いながらスーパーの中に急いで逃げていく。そんな渡を追いかけようと僕は走り出そうとするとさっきまでスタダスをやっていたはずの波子さんが僕の肩をつかんで優しくこう言う。
「スーパーの中で走り回っちゃダメだぞ♪」
それだけ言うと波子さんは渡を追って、走りながらスーパーの中に入っていった。
「今、自分で言ったばかりじゃないですか!」そう言って僕も走りながらスーパーの中へと入っていった。
夕方とはいえ夏なので外は蒸し暑く、スーパーの中は天国のごとく涼しくて、すぐに走るのを止めた僕は辺りを見回すと広いスーパー内で未だに走っているはずの渡と波子さんを探した。
が、しかしこのスーパー、さすがこの町で一番でかいスーパーとだけあって、人の数も広さも凄かった。
そして今はタイムセールラッシュだけあり人は尋常じゃないくらいに集まっているので二人を探そうにも前すら見えず、僕は人の波に流されることしか出来なかった。
それから10分ほどしてやっとの思いで渡と波子さんに合流できたのだが、二人も僕と同じ波に巻き込まれていたらしく、結局のところずっと一緒にいたらしい。
「おい、大丈夫か?波子・・・痛いところはない?」渡はふらつく波子さんを支えてあげながらそう優しく聞いていた。波子さんは渡の問いに頷きで返すとシュパッと一人で立てることをアピールするように立ち「大丈夫!」と、言って歩き出したがすぐに渡に後ろから抱き締められてしまう。
波子さんに渡は何かを囁いているが僕には聞き取れなかった。いや、ワザと聞かなかった。聞いちゃいけない気がした。
少しして波子さんを連れて渡は帰ってしまった。僕に買うものを記したメモを残して・・・。
「渡・・・僕にも少しは優しくしてくれよ・・・タマゴ100個は流石にもって帰れるわけないだろ・・・」僕はとりあえず買えるものだけ買って渡の家に行くことにした。
2
渡の親は意外と金持ちで僕の親と違って仕事の都合上家をあけることが多いが僕の家と違うのはメイドがいることだった。
だがこのときの僕は買ったものの量が量なのでインターホンを押そうにも押せないで困っていた。
僕がとりあえず一旦荷物を置こうとしたとき、買い物袋の向こうから声がした。
「おぉ、姫の見舞いのとき以来だな・・・ってそんな前でもないか、それより半分よこせ裕二よ!ありがた~い絆先輩が持ってあげよう!」と、ふざけたことを抜かした絆先輩を無視して僕は荷物を全部、絆先輩に渡すとさっさと門を開け渡の家へと向かった。
後ろの方から「先輩は労われーーー!!って重すぎだよ!」とか聞こえた気がしたが気のせいだと思うことにした。
なんせ門から渡の家までは100メートル近くあるからだ。
「歩くことに集中しないと・・・後ろは無視、無視。」僕は淡々と歩いた。
「待て、マジで半分持ってください。裕二様~!」
無視、無視♪
家の前まで着くとドアを開け「お邪魔しまーす」といいながらズカズカと入っていく掃除をしていたメイドが挨拶をしてくれる。
僕はとりあえず渡の部屋へ向かうことにして後ろの先輩を片付けるように、とメイドに言った。するとノリのいいらしいメイドは「不燃ごみでしょうか?それともどうしようもなく不燃ごみでしょうか?」
僕は後者を選んで渡の部屋へ向かった。
渡の部屋の前まで来ると僕は、ドアの右側にある赤いスイッチのようなものを押した。
少ししてスイッチの下にある小さな穴の集合体から声が聞こえてきた。
『おぉ裕二か、ちょっと待っててくれ波子がまだ復帰できてないんだ。』
ちょっと待っててと言われたので、少しのお出かけ用の斜めがけのバッグからゲームを取り出してスリープモードを解除した。
画面に映し出されたのは真っ白い世界だった。
真紅のチャイナ服を纏った黒く長い髪の少女はそんな世界に一人でポツンとセーブゾーンに立っていた。
ちなみにここはラスボス戦前の白き悪夢の迷宮の最深部で、主人公があと20歩ほど歩けばラスボスとのイベントが始まる。
