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第九章

第九章 終わりの始まりがカタチを作る。



いつかは受け入れなければいけない

わかっているけど、思い出す。

君はいつでも笑っていたね。

君はいつでも支えてくれたね。

僕は君を裏切り、傷つけて

それで君を求めても

帰ってこないとわかっていても

手を伸ばしたくなるのはなぜだろう?

君はどうしているのだろう?

僕は君を忘れて明日に進むよ。

『さよなら・・・大切な人』



昨日は結局、木に寄りかかって寝ているところを渡に起こされて、渡の家に泊ることにした。どうせ今日は一日中、渡たちと行動するから別にそれでも問題なかったから・・・と、言うよりも渡の家に皆で泊って古本市に行った方が、入場が確実だと思ったからでもあった。ただ僕が起きた時、既に愛花の姿はなく今も愛花が居ない状態だった。

僕は渡の家の一室のベッドの上で目覚めて天井を見上げて考えていた。

縁、というか“愛花”のことを・・・ただ答えが出ず、会いに行こうか迷う。

今までどおりに話せるだろうか?否、無理だろう。

僕への優しさはたぶん偽りに過ぎない・・・そう昨日寝る前に疑ったときから、信じることができなくなってしまった。

僕は“ごろん”と、無駄にデカイベッドの上を転がった。

「ふぎゃ!?」と、言う悲鳴のような声が僕の下から聞こえた。

僕は自分が転がって乗り上げてしまった“何か”を起き上がって布団を剥がして確認した。そしてそこに居るのを確認して僕は無意識にツッコミを入れてしまった。

「だから何で何も着ないで寝てるんだよ!?愛花は!」

その声が原因か、それともさっきの愛花の悲鳴が原因かは分からないが、僕と同じく渡の家に泊っているAとDが「何があった!?」などと言いながら僕の居るこの部屋のドアを開けた。そしてすぐに「ゆ、裕二先輩!失礼しましたー!」と言ってドアを閉めると走って行ってしまった。

僕は愛花が原因だなと思ってパジャマを着替えようとベッドの横に置いてある僕の着替えに手を伸ばしたときに気づいた。

「何で僕まで服を着てないんだよ!?」そう言って僕は愛花の方を見た。

愛花はスヤスヤと微笑みでさっきの悲鳴の原因を忘れてるかのように眠っていた。

その後、僕がその眠りを無理やり妨げたのは言うまでもない。



愛花を起こした後、服を着て朝食を渡たちと一緒に取ると、さっそく出かける準備を済ませていたので出かけることにした。

今日は古本市!と、テンションを上げたかった僕だったが、朝からメイドさんたちには避けられるわ、渡と波子さんにはニヤニヤした笑みで見つめられるわで、テンションがあがるわけもなく、原因を作りだした愛花本人も誤解を招くようなことを言いまくるので僕が口にガムテープを張って手足を縛れば、渡たちに「裕二はそんな趣味か・・・」と言いながら“よしよし”と撫でられた。

正直、出かける前から今日は最悪の日になりそうな予感がした。

悪い予感というのは昔からよく当たるように出来ているらしく、出かけて直ぐに財布を落として捜していると、どこからともなくやってきた野良猫に猫パンチをされ、さらにそれに驚いて倒れそうになった僕が支えとして選んだのが愛花で、さらにさらにサラミ?愛花は当然、僕を支えられるはずもなくあっさりと倒れると“チャンス!”と、思ったのかいきなりキスをして喜んだり、それを僕が拒絶するとその場にいた全員から「喜べよ!」とツッコミを受けてやっと財布が見つかったと思えば昨日のお祭りのときに殆どお金を使っていたらしく殆ど空ということに気づき、最終的に愛花に借りることに決定した。

正直、異性に借りるのは何となく嫌だったが、家に取りに帰ってる時間はないのであきらめるしかなかった。

その後、渡の家から徒歩で15分程度の場所にある躑躅第一ホールへ向かって雑談をそれぞれしつつ歩いていたのだが、僕は半分くらい来たところで忘れ去られている人の名前が頭に浮かんだのを渡に告げた。

