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第十章

第十章 想いや願いはカタチになる。



君に触れたこの手が朽ちて

君の見た風景が消えてゆき

君の愛した僕は過去に縛り付けられる。

僕は君に何もしてあげられずに

僕は君を幸せにすることなく

僕が君に笑顔を見せて消えてゆく。

行きつく先は闇の中

光を求めた僕が今度は闇を求めた。

絶望という名の闇の中で僕は君の名を呼んで

絶望が生まれ

希望という名の光がそれを焼き払う。

君を忘れよう、それが僕に出来る唯一の償い。

君を忘れよう、それが僕にとっての愛のカタチ。



病室に入ると、体を起して窓の外を眺めている縁が居た。

「入っていいとは言ってないわよ?」

僕の方を見ないで窓の外で降り続ける雨に濡れる町を瞬きもせずに見ながら、縁は愛想なんてものが無い声でそう言って僕の方を見た。

「久しぶりだね・・・縁」

僕がそう言った途端、縁はまたそっぽを向いてしまった。

僕は縁の居るベッドまでい入口から五歩でたどり着くと、縁の頬に触れて温もりを感じた。久しぶりに感じた温もりに心が驚いているのか、僕の心臓の鼓動は急に早くなった。

「寂しかった・・・」

そう呟いた縁は、濡れているのなんてお構いなしという感じで僕を強く抱きしめた。

身動きが取れなかった。と、言うよりも動きたくなかった。

縁の体温をこのままずっと感じていたかった。心臓がゆっくりと脈打つことを禁じているように益々鼓動が速くなる。

「大好きだよ・・・縁」

僕がそう言った瞬間、縁が突き飛ばしてきた。

「ウソツキッ!!」

どうやらバレたらしい、“本当の縁”に言った言葉だということが・・・。

「じゃあ、ヒントくれない?伝説創者のお人形さん♪」

僕は立ちあがりながらそう偽物の縁に言った。

「時間が消えて、光が溢れだす。」

それだけ言うと目の前に居る縁は結晶となって砕け散ってしまった。

「ありがとう・・・縁」

僕はそう言って消えた。



僕が病室に入るとそこには誰も居なかった。

ただ、誰かの足跡とバケツをひっくり返したような水たまりがあるだけだった。

僕はすぐに病室を確かめようとしたのだが、その場から動くことが出来なくなっていた。

「テントに入っていきなり『永久電車』に放り込まれたと思ったら、今度は『束縛病棟』って何で僕と縁が考えた話ばかり・・・。」

『焼却交差点』『切断公園』『束縛病棟』『封鎖冷却』あともう一つ・・・。

「あれ?思い出せない・・・まぁ縁に聞けばいいか。それよりこれを何とかしないとッ!」

そう言いながら無理やり動こうとするのだが結局、抜け出すことが出来ないので考えに浸ろうとしたその時、後ろの方から“カチャ、カチャ”という、ロボットが歩いてくるような音が聞こえた。

「あぁ、これは覚えてる。十五分で抜け出せないと切り刻まれるんだっけ?・・・さぁ急いで考えないと♪」

のんきに言っている場合ではないのだが、こうでもしないとまともに考えていられるわけがなかった。

「えっと抜け出す方法・・・僕は名前専門だったから、抜け出し方は知らないんだよね・・・はぁ、今日は本当に不幸日和って感じな日だ・・・はぁ」

ため息をついている場合でもないのだが、分からないものは分からないのだ。

足音がどんどん近付いてきているのが分かる。あと数分で僕にたどり着きそうな感じだった。目を閉じ、集中するために深呼吸しようとして手をクロスさせ息を吐き、そして広げながら息を吸った。

「って動けるじゃん!?」

何で抜けられたのかは分からないが、とりあえずラッキーだったということにして目をあけた。すると今度は自分の部屋に居た。

窓の外を見るとそこには星空が広がっており、星が流れまくっていた。

綺麗だな、などと思いつつ女子のようにお願いでもしようと手を合わせた時に気づいた。

部屋が物凄く寒いことに・・・。

「あぁ、やっぱり・・・今度は『封鎖冷却』ってことね。どうやって出るんだっけ?これは僕も一緒に考えた記憶が・・・あるような、ないような・・・・・・。」

あぁどうしてこうも僕の記憶はあいまいなんだッ!と、思いっきり凍りついた本棚を叩いた。すると呆気なく本棚は砕けて崩れた。

「うわぁ~あっさり砕けた・・・ってことはドアも砕けたりして」

とか言ってしまったので僕はとりあえずダメもとでドアの前に立つと、思いっきり殴った。が、単に自分の拳を痛めるだけという当たり前の結果になった。

一分ほど冷たい床で悶え転がり、ようやく痛みが引いてくる頃には身体が冷え切っており、早くここから出ないと凍え死ぬ。

でも、ヒントも一切ないこの状態でどうやって出ればいいのか分からない。

まずはヒント探しから、と部屋を見回し始めてすぐにヒントは見つかった。

机の上にコップが二つ置いてある。

一つには湯気の立つ茶色の飲み物が、もう一方には湯気の立っていない同じく茶色の飲み物が入ったコップが置いてあり、コップとコップの間に紙が置かれておりそこには『片方は毒』と、書かれていた。