僕は昨日やっとここにたどり着きラスボスに挑んだのだが、相手のスキルの発動タイミングがつかめず、あっという間に僕のキャラの『Rei』はHPを削られ負けてしまった。
再戦しようとしたがすでに夜中の2時半をまわっていたのでやめて寝ることにし、今から昨日のリベンジをしようとつけたわけだが・・・。
ラスボス前のめちゃくちゃ長いイベントをSTARTボタンで飛ばし戦闘画面に切り替わりラスボスである真っ白い少年が『最初で最後の、楽しいパーティーの始まりだねッ!』そう言って自分の右腕を前に突き出し片刃の長剣に変化させた。
僕のキャラのReiはそんなラスボスに対して『ぱーてぃ?・・・それ・・・切り刻んでもイイ?』そう言ってReiもラスボスと同じように右腕を突き出し長剣に変えた。
ここから戦闘が開始される。まずReiは相手の乱れ切りスキルをかわそうと右に連続ステップを踏む、が振り切れず少しダメージ受けてしまう。
すぐにこちらもスキル『百鬼』で連続攻撃を与えるも殆どガードされてしまいあまりダメージを与えられない。さらに追撃として必殺スキル『月光一夜』を使う。
この『月光一夜』は相手がガードしてるときにのみヒットする技で、終盤は必須になるスキルなんだけど・・・SPの消費がすごく多くてその割にダメージが少ないっていう欠点がある。ただ、そこからコンボをいくらでも組み込めるので前回から使っているスキルでもあった。
Reiは『月光一夜』をうち終えるとさっきはガードされた『百鬼』を使ってダメージをあたえ、その後『百鬼』の上位スキルである『百鬼夜行』へとつなげた。
画面が暗転しReiは呟いた。
『ジカンガコオッタラワタシノジカン・・・』
画面は灰色になりその中でReiが相手の前まで歩いて行くと長剣になった右手を振り上げそして切り刻み始めた。
それが少し続いた後、Reiは切り刻むのを止め、また呟いた。
『ヒャッキハカエッテジカンモモドッテサヨナラダケガノコッテル』
そして相手に背を向けるとReiは画面外へ消えて『さよなら・・・』と声だけが響いて時間が動き出すと相手は吹き飛び暗転が解けた。
ここでいったん戦闘画面からイベントに切り替わった。
『僕は死なないよ・・・君を倒して僕は手に入れるんだッ!!』そう叫んだラスボスは真っ黒い仮面をつけた。それと同時にフィールドは黒で染まりラスボスは黒い翼を背中からはやしてそれで羽ばたくと『二回戦の始まりだよッ!』そう言って戦闘画面へと戻った。
今度は飛んでる敵を攻撃しなければならないので大変だ。
昨日はこいつに攻撃を与えられず負けたので既にクリアしている渡と波子さんに聞こうといったんメニューを開いてもう一度スイッチを押そうとしたとき、いきなりドアが開いた。
「わりぃ、待たせたな・・・って何驚いてんだ?」
「それより波子さんは大丈夫?」僕は驚いたのを隠すようにそう聞いた。
「波子は泣き止んだ途端にスタダスでラスボ狩りを始めた。ラスボが1%で落とす素材が欲しいらしい・・・ってことでお前も手伝え!ラスボスくらい余裕だろ?」
「いや、それが・・・・・・第二形態で苦戦中で・・・まだエンディングすら」
それを聞いた渡は「波子の見れば勝てる」とそれだけ言って部屋の奥まで連れていく。
渡の部屋には何度も入ったことがあるのだがやはり毎回思ってしまうのが『広い!』ってことで、なんせどこかのマンションの何号室だかをそのまま渡の部屋にした感じなのだ。
もしかすると僕の家より広いかもしれない。
波子さんがいる場所に着くとまさにラスボスの第一形態を倒したところだった。
イベントは飛ばされてすぐに第二形態との戦闘画面がテレビに映し出された。
そこでは波子さんの操るロリキャラがツインテールをパタパタさせながら通常攻撃を二段階目まで放った後、スキルの『追牙爆炎』を使って相手を打ち上げるとすぐにガードキャンセルして落ちてきた相手にまた通常攻撃の二段階目まで当てて『追牙爆炎』で打ち上げる。そのコンボを繰り返していた。