「渡・・・絆先輩のこと忘れてない?」

僕より前を歩きながら波子さんと雑談中だった渡は、それを聞いてか振り向くと

「大学ブース」その一言の答えを僕に投げた。

直ぐに“あぁ”と、理解した僕に何の事だかわからない愛花は聞いてきた。

「大学ブス?」

いや、愛花・・・そうじゃないんだよ?ブースね?ブース。

前の方から笑いを堪えつつも堪え切れていない笑いが聞こえてくる。二人分ほど・・・。

愛花はどうやら渡たちが笑っている理由が分からないらしく、首をかしげている。

僕は教えてあげようか少し迷った末、教えないでおくことにした。

その方が面白くなるような気がしたからだ。

愛花はまだ首を傾げ考えている様子だった。僕はそんな愛花を見て微笑んでしまう、ダメだと思いつつも笑みがこぼれる。その笑みを隠すために空を見上げた。

夏の終わりが近づいているはずなのに、まだ太陽が僕たちを自らの光で焼いていた。

「今日も暑いな・・・」そう呟くと僕は少しだけ歩みを速める。

まるで何かを追い求めるように早足で駆けたくなった。

それを見たそこに居る友人やその彼女は、一緒になって走り出した。

まだ夏だというのに走り出した。馬鹿みたいに走った。



走ったおかげで皆、汗をかいたが予定よりも早くつけ、整理券の番号も二桁だった。

しかも僕の番号は偶然かはわからないが、自分の財布の中の小銭と同じ数字だった。

実際あまり嬉しくはないのだが、愛花は凄いと言って子供みたいにハしゃいでいた。そんな愛花を見ているとどこか懐かしさを感じた。

いつの事だっただろうか?最近の記憶っぽいのだが、濃い霧が邪魔してるような感じで思い出せない。誰かが僕に何かを言ってるんだけど・・・頭の中で思い描けるほどの記憶だということに今、気がついた。

それがわかった瞬間、渡の言葉によって現実に引き戻される。

「おい、列動いたぞ?」

「あ、あぁ」と、答えた後、前に進みつつ考える。

誰だろうか?僕に何かを伝えたかったみたいだけど・・・。

結局そのことを考えている時間はあまり与えてもらえなかった。

なぜなら整理券番号が二桁ということは、一回目で入れてしまう。入口はすぐ目の前にあった。持ち物検査、と言っても財布の中身の検査と簡単な金属探知機によるボディチェックだけだった。

それが終わると渡たちよりも一足先に古本市の会場である、躑躅第一ホールに足を踏み入れた。入った瞬間、そこは本の匂いで溢れていた。

僕は会場を見回す。毎年来てはいるが、やはり何度見てもこの広さは驚いてしまう。

今回は規模が縮小されているため第一ホールだけだが、それでもサッカーのフィールドくらいの広さなのだ。

その広さのところに本が物凄い量集まっている。

僕はとりあえず入ってくる人たちの、邪魔にならないように入口付近の休憩スペースに行き、そこで渡たちを待つことにした。

数分後、休憩スペースに全員が集まり、どこから回る?と渡が聞いてきたので、僕はとりあえず絆先輩の居る『大学ブース』からで良いんじゃないか?と答えておいた。

他には提案が出ず、大学ブースから回ることになった。

まずはどこに大学ブースがあるのか確認しなければならないので、入口近くの案内板を見に行き、それから行こうと決め動こうとしたとき休憩スペースに見知った顔が入ってきたのを全員で確認するとすぐさま僕と渡で捕獲にかかった。

「お、おい!お前ら!来るなってメールしたのに来てんじゃねぇよ!俺の屈辱的なメイド服姿を見るなぁ!」そう言って僕たちの拘束から逃れようとする“メイド服”を何故か着てる絆先輩は暴れるが時間の問題だろう。なにせ今、渡に絆先輩の彼女を呼んできてもらっているのだ。

数分後、渡は絆先輩と同じメイド服を身にまとい、セミロングで茶髪な女性を連れてきた。まぁ僕がまず思ったことを言えば

「メイド服が絆先輩より、似合ってる・・・って当たり前か」それだった。

その言葉を聞いた皆は、(絆先輩を含めた全員が)頷くのだった。

その後、少しの時の流れの中で僕は地獄絵図を見た。

絆先輩が彼女に追いかけられており、誰も何もしていないのに時々何故か悲鳴を上げていた。ついでといった感じでメイド服が白黒から、黒と赤と言う何やら組み合わせ的に全くもって合っていない出来となってしまったが、絆先輩の彼女はニッコリと笑顔を作ると僕たちにお礼を言って、絆先輩を軽々と脇に抱えたのち、渡と一緒に来た方向へと消えてしまった。

