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サイドストーリー2

           ラストデートクリスマス


十二月二十四日、午前六時四十三分。

高校生の僕にしては早い目覚めを向かえ、そして、一通のメールを受け取った。


件名:待ち合わせ時間


本文


朝早くから、すみません!

九時に街の北にある映画館で待ってます!


By由梨


一年前に事故で死んだ。僕の始めての彼女からのメールだった。

「ホラーじゃん!」

暖房器具が、まだ稼動してない部屋で僕はそう言ったあと、一回震えてから布団から出ると早々に着替えを済ませ、両親が寝ているのを確認してから厚手のベージュ色のコートを着て外へ出た。

吐く息は当たり前のように白くなり、冷たい風がむき出しの顔を突き刺した。

「おぉ~寒みぃ」

十二月二十四日午前七時、世界から人が居なくなった。

僕を除いては・・・。



毎日の日課であるジョギングをして家に戻ってくる頃には七時半を過ぎていた。

冬休みに入って友人たちが皆揃って彼女を連れて毎日のように予定を立てていたので、一年前とは違い、僕は暇を持て余していた。

実際のところ彼女を失ってから半年もしないうちに僕は二年生となり、当たり前のように後輩が入ってきて、それから当たり前のように告白された。

「好きです!」

何度も何度も、そんな想いを告げられては、「ごめんなさい」と断ったことか・・・。

思い出し、ため息をつきながら冬だと言うのに冷蔵庫からよく冷えた麦茶を取り出すとコップに注いだ。

それを一気に飲み干すと両親がまだ起きていない事に気が付いた。

あっれ~?まだ寝てんのかなぁ~、と思い両親の寝室に入る。さっきまで両親が寝ていたはずのベッドが空になっているのを見て、考え、そして答えを口に出して見る。

「デートか・・・」

今日はクリスマスイヴなのだ。

男女が揃えばデートが確定される日なのだ。

ってことは今日の僕は一人なわけだ。とりあえず、朝ごはんを自分で用意して食べながら何をして過ごそうか、と、思いつつノートパソコンを立ち上げて、それから林檎ジャムを塗りたくった食パンを片手に持ち、もう片方の手でキーボードを叩いて検索ワードを打ち込む。

「躑躅町・・・映画館っと」

Enterを押して検索を開始。すぐに検索結果が表示される。


検索件数:1


検索結果を見て僕は、いつもと同じようにため息をついた。

この僕の住んでいる田舎にも似た山に囲まれた街である躑躅町は他の場所とは違いがある。一つは当たり前のように都市伝説が溢れていることと、もう一つは、周りの街は愚か、この躑躅町の住人以外はこの町の存在を知らないことだった。

ただ、ネットワークの中には、確かに組み込まれていた。

一度、パンを皿の上に置くと、マウスを使ってカーソルを動かし一番上に表示された一件のみの検索結果をクリックした。

映画館の写真が載せられているページが検索したときと同じくすぐに表示される。

どうやら去年行った映画館は無くなって、今は躑躅駅から徒歩五分のところしかないようだった。

『ねぇ?来年のクリスマスイヴに、『終わり』って言う映画を見ない?』

不意に呼び起こされた記憶の中で、死んでしまった彼女がそう言っていた。

そう言えば去年、彼女と映画を見に行ったときの帰り際に、彼女が言ったのだ。

僕は映画館の今日の上映予定表を探す・・・あった!

「今日の九時二十分から・・・『終わり』上映時間は二時間。」

独り言と分かっていながら口に出してしまう。そしてポケットから携帯を取り出すと、朝に届いたメールを再度開いた。

本文をもう一度読んで、それからパソコンの画面に目線を戻すと、映画館が街の北側にあることを確認しようとした。

だが、映画館は街の北と言うよりか、中心に位置していた。

むしろ去年、彼女と行った映画館のほうが北のほうだった気がした。

気になってもう一度検索をかけて見るが、やはり結果は同じで一件しか表示されなかった。もしかして、と思い時計で時間を確認してから友人に電話を掛けようとした。

「圏外?」

玄関でも試したが何も変わらず、意味も無く携帯を振ってみたりするが、圏外と表示されたままだった。

面倒くさいが、家電を使って掛けることにした。

だが、結局つながらず、連絡が取れなかった。

とりあえず、テーブルに戻り、食べかけの食パンを口に無理やり詰め込むと、コートを再度着てからショルダーバックの中に財布があることを確認し、靴を履いて外へ出る。

食パンをゴクリと飲み込むと、自転車のチェーンを外し勢い良く駆け出し跨った。

「まずは映画館!」

僕はそう言って加速した。



午前八時五十二分。

僕は既に街の異変に気付いていた。

最初に、おかしいなと思い始めたのは自転車を漕ぎ始めてから五分ほど立ってからだった。

街に出たのに誰ともすれ違わないのだ。

辺りを見回せば明かりがついているコンビニの中に店員の姿が無かったり、エンジンが掛かってるのに止まったままの車の列だったり、街から僕以外の人が皆、消えてしまったかのようだった。