これってどっちが毒入りってことだよね?ってことは寒いここなら温かい方に入れておけば皆飲んで死ぬ。でも、それは皆もわかっているから冷たい方を飲む。でもでも結局寒いから死ぬ。じゃあ、温かい方を飲めば出られる?ってわけでもないか・・・。

「じゃあ、こっち!」と、言ってコップに手を伸ばす。

そしてコップを手に取ると口まで運び、斜めに傾けて中身の液体を飲みほした。

「ココアか・・・ごちそうさま。」そう言って机の上にコップを置いた瞬間、いきなり視界が真っ暗になり何も見えない状態になった。

「え!?」と、言う誰かの声が横でしたと思ったら、すぐ視界に光が戻った。

僕は気づくと椅子に座っていた。そして僕の右には愛花が座っており左には波子さんが、その隣には渡が居て、最後に愛花の隣に鈴音さんが座っていた。

五角形のテーブルを五人で囲んでいる状態らしかった。

テーブルの中央には大・中・小さまざまなオニギリが所狭しと並べられたお皿が置いてあり、僕を含めた全員の前には麦茶が置かれていた。

僕が“キョトン”とした顔をしていたのか、渡が「大丈夫か?」と、聞いてきたのでとりあえず頷いておき、愛花の方を見た。

愛花はどうして自分が見つめられているのか分からない様子で、どう対応していいのか分からず慌ててキョロキョロと渡と波子さんを交互に見て助けを求めているらしかった。

最初、僕は何が何だか分からなかったが、頭が少しずつ動き始めたらしく「戻ってきたんだ」と、言うことが何となくわかってきたので、今が何時なのかを確認しようと腕を見て時計が無いことに気がついた。

どうやら朝、慌てていたのでつけ忘れたらしい。

渡は僕が時間を確認したいんだと瞬時に察知したのか、すぐに腕時計で確認して教えてくれた。

「それにしても腕時計の持ち込みすら禁止されそうになるとは思わなかった。最近は腕時計の中に麻酔銃やら、ノートの切れ端やらを仕込んで持ち込む奴が居るなんて聞いたことなかったよ、俺は」そう愚痴ったのは渡だった。

僕はとりあえず周りのみんなと同じように頷き、あと三時間の中でどこを回ろうかと思案していた。

少しして愛花がトイレに行くと言うので「僕も・・・」と、言って共にテントを出た。

テントを出てトイレまであと十メートルというところまで来た時、テントを出てからずっと黙っていた愛花が突然僕の方を向いたかと思うと手を取って言った。

「デート・・・しようか・・・。」

顔を赤らめて恥ずかしそうに言う愛花は可愛いと思った。ただ、そう思った。

「いいよ」と、即答すると僕は愛花の手を握り返す。

汗でぬれていた。でも、それが僕にとっては心地よいものだった。

そして久しぶりに握る、女性の手だった。



デートと言っても、ここは遊園地でも水族館でも動物園でもなければ映画館でもない。

そんな場所でどうデートをすればいいのかなんて、ただでさえ縁に付いて行くだけのデートにしか行ったことのない僕に言われても困るわけでして・・・デート開始五分も経たないうちに沈黙が始まり、それを何度も打ち破ろうとするものの結局、会話が続かずにあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、と気付いた時には大学ブースの半分以上を回ってしまっていた。

時計が無く、時間がわからないので一旦テントに戻ろうか?そう僕が愛花に聞くと“ガシッ!!”という感じで腕をホールドされてしまった。どうやらまだ二人で回りたいらしいが、渡たちとも合流・・・まぁ良いか今日くらいは二人きりでも・・・?突然頭の中で声が鳴り響く。