まさに風のように来て帰って行ったようだった。

ただし僕たちの脳裏に地獄絵図を残してだけど・・・と、僕はここでやっと気付いた。

「あの地獄絵図についていけば大学ブースに行けるんじゃ・・・」

それを聞いた渡たちは走り出した。物凄い勢いで・・・。

その時だった。アナウンスで「会場内では走らないでください」と、言う言葉が聞こえたのは・・・。

僕はゆっくり行くことにした。

ついでに愛花も残ってたらしく、僕と一緒にゆっくりと行くことにしたらしい。

理由を聞いてみると僕と同じ考えだった。

「だって赤い血のような点々が続いて道しるべになってるから」

そう言って僕に笑顔をくれた。

幸せだと、また思ってしまった。



絆先輩のものであろう血を辿っていくと迷うことなく大学ブースにいくことができた・・・のだが・・・。

「愛花と波子さんが居ない!?」僕と渡の二人で、そう言ったあとに考えてみたのだが二人ともどうやら同じ答えにたどり着いたらしかった。

二人で周りを見回して、このあたりに人がまだ少ないことを確認すると、僕たちは言った。

「それよりも誰か忘れてない?」


一方そのころ、とある豪邸の一室で。

「今年こそ波子先輩たちに勝たなきゃいけないからな!」

「去年は確かスマなんとかで・・・」

「それはもはや過去だ!今年はスタダスだしレベルさえ上げれば!」

「やった!Lv19に上がった!」

無駄な努力が四人によりなされていた。


そして話は戻って僕たちは愛花と波子さんを探していた。

「って探してる意味あるのかな?」

「意味はあると思うが、探しても無駄だと思うんだよなぁ~」

探し始めてから5分程度経過したところで、僕が言って渡が答えた。

僕も何となくわかっていたのだが、あれはたぶん・・・。

渡は「せーの」と、言い出したので僕はあわてて

「せ、生理ッ!」と、結構な人が居る中で叫んでしまったが、渡の言ったことの方に驚いてしまって、突き刺さる女性の方々の視線であろうものを感じてる暇などなかった。

「もう一度言ってくれ渡・・・」

さすがにそれは無いだろうと思いつつも聞き返してしまった。

「ん、レズだろ?むしろそれを期待してる。そのために波子の服に小型のボイスレコーダー付けたし。」

まぁ、僕は優しいから渡を殴ることはしなかった。

とりあえず脛をオモイッキリ蹴っておいた。


数分後、渡は痛みが引いてきたと言うので大学ブースに戻った僕たちは迷子のお知らせと言うやつで何故か迷子扱いになっており、渡と二人で迷子センターなどに行く羽目になった。