僕は次第に焦り始めていた。躑躅駅に近づくにつれ、映画館のことよりも、誰かに会いたいと思い始めていた。

何度も止まっては携帯を開いて圏外の文字を目にした。

そして気がついたら九時数分前になっていた。

「落ち着け・・・落ち着け・・・・・・」

自分にそう言い聞かせ、映画館へと向かうために自転車を漕ぎ出した。



映画館にたどり着いた僕は携帯で時間を確認した。

八時五十九分。

ギリギリ間に合った。・・・間に合った?

「何やってんだよっ!」

彼女は死んだんだ。

去年のクリスマスイヴに、僕の目の前で車に撥ねられて死んだ。

即死だった。

数秒前まで笑顔で楽しそうに会話を弾ませていた。

でも、それが悪かったんだ。

信号は赤だった。

「ねぇ、大丈夫?」

突然話しかけられた。ハッ!と、我にかえり前を見ると、其処には見知らぬパジャマ姿の髪の長い少女がいた。

たぶん、僕よりも年下だろうと思っていたら、心を呼んだかのように目の前の少女は笑みを浮かべて言った。

「私、十八よ?」

その言葉に少し驚いてしまったが、人に会えたことにより内心ホッとしていた。

「僕は――――、君は?」

「きさらぎゆかり如月縁」

まるで僕が何を言うのかを知っていたかのような答え方だった。

少しの沈黙の後、先に口を開いたのは如月縁のほうからだった。

「ねぇ、入らないの?」

「人を待ってるんだ」

すぐにそう答えると返答が即座に来た。

「私はあなたを待っていたんだけど?」

その言葉に僕は、すぐには返答することが出来なかった。

数秒の間を置いて、それからやっと言葉が出てきた。

「朝のメールって君?」

「違う」

また即答だった。

「じゃあ、あれは・・・」

「天野由梨が一年前に送信予約していたメール」

如月縁の言葉は素っ気無く、でも、的確に僕の言葉に対する答えを打ち出していた。

「あぁ、面倒くさいっ!」

突然、何かに耐え切れなくなったかのように如月縁は僕の手をぐいぐいと引いて、映画館の中へと連れて行こうとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「何ッ!」

怒った顔で振り向いた如月縁は足を止めて僕を睨みつけた。

僕は一瞬、怖いと思ったが、すぐに平静を取り戻すと口を開いた。

「僕は由梨を待たなきゃいけないんだ」

それを聞いた如月縁は睨むのを止め、冷たい声で言った。

「天野由梨は死んだの・・・」

「じゃあ!」

僕の言葉を遮るように如月縁は続けた。

「これは彼女が望んだ最後のデートよ。」



『どうして?・・・好きって言ったじゃないかッ!』

『だからだよ・・・好きだから、あなたより先に死にたいの・・・もう・・・もう、好きな人が死ぬのを見たくないのッ!』

スクリーンの中では裸の少年少女が生きること、それと死ぬこと戦っていた。

映画はクライマックスだった。

正直なところ僕は隣に座るパジャマ姿の少女の如月縁に言われたことで、頭がいっぱいで、何もかもが右の耳から入っては左の耳から抜けていくようだった。

『私の人生の最後を鮮やかな色で染めてくれて、ありがとう、ね?あと、願いを叶えてくれるんだっけ?・・・じゃあ、さ、これを刺したあと、抜いてくれないかな?出来れば楽に死にたいから・・・』

スクリーンの中の少女はそう言ったあと、自分の首にナイフを突き刺した。

そこで映画は終わり、エンドロールになった。

数分のエンドロールも終わり明かりがつくと、すぐに如月縁は立ち上がり、早く出ようと僕を急かした。

立ち上がるとふらついた。そんなふらつく足を無理やり動かし如月縁に付いて行く。外に出ると既に日が暮れかけていた。

その疑問を如月縁に訊こうとすると先に質問をされた。

「さっきの映画のヒロインが言った『好きだから、あなたより先に死にたい』ってあれ、どう思う?」

「どう思うって言われても・・・」

分かるわけがない。そう言おうとしたが遮られた。

「あなたには分からないでしょうね。彼女が、天野由梨が死んだ理由も分からないあなたには・・・」

俯いていた僕は顔を上げた。

すると既に如月縁は背を向けており、無言だがその小さな背中は、付いて来いと言っている様だった。

僕は知りたいと思った。だから、迷うことなく歩いて如月縁の後ろに付いていった。



そこは躑躅町を見渡せる高台だった。

夜が訪れたここから見えるのは星空とぽつぽつと点いた街の明かりだけだった。

近くにあるベンチに如月縁は腰を下ろすと、さっきから閉ざしていた口を開いた。

「この世界には色々な力を持った人間がいる。例えば時間を止める者や全てを消し去る者がいる。そういう人たちを私はクリエイター創造者と呼んでいるの。天野由梨、彼女もまた創造者だったわ・・・。」