『違うよ!―――、――は、―――じゃなくて――を選んだんだよ!でも――は――が大――なんだね・・・。』

そして続けて聞こえてくる。

『――は――が大――だよ・・・―――・・・ね。』

僕は途切れ途切れに聞こえてくる声が何なのか、海でも聞こえた声が今、なぜ?聞こえたのか・・・そしてどんな言葉なのか・・・。

「もうすぐ終わりだね・・・夏。」

愛花が突然そんなことを言いだした。

「う、うん・・・」と、答え思考に戻ろうとしたが愛花の寂しそうな顔が気になってしまい、考えられなかった。

縁も確かこんな顔で・・・・・・そうだ、聞かなきゃいけない・・・縁に真実を・・・。

僕が愛花の腕から逃れ、背を向けて走り出そうとしたときだった。

「行っちゃ嫌だよ・・・。」

その言葉を聞いた途端、動けなくなった。

心は揺らぐものだけど、ここまで揺らいだのは初めてだった。

走って縁のもとへ向かいたいのと、愛花の何かで付けられた見えない傷を癒したいのとで、ここまで揺らぐとは思わなかった。

縁は、今は友達だけど大切な人で、愛花はほんの一ヶ月くらい前に知り合った友人・・・。

でも、ここまで心が揺れる。右へ、左へ、行ったり来たりを繰り返す。

「ねぇ?愛花・・・僕が好きなの?」

聞いてみた。問うてみた。返答を待ってみた。

愛花はすぐに答えてくれた。答えをくれた。

「大嫌いだったよ・・・裕二君。」

「だった?・・・いつまで?」

僕は振り返って愛花を見ると、彼女は笑顔で答えた。

「今日の夜まで♪」

そう言うと僕の横を走って行ってしまった。

すぐに振り返るが愛花の姿は無かった。



僕はテントに戻ると縁に会いに行くことを渡に告げて、古本市を後にした。

今は願いの形なんてどうでもよかった。

縁に会いたい、それだけを心に言い聞かせて走って、走って、走って、駅に着くと電車に乗って絆町へ向かう。

「今日は起きてるだろうか・・・縁」

僕は窓の外の流れていく風景をボーっと眺めつつ、そう呟いた。


電車を降りるとまた走り出した。

息が続かない、最近は縁が病院に入る前と違って外に出る理由が殆どなかったから、身体を動かす機会が無かったからだと思った。

病院まで走っては休み、走っては休みを繰り返して七分ほどで着いた。

病室までは歩きで呼吸を整えつつ向かうことにした。

縁が入院した当初は毎日のように通った病室が、今はすごく遠く感じられた。

歩いても、歩いても、たどり着けないんじゃないかと思うくらい長く感じられた。

それでも階段を一段ずつ上がって行き、三階にたどり着き、すぐに縁の病室の目の前にたどり着いてしまう。

「入るよ、縁・・・。」

そう言って僕は病室のドアを開けた。

縁は起きていた。

僕が一人で来るといつも寝ていたのに、そして寝顔を見るのが楽しみだったのに、最近は起きている・・・どうしてだろうか?

窓の外を見る。夕焼けの空が広がっている。

さっき一階のロビーで時計を見たとき、五時ちょっと過ぎをさしていたので当たり前だと一瞬思ったが、すぐに気が付いた。

「これも都市伝説?」

でも、そんなはずは・・・と、さっきまで外を眺めていた縁がこちらを向いていた。

その目は冷たく僕を見つめていた。

「裕二、今日が“終わりの日”って言ったら驚く?」

縁はそう言って微笑んだ。

驚くことなんて出来なかった。そもそも僕はわけが分からなくなっていた。

「聞いてるの?・・・ん、あぁ気付いたの。遅いね、裕二は。」

縁は僕の目線の先を見てそう言った後、ベッドから降りて僕の方へゆらゆらとした千鳥足で歩いてきた。

目の前で止まった縁は僕をベッドまで連れて行こうとする。

それに抵抗することなく連れて行かれ、ベッドに寝かされた。

「どうして!?・・・どうして?・・・どうしてッ!」

そう叫びながら起き上ろうとするのを縁は僕に倒れ込むのように押さえつけて阻止した。

そうしたあと僕の上に全身を密着させるように乗っかると、耳元で囁いてきた。

「教えて欲しいの?じゃあねぇ~エッチなことしてくれたら教えてあげるよ?・・・とかは、言わない。だってそれじゃあ君が犯した愛花って人と同じ、だ・か・らっ♪」

縁は僕の上で、目の前で微笑んでいる。ただ、目は冷たく笑っていなかった。

怖い。

それが僕の今の心が訴えている感情、恐怖だった。

鼓動はどんどん速くなっていく、でもそれは“ドキドキ”してとかそんなものじゃなかった。ただただ、怖くて、理由や現実がどれなのか知りたくて、縁に僕の口が勝手に聞いていた。

「なんで、カレンダーでの今日の日付が、12月24日なの?」

縁は身体を起こすと僕に跨った状態で着てるパジャマのボタンをはずし始めた。

全て外して前をあけ脱いでから、今度は肌着を脱いだ。

「私の病気、裕二には癌って教えたけど・・・あれ嘘なの。本当はこういう風になっちゃったから、嫌われないように言っただけなの。」

僕は縁の上半身の裸は見慣れてはいたが、驚かずには居られなかった。

「嫌いになった?こんな身体で好きなやつは変態ぐらいじゃない?」

返答を求めてくる縁に対してどう答えて良いのか分からなかった。

今度は立ちあがってパジャマのズボンの方も脱ぎ始めた。こちらも上半身と同じで、すぐに普通とは違うのが分かった。

全て脱ぎ終わると、パジャマなどの身に着けていたものを床に捨てるように放り投げ、もう一度僕に“ピットリ”とくっついてきた。

突然キスをされ、口をふさがれる。僕は眼を開けたまま終わるのをただじっと待った。

縁の舌が僕の口の中を舐めまわしていた。まるで僕の色を奪うかのように、激しく何かを求めるようにキスしてきた。

一分くらいたったのだろうか?時計が無いので正確にはわからないが、そのくらいたったと思う頃。僕はようやく解放されて、また縁の身体を眺めながら考えることに集中した。

そんな僕の思考を邪魔するかのようにまた縁が問いかけてくる。

「裕二は私に今『結婚して』って言われたらどうする?」

いつもなら即答出来たのだろう。でも、今の僕にはそれに答えることが出来なかった。

身体がどうこうの話じゃない。年齢が、って問題でもない。ただ、縁の想いを素直に受け取るのが怖かった。

失うのが怖かった。だから、考えることを放棄した。

「お、教えて・・・ください。お願いします・・・答えをください。」

分かっていた。縁が答えをくれることを分かっていてそう言った。考えることを放棄した。ダメだと自分の中で決めていたことなのに、嫌だったからそんな理由だけで考えることを放棄した。