迷子センターで愛花と波子さんに“引き取られた”僕たちは二人はそれぞれ違う理由で俯きつつ、それぞれの“お母さん”に手を繋いでもらっていた。

僕は恥ずかしくて下しか見れないので、そのまま愛花に訪ねた。

「な、なんで友達とかで呼び出さなかったの?そして何で年齢偽るの?僕が5歳に見える?・・・はぁ、何となく誰が主犯か分かるけど」

だってさっきから波子さんが笑い続けているから聞かなくてもわかるんだけど、一応聞いといた方がいいだろうと思ったから訪ねたのだ。そう、だから訪ねたのに愛花は

「そんなこともわかってくれないの?」

「いや、イタズラでしょ?」

これが答えだと思っていた。だが愛花は僕の想像をはるかに超える存在となっていたのだった・・・と、いうかここまでだとは思わなかったのだ。

「違う!・・・迷子に・・・なったから」

「「え゛?」」僕と渡の二人でシンクロしてしまうほどの驚きだった。

「じゃあ、何で波子と一緒に居たんだ?波子は迷わず大学ブースに行けるだろ?」

 渡も僕と同じ考えにはいたっているらしかった。

「まだまだ・・・」と、波子さんの声がした。

恥ずかしさなど忘れて顔を上げ、波子さんを見た。

波子さんは無表情だった。だが、それが逆に怖かった。そして言った。

「愛花は共犯じゃないよ・・・私が誘ったの『裕二を喜ばせてみない?』って言ってね。」

喜ぶか!・・・ともあれこれでやっと大学ブース内を回れる。かなり出遅れたので探してる本は無いかもしれないが、『願いの形』もあるらしいしそれも探さないと・・・。

大学ブースまであと20メートルくらい。



大学ブースに着くと、そこには魔女の恰好をした絆先輩が居た。

黒い帽子に、黒いマントに、そして黒いミニスカートに、二ーソ・・・って

「先輩って“そういう”・・・趣味ですか?」

絆先輩は即座に、身をこちらに乗り出すように一歩前に出て言った。

「だ・ん・じ・て!違うと言っておこう“冷酷な”後輩!」

そして元の場所に戻って、さらに続けた。

「あくまで俺は、お前らの先輩だ!そして冷酷な後輩と、金持ちの後輩と、ゲーマーの後輩と、そして・・・運命を変えられた少女よ。大学ブースにようこそ・・・」

最後の言葉を言った後に一瞬だけ、背筋をなぞられた時のような“ゾクッ”という感覚を感じるほどの微笑みが見えた気がした。

「んじゃ!まぁ行きますか・・・この魔女の町で本探しを・・・そうだろ?裕二」

「ん?・・・あぁ、そうだね。」

とりあえず答えたが、実際僕はすぐに答えることができない状態だった。

なぜならさっきから愛花の震えた手が、僕の手を掴もうと頑張っているが触れてもすぐに引っ込めてまた掴もうとする、それの繰り返しだった。

そして僕は愛花の手を取る。

心配ないよ、と言い聞かせるように。

そして自分に言い聞かせた。

過去は忘れろ・・・と、強く言い聞かせ大学ブース“魔女の街”に足を踏み入れた。

願いの形はここにあるのだろうか?そう思いながら探し始めた。



暗闇、深淵、漆黒、それらが当てはまりそうな光が全く無い世界で声が響いた。

「彼らはどうするんだろうねぇ♪」

「だろうねぇ♪」

「彼はどっちだろうねぇ?」

「だろうねぇ?」

「もう十年だねぇ♪」

「十年だねぇ♪」

「あの人にしては遅いねぇ?」

「遅いから暇ぁー!!」

響いた声が消えるころ、笑い声が二つ重なって聞こえてくる。



「てか、大学ブース広すぎねぇか?」

そう渡が疲れきったような声で言ったのは魔女の街に入って1時間ほど経過したときだった。原因は僕が本の山を見ていく中で波子さんが、ゲームの予約特典でついてくる設定資料集や、初回封入特典付きの未開封攻略本とか、さらには僕が小学校高学年のころに流行ったゲーム“1stEND”の体験版ディスク付きの雑誌などなど、計10冊近くの本や雑誌類を買ったのち渡に持たせているからである。

本代も渡にださせるのかと思ったが波子さんは自分で払った。

確か渡が波子さんと付き合い始めた時に、波子さんが付き合う条件として提示したのがたしか『想いだけをくれること。お金やプレゼントは一切受け取りません!』その言葉に射抜かれたと、渡が何度も話したのを聞き流していたつもりだったのだが、やはり覚えてしまっていた・・・最近は月に一回の頻度だが、あの頃は・・・数えるのも億劫になるくらいの回数聞かされた覚えがあったからだ。

ともあれ大学ブースを半分くらい回ったところで一旦、昼食をとることにしたのだが・・・。

「どこも満席だね・・・さすがにお弁当を持ちこむことができないから、急遽大学ブースに設置された学食モドキが賑わうのは当たり前だったね。」

僕がそう言って諦めつつもう一度辺りを見回すと、いきなり目の前に先ほど絆先輩を血だらけにした挙句に拉致った女性が居た。

女性は笑顔で自己紹介をしてくれた。

「絆くんと付き合っているげっ月か花りんね鈴音って言います♪よければ昼食、私たちと食べません?絆くんと同じ高校だったのにあまり知らないので、あることないこと聞きたいなぁ、と思いまして・・・どうでしょうか?」