「意味が分からない!」

「でしょうね。でも、事実よ。」

どうやら如月縁は超能力者が実在すると言いたいらしい。そして由梨も超能力者だったのだと・・・。

僕が理解しようがしまいがどうでもいいというように、如月縁は言葉を続けた。

「彼女はカーテンコ終幕ールのクリエイター創造者。つまり世界を終わらせる存在だった。でも、あなたを好きになり世界を終わらせたくなくなった。ずっとあなたと一緒に居たいと思うようになったのよ。」

その言葉を聞いた途端、僕の頭は答えを導き出していた。

最悪のシナリオだった。

導き出せたのは当たり前、なぜならさっき同じ終幕を見たからだ。

「そう彼女は、あなたが居る、この世界を終わらせないために、死を選んだの。」

叫びたくなる。

でも、声なんて出てこない。

声の代わりに涙が溢れ出した。

涙で視界がぼやける。代わりに街の明かりが綺麗に輝いて見えた。

「でも、彼女は死ぬ前に仕掛けを用意したの。それが朝のメールであり、季節はずれの・・・」

そこまで言うと如月縁は夜空を見上げた。

ドーンッ!!

そんな大きな音と共に、夜空に花火が咲いた。

「彼女はね。世界が嫌いだったの。誰もが憎しみを、悲しみを抱いている世界が・・・。でも、あなたが変えたのよ!終わらせるだけの存在を!誰かを生かす存在にッ!」

もう、ぐしゃぐしゃだった。涙が止まらなかった。感情が押さえきれなかった。

そんな僕に如月縁は手紙を渡した。

「これで私の役目は、おしまい。でも、最後に一つだけオマケしてあげるわ・・・。」

如月縁はそう言って消えた。

僕は涙をごしごしと乱暴に袖で拭くと、封筒を開けて手紙を読んだ。



拝啓

なんて堅苦しいものは要らないよね?

これを読んでるってことは全部知ってるんだよね?

知ってるのを前提で話します。

私は世界を終わらせること以外にもう一つ力があったりします。

それは未来を見ることです。ですから映画を『終わり』を見よう、っていったんですよ?

でも、それは叶わぬ願いだったんですよね・・・。

だから、メールや花火に手紙なんてものを残したんですけど、必要なかったですか?

もしかして新しい彼女とか居ますか?そうだったら、ごめんなさい。

でも、もし彼女が居ないんだったら、ありがとうございます。

私のことを好きで居続けてくれて、ありがとう。

私は君が大好き。だから、この世界を去ります。

君には生きて、幸せになって欲しいです。

私のことなんて忘れてください。

私のことを忘れて幸せになってください。

私のことを好きになってくれて、本当にありがとう。


By由梨



冬なのに凄く暖かかった。

僕は彼女に包まれている・・・そんな気がした。



気が付くとそこは近所の公園だった。

毎日に日課のジョギングをしている途中で立ち寄った公園でついつい寝てしまったらしい。冬休みに入って慣れない早起きなんてするからこうなるんだと思った。

夢を見ていた気がするのだがよく思い出せない。

思い出せないと言う事は、別に大した夢ではなかったのだろう、そう思い「まぁ、いっか!」と、言いながら立ち上がる。

「さて、早く帰らないと!」

そう言ってからまた走り出した。

今日は十二月二十四日、クリスマスイヴ。

男女が揃えばデートは決定事項なのだ。

僕には彼女がいる。

だから、今日も僕は幸せだ。

高校生活で初めてのクリスマスイヴなんだ。


End

お久しぶりだと、思います。白猫ノ夏です。

えっと、今回のサイドストーリーは実は結構前に書き終えていたのですが、まぁなんというか、載せ忘れていたわけです、はい。

それで、次のお話も別のお話もまだ未定ですが、年内には載せようかな?、と、一応思っております。

ですので、これを読んでくれた方、少しでも楽しめた方は待っていてくれると幸いです。

そして指摘し始めたらキリが無いような下手な文章を読んでくださって、ありがとうございます。

それでは今回はこの辺で、ドロン!

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