「問い一、今日は十二月二十四日。答えは時間の流れ方が急に変動したから・・・。」

そんなのは分かっていた。

「問い二、私の身体について。答えはガラスのように透き通る身体になって、最後には弾けて消える。」

予想が殆ど当たっていた。

「問い三、終わりの日について。今日の夜、と言っても裕二の町の夜十二時に、『躑躅町』は消滅する。」

考えとは逆だった。

「問い四、最後に考えた都市伝説について、あれの名前は・・・『幻想夢想』・・・ちなみに抜け出し方は無い。」

最悪だった。

「終わり。じゃあ、答えをくれる?裕二、結婚して欲しいな♪」

縁は僕を見降ろしながら返答を待っている。縁の身体を眺めて考えた。既に答えが出てしまっているのに、最後に出された問いの答えを考えたくないから、答えたくないから、ひたすら意味のない思考を巡らせて、そうやって逃げたってすぐに答えが追い付いてくることが分かっていたが、逃げたかった。逃げ続けていたかった。

「縁・・・『ごめん』って言いたくない。だから、少し考えさせて・・・今日の十二時には迎えに来るから・・・ごめん。」

そう言うと、縁は僕の上から退き床で冷たくなっているであろうパジャマや下着などを拾い上げると、それを着つつ僕に背を向けたまま

「早く出てって!」

 そう怒鳴った。

 僕は起き上がりベッドから降りてドアへと向かう。

「待ってるから・・・ちゃんと来てよ?」

縁の言葉に「うん」と、答えてから僕はドアを開け病室の外へ出ると走り出した。

病院だということなんて気にしなかった。

早く自分の住んでる町である躑躅町に帰らなければならなかった。

やり残したことがまだ二つほどあった。



「次は・・・。―――を手に入れるんですって、って―――聞いてるの?」

少女が暗闇の中でそう言った。

「聞いてるよ・・・――――。次は躑躅町にあるわけだ・・・いい加減忘れたいのにねぇ。僕はいつ逃れられるんだろか?フフッ♪」

少年が不気味に笑った。

「彼女を助けたらじゃない?結晶になって12月24日に消えてしまう彼女を・・・。」

「まぁ、僕たち三人で一度失敗したのに、もう一度やって成功するかどうか・・・それよりも、―――はどこに行っちゃったんだろうねぇ?」

少年は辺りを見回すがそこは暗闇だけだった。

「さぁ?別のルートで最後まで行くんでしょ?―――の想い人は――――でしょ?」

「それもそうだね・・・。」

そう言ったあと少年は“ククッ”と喉を鳴らすみたいに笑った。

「久しぶりね、その笑い方。」

二人は闇にまぎれ消え去った。

後に残ったのは二人の笑い声だけだった。



「これがトドメの『きょうきょうれんかせん鏡響恋華閃』だぁぁぁあッ!!」

そう叫んだのはゲーム大会の準決勝で愛花を相手に本気を出した渡だった。

僕もこれで決まったと思ったが、愛花のキャラのHPが1残っており、画面上で立っていた。

「勝利を確信した時点で、あなたの負けです!『ふうさつげき封殺撃・しんれつ神裂』で、あってますか?」

ギャラリーは皆頷き、そして画面上では愛花の操る黒髪ロングのキャラがめちゃくちゃ大きいハンマー片手に飛び跳ねていた。

「これで決勝は愛花VS裕二に決定したな・・・はぁ、裕二よ。お前に言うのもあれだが、仇を取ってくれ・・・。」

そう僕に仇取りを押しつけた渡は、ソファに沈んだ。

僕は心の中で渡によくやったと言った後、さっきから手に持っていたゲームをテレビから伸びているコードに繋ぐと、愛花の方を見て言った。

「僕は勝つよ。先に宣言しておく。」

愛花が頷いたのを確認した後、目線をテレビの画面に戻した。

「それではッ!!決勝戦を始めたいと思います!さてッ!波子さんと戦うことが出来るのはどちらでしょうか?・・・では決勝戦開始ッ!!」

Cの合図で戦闘が開始される。

僕のキャラは開始直後にバックステップで相手から距離をとりつつ遠距離技を放つ。が、愛花の操るキャラはそれをサイドステップでかわす。

そしてすぐに接近して攻撃を仕掛けてくる。

相手がハンマーなので、リーチの短いソード系を使う僕のキャラが押されがちだった。

遠距離技と近接技がある代わりに攻撃力が低い、そんなキャラがいくら遠距離技を撃ったところで与えられるダメージはたかが知れてる。なら!