いや、あることないことって・・・あることは話せてもなぁ、ないことはちょっと無理かな?と、僕が考えている隙に渡が了承しており、波子さんも協力する、という感じの目で渡とアイコンタクトっぽいものをしていた。

まぁたぶん話せてるつもりなんだろうな~と、思ったりしながらも断る手は無いかと考えたが、いいアイデアが浮かばない。

しょうがない、なんせ今日はツイてない日だし・・・。

「わかりました・・・」

僕のその言葉を待っていたかのように鈴音と名乗った女性は、ついてきてくださいと言う感じに、無言でゆっくりと真っ黒いテントへと歩き出した。

その足取りはなんだか楽しそうだった。


「ここです♪えっと・・・えっと~・・・あっ!そうそう♪メニューですが私が作った色々なオニギリですので、よろしくお願いしますね♪」

鈴音さんがそう言ったのは歩き出してから数分後、“占いの館”と書かれ真っ黒で物凄く怪しいテントの前だった。

「ここ・・・ですか?」

僕がそんなことを言っている間にも渡と波子さんは鈴音さんに続いてテントに入って行ってしまった。

そして愛花は行っちゃうよ?と言うように、僕の服の裾を横から引っ張っている。

可愛いと思ってしまったし、心が引っ張られていく感じがした。

後者は気のせいか・・・そういうことにして愛花と共に占いの館へと足を踏み入れる。



中に入ってすぐ中央に置かれているテーブルの上に“願いの形”と書かれた文庫本が目に入って驚いた。

「あった・・・」

少女の呟きが聞こえた。

ただ、すぐにそれを壊して引き裂く言葉を女性が放った。

「これは彼が紡いだ最初の都市伝説legendだから渡す人がね・・・決まってるんだよ♪」

でもね、と女性は続けた。

「一回だけチャンスを上げるよ?・・・ふふっ♪君は受けるよね?欲しいもののために・・・」

女性は、そう言うと僕を指さした。僕は周りを見て、僕以外の人が居ないことに気づいた。なら、と僕は呟きテーブルの前まで行き、二つ置かれている椅子の右側に座った。

「はじめてくれるかい、最弱のレジェンド伝説クリエーター創者さん?」

すると女性は左側に座り、トランプを出して言った。

「じゃあ『切り裂きジャック』をやりましょうか・・・なりそこないの・・・悪魔さん♪」


『切り裂きジャックの遊び方』

普通のトランプからジョーカーを抜いた状態にしそれを赤と黒で分ける。

これで準備は終わり。

次にルールの説明。

ルールはいたって簡単だった。

ただ単に両者がトランプの山の上からカードを裏のまま二枚出すだけ。

この時、トランプはよくきって上から出すこと。

それともう一つ、自分の山は見てはいけない。

そして裏になっているカードを表にして、数字の合計で勝負する。

数字の大きい方はそのカードを山の一番下に、数字の小さい方はそのカードを破り捨て、それで山が無くなった方の負けで引き分けの場合は決着がつくまで繰り返して、負けた方は表になっているJ以外のカードをすべて破り捨てることになる。

ただしJだけは特殊で、Jが出た時は相手の山の上からカードを二枚破り捨てることができます。もちろん捨てなくてもいい。捨てる効果の発動タイミングは両者のカードが山に戻った後。