「な?これでさっきから難易度最高で狩ってるんだぜ?『追牙爆炎』ってダメージが高い割にSP消費が少ないじゃん?でも、打ち上げるから使いづらい・・・それをガードキャンセルで打ち上げた後の硬直を消して、落ちてきた相手を通常攻撃で攻撃してSPを回復。完全な無現コンボの完成って感じ・・・ってか俺も第二形態苦戦してたらこれ見せられたんだけどな・・・。」そう言って渡は波子さんに後ろから抱きつく、波子さんは何も言わずにコンボを繰り返す。
波子さんがラスボスを倒し終わり明後日行われる僕の誕生日パーティーの予定を聞き帰ろうとした僕を渡が呼びとめた。
「ちょい話したいんだが、良いか?」
「うん、いいけど何?」僕は首を少し傾げながらそう言うと渡はベランダの出た。
「あのさ、俺は波子さんが居なくなったら生きていけない。いや、生きたくなくなる・・・お前は縁さんが死んだあとどうするんだ?」
「いきなりその話か・・・僕は渡のように死ぬなんて言えない・・・縁が死んでそれからのことなんて考えたくないよ。少なくとも今はまだ考えちゃいけない・・・そう思ってる。」
「だけどいつか答えを出さなきゃいけなくなるぞ?・・・お前は縁さんが死んだら他の女を好きになって、結婚して、それで暮らすのか?」渡は何度も僕に問う。僕は答えなきゃいけない・・・でも、答えたくなかった。考えたくなかった。信じてれば縁は生きる・・・そう思いたかった。思っていたかった。
「縁は死なない・・・僕は信じて待つよ。答えを出さずにその時が来るまで信じて待つよ。」
「信じて待つ・・・か、さすが縁さんに告白して半年待った結果付き合ってもらえるようになっただけある・・・どこかの先輩とは違うな・・・だが、生きる可能性は低いんだろ?」
「まぁね、だけど僕には待つことくらいしか出来ないから・・・」
「会いに行けばいい、そして傍に居てやればいい、後悔しないように・・・俺のようにな」
渡は星空を見上げながら懐かしそうにそう言った。僕が昔、渡に言った言葉をほとんどそのまま返されてしまった。
僕はどう返していいのか分からず、ただ「うん・・・」そう頷くことしかできなかった。
「それじゃ、また明後日な」と、言った渡は星空を見上げるのを止め部屋に戻っていく、僕もそれに続くように部屋に戻りそれから玄関に向かう。
その途中で波子さんとすれ違った。どうやら今日はここに泊るらしい。
またファッションショーでもやるのだろうか?などと考えているうちに玄関にたどり着きメイドたちの見送りを受け、門のところまで走った。
が、すぐに息が切れてしまい立ち止まる。
体力が少し落ちたらしい、昔は縁に呼び出されては走って行っていたので体力が少しはあったのだが今はもうダメらしい。最近頑張ることを止めたせいだろうか?歩きながらそう思い縁が呼び出してた頃のことを思い出した。
「確か最初は雑誌買ってきてって言われたんだっけ?次は生理用品・・・よく考えたらロクな買い物じゃないな・・・はぁ」
ため息をついたところでちょうど門の目の前だった。
明後日は僕の誕生日・・・ここに来る前に縁のところに行ってあげよう。そう決めて僕は帰路につく。
『焼却交差点』
「え?」僕は何か聞こえた気がして振り返るが誰もいない。
気のせいということにして急いで家に帰った。
次の日の朝のニュースで知ることになる。
『昨夜午前1時ごろ躑躅町の交差点で人が突然燃えたという―――』
「嘘・・・だろ?」僕はパンを落とした。
そして日常が壊れた。
お話は加速して壊れてしまったようです。
気をつけなくてはいけませんね・・・。
これからどんどん裕二の日常が壊れていきます。
それではまた次の章でお会いしましょう・・・。
このあとがきは白猫ノ夏がお送りいたしました。