「ピンチなんで、こんな技を使ってみたりする。」

そう言って繰り出した技は近接技でもなければ、遠距離技でもなかった。

「カウンター・・・でも初級の・・・!?」

愛花は自分のミスに気付いたようだった。

そう僕が使ったカウンター技は初級の“相手の背後に回るだけ”のダメージを与えることのない技なのだが、こういうときは役に立つのだ。

「っと『絶・無双』続けて『凶・無双』最後に『む夢そう創・ゆうげきれん幽劇連ぶ舞』・・・勝ちだね。」

「だから勝利を確信した時点で負けだって。裕二君♪」

愛花は渡に言ったセリフを僕にも言うとさっきのトドメに使用した技を発動させる。

黒髪ロングなキャラが暗転した画面内で僕の白髪セミロングのスク水(白)を身にまとったキャラのreiをハンマーで空高く打ち上げると自らも物凄い脚力でジャンプして、reiの上の位置にきた瞬間。おもいっきり振り上げたハンマーを振り下ろしてreiを地面へ叩きつけた。

「ね?私の勝ちだよ。裕二君♪」

僕は笑いそうになってしまった。面白かった。楽しかった。でも、もうあまり時間が無いのが分かってたから笑えなかった。

「愛花、君にさっきの言葉をそのまま返すよ。勝利を確信した時点で負けだよ。これ、本当は波子さんと戦う時に使いたかったなぁ・・・『 カー終焉 テノ ン コ ー幕引ルキ』今度こそ終わりだよ。」

画面が暗転から戻ったと思ったら、またすぐに暗転してreiの周りに黒と白の羽が舞う。

『コウシテ、エイエンノネムリニツイタノデシタ・・・。』

画面内でreiそう言って暗転が解けた。

戦闘は終了していた。

「本当に勝たれちゃった。あぁ~あぁ~」

そう言った愛花は渡の隣に沈んだ。

「決勝戦に勝利した高凪裕二さんには『一生、守谷渡について行くだけのゲーマー』・・・あ、不名誉な称号は要りませんか。えっと訂正します。『守谷渡の財力で生きていく宣言』っと、ちょっと危ないじゃないですか!私も一応、かよわき乙女なんですから!」

「一応、ね。」

そう心の中にとどめておくべき言葉を普通に声に出して呟いてしまったが、僕に降りかかる災いが無いので、どうやら聞こえなかったようだった。

争いが激化する前に止めに入ったのは渡だった。

「君はね。大人しくしてたら、乙女だと思うよ?」

聞いてる側が気持ち悪くなるほどの、少女漫画に出てきそうな爽やかボイスで言うものだから、C以外の外野は物凄い大ダメージを受けた。

まぁ、Cも大ダメージを受けたっちゃ受けたのかもしれないが、それこそ9がいっぱい並ぶほどのダメージを・・・。

そんなダメージを受けたCが立っていられるはずもなく、顔を真っ赤に染め上げるとたちまちその場に座り込み、妄想やらの世界に旅立ってしまった。

「おい、渡。司会者モドキが居なくなったけど、僕と波子さんのバトルはどうするの?」

僕がそうCの何処かへの旅立ちを見届けたのち、渡に聞くとあっさり

「司会者なしでも盛り上がるだろう・・・お前なら。ただし!技使うとき掛け声みたいの入れろよ?あれがあるかないかじゃ、馬鹿さ加減が全然違うから。」

とか言われたので、掛け声どうこうはともかく、とりあえずさっきから暇そうに配信クエのラスボス同時4体狩りをサクサクと回している波子さんに準備をお願いする。

「わかった。すぐに消し去るから・・・っと終わった。」

なんか波子さんの手の中にあるゲーム画面上にやけに長い文字が表示されたかと思うと、次の瞬間にはラスボ4体が数えるのも面倒なくらいなダメージを受けて瞬殺されてしまっていたが、まぁこれから戦う僕としては見なかったことにしておきたかった。

「渡・・・今度は負けを宣言しとく・・・。あれは無理だよ。」

そう言ってからゲームを再度テレビから伸びているコードに繋ぐと、波子さんも少ししてやってきて、僕の隣に座ると同じ作業をしたのち

「いつでもいいよ。」と、余裕の表情と言うか、これから相手にするのは雑魚で、遊んであげる程度なんだよ?と言わんばかりの表情であった。

だが、ソファに沈んでいたはずの愛花や、さっきからレベル上げとかを楽しんでいたA・B・Dとさらには、何処かへついさっき旅立ったはずのCまでもが、波子さんが僕の隣に座った瞬間からテレビの画面にくぎづけになっていた。

僕がSTARTボタンを押した瞬間、バトルが始まる。

一回深呼吸をした後、よし!と言ってからSTARTボタンを押した。

バトルが開始される。

画面左側に僕の操るキャラのreiが光で出来た長剣でガードの体制で構えている。

一方、画面右側の波子さんの操るキャラのflowセカンドキャラは、僕のreiとは違って斧使いらしい。

それにしても波子さんのキャラは毎回のようにロリキャラ・・・そんなにロリがいいのかな?むしろ大人しそうなメガネっこ娘の方が、そういえば渡は年上が好きなんだよな・・・もしかして姉ちゃんも狙われてたりしたのかな?いや、波子さんがいるからそれは・・・ってそんなことを考えてる場合じゃなかった。と、言ってもflowは一向に攻撃を仕掛けてこないし、だからといって僕から仕掛ければカウンターからの連続コンボで沈むし。

「早く攻撃してよぉ~!って無理だよね?高凪ゆ・う・じ・く・ん♪」

うわぁ~挑発してきたよ。まぁ、最近覚えたあの技を使えば何とかなるとは思うけど、実際まだ渡にすら決めたことのない技だし・・・。

そう考えていても始まらない試合は時間を無駄に使うだけだ。そう思った僕は賭けてみることにした。

「それじゃあお言葉に甘えて、先制の『瞬・無双』!」

波子さんはやっと来たかというようなことを思いながら指を動かしているはずだ。

「甘い、『殺鬼』!」

言いつつflowにバックステップさせて、目の前まで来ていたreiをかわすと、すぐに隙が出来たreiに攻撃を入れてくる。でも!