そしてJのカードはJの山の上のカード二枚を破り捨てるルールでしか破り捨てることができず、勝負で負けても山に戻る。

このゲームは相手と自分の山のカードの順番を覚えきった人はほとんどの確率で勝てる。

そしてJが一度に二枚出ても破り捨てることができるのは二枚のまま・・・それが説明された『切り裂きジャック』のルールと必勝法だった。

僕の方は“黒”のカードだった。

山をきるとテーブルに置き、そして上から二枚を山の上の空いたスペースに裏のまま出す。そして相手が同じことをやり終えるのを待ちながら考えた。

このゲームに他の勝ち方が無いかということを・・・。

結局、僕の考えてる時間は3秒しか与えられずに勝負が始まった。

両者同時にカードを表にする。僕の一枚目は9で相手は3だった。

二枚目は2・・・そして相手はJだった。

開始早々に僕のカードが四枚も破り捨てられてしまった。


自分-残り22枚

相手-残り26枚


「あれれ?一気に削れた・・・やった!ラッキー♪」

そう言って鈴音さんは座りながら小さく跳ね、次の二枚を裏で出した。僕もそれに続けて出す。今度は4で、一方相手はKを出した。

二枚目をめくるとQだったが相手は1なので今回は勝てた。

「あーあ・・・負けちゃった♪」

負けた割には笑顔だった。その理由はこの時わからなかったが、後で嫌というほど思い知らされることとなった。

ゲームは順調に進み、僕がJでみるみる内に相手の山を削っていきお互いJが一枚になったが


自分-残り13枚

相手-残り2枚


この状態で相手が最強を誇っていた。

なぜなら相手の二枚はJとKなのだ。つまり足せば24になり山を削る。

それが繰り返されて僕の山はあっという間に3枚まで減らされてしまった。

「ふふふっ♪楽しかったけど、これでオシマイ・・・だね♪・・・だって君の次のカードは3と10だから一番下がJ・・・私は次もJで削るから、君のJが削られてオシマイだよね?・・・ふふふっ♪」

さっきまで無言だった女性がしゃべりだし、そしてもう見飽きたカードを裏にして出してきた。僕も山の上からカードを二枚裏にして出す。

「じゃあ、これでオ・シ・マ・イ♪」そう言って、女性がカードをめくったことを確認した僕はめくる前に言い放った。

「僕の勝ちだよ・・・フフッ♪」


相手-JとK

自分-3とJ


「なんでッ!?」

驚く女性に僕は説明してあげる。

「山の調整をしていたのは、お前じゃなくて僕だよ・・・Jのカードを下から二番目に配置するためにねぇ・・・とりあえず僕の勝ちだよ?」

僕は“願いの形”を取ると、立ちあがって占いの館を出た。

一瞬、僕は自分がどこに居るのかわからなかった。だが、すぐに僕の思考回路が二度と聞きたくない言葉を無理やり僕の口にしゃべらせた。

「永久電車・・・答え合わせってことかな?」

またあの悪夢のようなループする駅に迷い込んでしまったらしかった。



僕はとりあえずアナウンスを聞いてヒントを得る。今回はどうやら前回と違う答えらしかった。ヒントが『アルテミスと歩いて』だったから違うとわかったのだが、答えはさっぱり分からなかった。

たしかアルテミスって武器をスタダスで手に入れたと渡が言っていたが、それで何か分かるかもしれない。そもそもアルテミスって何?って感じの僕にはスタダスが最初で最後の希望だった。

とりあえずスタダスを起動してコンテニューを選択してゲームを再開する。

僕の主人公キャラのreiはセピア色の廃墟に立っていた。右上に表示されたダンジョン名は『終焉ノ記憶』だった。

このダンジョンは二日ほど前に配信が開始されたもので波子さんは初日でクリアしたが僕や渡は最下層のボスに勝てないのでアイテム集めをしている途中だ。

「あれ?そう言えば『アルテミス』ってここのボスが落とすんじゃなかったっけ?ってことは渡・・・結局、波子さんに手伝ってもらったわけだよね・・・そもそもソロで倒せるほど弱い奴じゃないし・・・強すぎだよ、バランス崩れてるよ『終末神シダクラハ』を倒さなきゃ手に入らない武器って最強系だよね・・・長剣系だったら良いけど」

などと文句を言いつつ身につけているものが、ボロボロの布一枚だけなreiを数歩だけ歩かせるとイベントが始まった。

終末神シダクラハが「ようや――」と、しゃべり始めたところで見飽きたイベントを飛ばし戦闘画面に入る。

戦闘画面に移った途端、ほそっこい体つきのショートヘアのセピア色の全裸少女が七色に光る極太レーザーをreiに向かって撃ってきた。

reiのHPは一瞬で1になり状態異常の麻痺と封印と裂傷と堕落と火傷を負った。

そう、これが終末神シダクラハの戦闘における最初からピンチなのだ。

状態異常の堕落があることによって堕落が解けるまではアイテムが使用できず、封印があることで回復魔法が使えず、麻痺があることによって行動するとき2分の1の確率で仰け反る。まぁ、これだけなら堕落が15秒後に解けるので何とかなるのだが、火傷になっているせいで仰け反ったときに10分の1の確率でダメージを受けてしまうのだ。