「カウンター!『剛・無双』!・・・って」

reiの使う『剛・無双』はカウンター攻撃で、本当はガード崩し技に対して有効なのだが、斧は全ての攻撃にガード崩しが付くので使ったわけなのだが、何故か発動せずにflowの攻撃を受けてしまう。

なぜ?という僕の疑問を感じ取ったのか、波子さんが簡単に説明してくれた。

「この『殺鬼』はカウンターを無効化出来るからね♪」

波子さんはさらに『殺鬼桜』その次の『連舞・殺鬼桜』へと繋げた後、必殺スキルであろう『ふうじんそうそうれんぶさつ封神創双恋舞殺き鬼ざくら桜・はな華ノまい舞』が追い打ちをかけた。

画面が暗転すると『連舞・殺鬼桜』で打ち上げられたreiが落ちてくる。

どうやら派生技らしかった。

落ちてきたreiにflowが手に持ったグロテスクと言っていいほど禍々しい巨大な斧を思いっきりスイングする。

それによって吹っ飛んだreiの後を追うようにflowが走り出し、ジャンプして吹っ飛んでいるreiに今度は斧を叩きつけ一回転すると、reiは最初と同じ上へ投げ飛ばされた。

これで終わりだと思った僕は暗転が解けた瞬間を狙おうと集中する。

だが、その集中を無駄という感じに波子さんが言った。

「まだまだ続くよ?『封神創双恋舞殺鬼桜・月ノ舞』!」

本当にまだまだ続いた。

暗転が解けずにflowがまたしてもreiを追いかけるように飛び上がる。

そして追いついた瞬間、斧を振り下ろして弧を描いた。

それによって叩き落とされたrei視点に画面が切り替わり月が映った。

「これで最後!『ブラッドBlood ブロッサムBlossom』!」

地面に叩きつけられたreiに対してflowは空中で斧の持ち手に片足立ちで乗ると、斧をreiに突き立てるように落ちた。

そして画面に真っ赤な血で出来た花が咲いた。

完敗だった。

暗転が解けるとflowが画面いっぱいに映し出されて、その下にはwinの文字。それを見た瞬間、緊張が一気に解けて僕は“ふぅ”と、ため息をついた。

周りを見て、渡や愛花たちがまだ緊張かなにかが抜けないのか、動けずにいるようだ。

僕はとりあえず時計を確認してゲーム大会を始めてから2時間も経っていないことを知った。

「7時半か・・・あと5時間も・・・ない。」

そう呟いてから僕は立ちあがると、部屋に行くと言って二階の自分の部屋に向かう。

部屋に着くと真っ先に机の引き出しに入っている花柄の日記帳を取り出してちょうど半分くらいのところを開いた。

「あった!えっと7月8日は・・・大切な日?」

パタンと日記帳を閉じると、それを引き出しに戻し、自分の唇を人差し指でなぞり呟く。

「ファーストキス・・・ね。」

僕は部屋を後にして渡たちのもとへと戻った。



僕は懐かしい部屋へと踏み入る。

「懐かしい・・・――――、君はよく脱いだよねぇ?このベッドの上で僕をからかったりして遊んでたよねぇ?はぁ、嫌な思い出ばかりだよ・・・。」

僕に続いて――――も部屋に入った。

「そうだったっけ?・・・あ、エロゲ発見!」

――――はどんなジャンルがあるのか確認していた。

たしか殆どのジャンルがあったはずだ。っと、それよりも・・・。

僕は机の引き出しを開けてお目当てのもとを探す。

少しあさっただけで花柄の日記帳は見つかった。それを取るとエロゲをさらに探そうとしている――――を呼んだ。

「――――、あったよ。『――――』が、まさかこんなに近くにあったとはねぇ。」

僕はそう言うとコートで――――と自分を包みこみ、消え去った。



一階に戻った僕はついさっきまでとは全然違う部屋に驚いてしまう。

「な、なんで焼き肉パーティー会場になっちゃってるの!?」

スタダスの発売日のときもそうだったが、渡か波子さんのどちらかはきっと超能力を使えるに違いない。などと、くだらない考えが頭に一瞬だけ浮かんだがすぐに消えてしまう。

それより肉の焼ける音と匂いで、お腹が空いているのに気が付いた僕は、渡たちにまざることにした。

「それにしても、やっぱり波子は凄いな。あんな無茶なコマンドを覚えられるとはね。」

そんな渡の言葉にみんな頷くばかりだった。

僕は肉を食べつつも時計をちょくちょく見ては時間を確認していた。

『夜十二時に、『躑躅町』は消滅する。』と、言う縁の言葉が何回も繰り返し頭の中で警告していた。あと少しで皆消えるぞ!と・・・。

「渡、ちょっといいか?」

僕が箸を置いてそう言うと、渡は頷き立ち上がった。

二階への階段を登りきったところで後ろから誰も付いてきていないのを確認すると、言った。

「今日の夜十二時に、躑躅町が消える。」

だが、そう言った途端、渡は一瞬だけキョトンとして見せたがすぐに、僕の肩に両手を乗せると真剣な眼差しで返してきた。

「寝言は寝て言うか、もしくは俺じゃない誰かに言ってくれ。」

「いや、嘘じゃないって!縁がそう言ったんだよ!」

渡はあーはいはいと、どうでもいいことのように階段を下りて焼き肉のところへ戻って行った。

その背中を無言で見つめながら呟いた。

「寝言・・・か。本当にこれが夢で、それで寝言ならいいのに・・・。ね?縁。」

呟いた後、僕は渡の後を追って皆のもとへと戻って行った。

やり残したことはあと一つ。



僕にとっての、この時間はとてもとても大切な時間なはずだった。

たった七時間という凄く短い時間。でも、それでも僕は突然訪ねてきた少女の願いを叶えたいと、強く思ったのはなぜだろうか?恋愛感情とは少し違う、別の感情が心に溢れかえって、そして何だか楽しくて、嬉しくて、ちょっぴり切なくて、よくわからない。

願いの形が何をくれるのか?何のために存在するのか?何が書かれているのか?それが何なのか?知らなきゃいけない気がした。

いや、あの日記にはそう書いてあった。

探せ、見つけろ。そして大嫌いな願いを形にしろ。

誰が書いたのか。誰がくれたのか。誰が伝えたかったのか。それは分からない。



焼き肉パーティーがお開きになったのは、十時を過ぎた頃だった。

波子さんが“ねみゅい”と言ったのが解散の合図で、渡は波子さんの手を取ると一言「波子、送ってくから」と、言ってさっさと帰ってしまった。

それに続いてA・B・C・Dも帰ってしまう。

残ったのは僕と愛花だけになった。

「ねぇ、裕二君。ちょっと外、行かない?」静寂が嫌だったのか、それとも外に出たいだけなのかは分からないが、愛花がそう聞いてきた。

僕はすぐにいいよと答えてしまう。

あと二時間も無いのに、何をやっているのだろうか?そう思って改めて考えてみたのだが、やることと言えば『願いの形』を探すこと、つまり結局は外へ出ることになるのだ。

「行こ」

愛花が僕の耳元でそう囁いて思考を止めた。

立ち上がって部屋の電気を消し“ありがとう”そう呟くと、玄関で待つ愛花のもとへと、別れを惜しむようにゆっくりと歩いて行った。


外は凄く寒かった。

夏とは思えない寒さだった。

秋が冬に移り変わる頃の寒さにどこか似ていて、心をチクリと突き刺す。

愛花と出会ったのが夏休み前・・・スタダスの発売日。懐かしい。あまり時間は経ってはいないけど、懐かしく思える。

でも、思い返してみると愛花と一緒にいた時間は少ないと思う。

「ねぇ?愛花・・・」

僕の前を歩く愛花をそう言って振り返らせた。

何?と、聞かれる前に言った。

「デート・・・しようか」

最後の時間を愛花のために使うことにした。

それを聞いた愛花は俯いた。恥ずかしいのかと思ったが、違った。

「ダメだよ。私なんかのために友達を捨てちゃ・・・だから、さよなら!」

泣いていた。

走り出した愛花を追いかける。

すぐに追いつき、後ろから抱きしめると抵抗された。

「いや!放して!いやいやいや!触らないで!帰る!いや!」

そう言って暴れる愛花にひたすら「ごめん」と、言って収まるのを待った。

普段なら人通りが多い場所なのだが今日は人が居なくて助かった。もしここに人が居れば、即刻変態扱いでいろんな犯罪に手を染めるところだった。

愛花が落ち着いたのは、そんな心配をして少ししてからの事だった。

「ごめん」

「もういいよ・・・大丈夫だから放して?」

解放すると愛花はハンカチを取り出して涙を拭いて僕の方を向いた。

「本当は何も言わずに消えたかったんですけど・・・裕二君が抱きしめるから・・・・・・消えたくなくなっちゃったじゃないですか!・・・ネタばらし、して欲しいですか?」

すぐに頷いた。

やっぱりという感じで愛花は一旦、目を瞑ってから微笑んで言った。

「公園、行きましょうか・・・長くなるんで。」


10


姉ちゃんが殺された公園に着くと、真正面にブランコが見えるベンチに愛花が座ったので、僕は愛花の左隣に座る。

「何から話しましょう?とりあえず私の嘘からで良いですか?」

愛花の方を見ながら頷いた。

「では、一つ目ですが・・・『願いの形』あれは存在しません。と、言うよりも消えちゃいました♪・・・裕二君が使ったからです。」

僕の聞こうとしていたことが事前にわかっていたかのように、聞こうとしていた答えまでをも答えてきた。

「ごめんなさい。最初に言っておくべきでした。私は『ストー物語リーノクリエイター創造者』って言って、自分の思ったように相手は行動して、会話をするんです。ただ、裕二君には何故かあまり効かないらしくて、さっきみたいに『追いかけてきて抱きしめる。』あれは私が創造したストーリーでは無いものが現れた時に混乱しちゃって・・・ごめんなさい。あ、謝らなくていいです。」