そしてそれよりも最悪なのが裂傷である。

裂傷はアイテムの使用時に、この戦闘中だけなのだが最大HPが10分の1になってしまうのだ。このせいで開始15秒間は敵から逃げつつ死の危険にさらされて、状態異常の回復を行った際にHPが10分の1にされるので敵の一発の攻撃で即死するようになり、敵のHPが10%をきったところで戦闘開始直後と同じ七色に光る極太レーザー撃ってくるので、波子さんですら10時間やってやっと勝てたくらいである。

だが、今回は負ける気がしなかった。なぜなら波子さんが使った方法をやっと使えるようになったからだ。

画面上のreiの状態異常がすぐに消え去りHPも全回復した。

思わず笑ってしまう、ただ防具を変えただけでこんなにも難易度が変わるものだろうか?普通なら無理だけどバグ技で可能なのだ。

ある装備とこの防具を組み合わせると戦闘中に状態異常になると無傷の状態に戻るバグがあるのだ。殆ど終末神シダクラハのためにあるようなものだった。

ただ、欠点と言えるものが一つだけあった。

「この装備作るのに何で『腐敗王・スデホアド』の一番出にくい素材を10個も集めないといけないんだろうか・・・これのせいで丸一日潰されたからなぁ・・・まぁ、『腐敗王の腹巻』じゃないだけましだけど・・・。」

そう独り言を駅のベンチで呟きつつゲームを操作する。

画面上ではreiが物凄い勢いでシダクラハのHPを削っていた。

10分くらいたったころ、HPが10%をきったらしいシダクラハが極太レーザーを撃ってきた。余裕の表情で僕はその様子を見ていると何故かreiのHPが1の状態のままで、回復する気配がなかった。

「え!?2回目のレーザーってダメージだけ!?」

そう言って慌てているとあっという間に相手の攻撃に当たりゲームオーバーになってしまった。

「勝った!と、思った時点で負けが決定する・・・お祭りのとき愛花に言われたのに忘れてた・・・。」

僕は目線を空に向ける。

夕焼けでオレンジ色に染まった世界がそこにあり、僕を引き込もうとする。

「縁と愛花・・・」僕はそう呟きゲームに戻った。



結局『終末神シダクラハ』を倒して『しゅうまつ終末げつてん月天きゅう弓アルテミス』を手に入れるのに1時間くらい掛ってしまった。

シダクラハが何か叫びつつ消滅していくイベントを見ながら僕は安どのため息をつくと、アナウンスに耳を傾けると『この次は終点~三途の川前~』そう聞こえた。

僕はあわててゲーム画面で『しゅうまつ終末げつてん月天きゅう弓アルテミス』の説明文を確認した。

「えっと・・・月の光を宿した最高の弓・・・ってことは月が関係してるのかな?」

月・・・月・・・月・・・月?

「ダメだ・・・すぐには思いつけない・・・・・・あ!・・・あぁ、あぁ、あぁ!!」

わかった。答えにたどり着けた。

たぶんこれであっているだろうと思いゲームをスリープ状態にすると鞄にしまおうとして気がついた。

僕はどうしてゲームを持っているんだ?古本市に行くからって財布しか持っていなかったはずなのに・・・。

鞄が無いのでゲームは手に持ったまま立ち上がった。そして僕はゆっくりと歩き出した。

電車がホームに入ってくるのが見えたが、僕は焦らずにゆっくりと後ろ向きで歩いた。

すると一瞬目の前が真っ暗になったと思ったら次の瞬間、閃光が僕を包みこんだ。

僕はとっさに目を閉じた。

そして僕はいきなりの感覚に驚いて目をあけ、目の前に広がる景色を見てまた驚いた。

「病院?・・・ってここは縁の・・・」

縁の入院している病院の目の前に立っていた。

そして晴れているのに雨が降っていた。

僕は迷うことなく病院の中へ入って行く、中に入って不審に思う。中には誰もいなかったからだ。

僕は階段を駆け上がり縁の病室へ急いだ。

そして縁の病室の前まで来るとドアに手を伸ばし言った。

「入るよ・・・縁」


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