じゃあ、僕の考えや行動は全て愛花の創造物であって、今の僕の考えや行動は偽りで・・・。

「そうです。本当にごめんなさい。ちょっと自分でも制御が難しくて・・・。」

ん?ってことは、お泊まり会の次の日に電車で居なくなる前に言ったあれって・・・。

その考えも読まれていて答えてくれるものだと思って待っていると、答えが返ってこなかった。

何でだろう?と、愛花の方を見ると黙り込んでいる僕に困ったかのように首をかしげながら見つめている愛花が居た。

「あれ?読めないの?」

見つめててもらちが明かないのでそう切り出すと、やっと答えてくれた。

「えぇ、『読めない』って物語を創造したので・・・。なのでちゃんと口に出して言いましょう!」

それを聞いて出会った頃に下着講座を聞かされたのを思い出して笑ってしまった。

なにを笑っているんですか?!と、言う愛花に思い出し笑いと答えて僕はさっきの自分の考えを口に出して言った。

「お泊まり会の次の日に出掛けたよね?その帰りの電車で居なくなる前に言ったあれって、もしかしてそうすれば手に入らないはずの『願いの形』が手に入ると思って?」

愛花は頷く。

じゃあ、なぜ?今それを創造しないのか?と、考えてたどり着いた答えは

「今それを創造しないのは、しないでは無く。出来ない?」

また頷く。そして言った。

「一度試しました。そしたら無理でした。存在しない何かを創造するのは、何かを元にしなければいけないと思いました。そしてそれは正解だった。」

「正解だった?でも、『願いの形』は古本市には―――」

僕の言葉を遮って愛花は強く言い放った。

「確かにあった!でも・・・一瞬で消えちゃったんです。」

しつこく二回もそれは本当?と確認をして僕は思考に入ろうとしたが、無駄だという風に愛花は首を横に振ると

「無駄だと思う。私も何通りもの可能性をゲーム大会やってるときに考えてたから・・・それより話が随分逸れたよね。ごめんなさい。」

そう言って最初の話に戻した。

「二つ目の嘘は十年前の事です。神隠しにあって私が“縁”って言うのも本当だけど偽り。それに、ここ躑躅町の夏休みは、今年は二回目なの」

また謎が増える。

十年前、僕と縁は神隠しにあった。

そしてその時に“縁”は愛花に、“愛花”は縁になった。

ここまでは昨日、理解できた・・・はずだった。

あの時も創造されたことだったのだろうか?愛花と話しているとどれが真実で、どれが偽りか分からなくなる。

まぁ、無理もない。信じなければ偽りになり、信じれば真実になる会話なんて混乱して当たり前だ。

こうやって考えていることだって偽りの可能性があるのだ。

「愛花、君は自分が嘘をついていないと証明できる?」

「疑ってるんですね・・・まぁ、しょうがないですよね。私の『物語ノ創造者』のちから能力は信じてもらうことしか、証明する方法が無いものですから・・・。」

そう言って愛花は俯き考え込み始めた。

僕も思考に入る。

まず神隠しだけど、あれは僕自身記憶に無いので、真実か偽りかは分からないから後に回すとして、隣に居る少女が自分は“縁”と昨日、僕に打ち明けた。ただし、それも偽りの可能性がある。

じゃあ、夏休みが二回目ってのは、なんの事だろうか?今年、僕は、いや僕たちは二回夏休みを過ごしたということだろうか?

情報が明らかに少なすぎた。

これだけじゃ、式すら立てることが出来ない。

まるで数字だけ提示されて答えを導けと言っているようだった。

そんなことを考えられるほど冷静なのはどうしてだろうか?あと一時間とちょっとで躑躅町は消滅する。

あれ?

そういえばどうして僕は縁の言葉を信じたんだ?あれだって偽りかもしれないのに・・・。

分からないけど信じられた。

縁は信じられる。そんな思い込みだったのかもしれないけど信じられたのに、なぜ僕の隣にいる少女の言うことは信じられないんだ?

簡単なことだった。

偽りの可能性を説明されて、それを信じたからだ。

ならそれすらも偽りだったなら?そう例えば、相手の表情だけで何となく言いたいことが分かる。それなら・・・

「違いますよ。あ、ごめんなさい。また気になったので使っちゃいました♪」

声がした方を向くともう考えるのを止めたのか、少し笑顔の戻った愛花が次を話そうとしていた。

ちょっと待って、そう言って僕は愛花が次を言い始めるのを止めた。

「まだ聞いていないことがあった。『願いの形』を手に入れてどうするの?」

大嫌いな人にしか使えないカタチを作り出す本。

もしくは一つの願いを願い続ける限り、その願いが叶う本。

「君はどちらの使い方をするの?」

愛花はまた俯いて考え込んでしまった。

ただ、今度は十秒も考えずに言った。

「願い続ける方法で願いを叶えたいです。出来ればそれに加えて何個かほかにも叶えたいんですけど、一つを強く願わないといけないので・・・。」

少し驚いた。なぜならそんなリスクを背負う方法をわざわざ選ぶほど、叶えたい願いがあるということだからだ。

いや、それでなければ叶えることが出来ないのかもしれない。

「それじゃあ、次に行きますね?三つ目の嘘は・・・あらら」

そう言いかけたとたん愛花の身体が光りだした。

「ごめんなさい。そろそろ十二時になるみたいですね♪すぐに消えちゃいそうなので言っておきます。三つ目のと、いうよりも最後の嘘は――――――」


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