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6 表裏。

「お帰りなさい」


「抱えて入る必要って」

「ゲン担ぎです」


「まぁ、君が気にするなら良いけど」

「先ずは一緒にお風呂に入りましょう、沐浴を見守って下さい」


「あ、うん」

「先に入ってて下さい」


 子供を最初に家に入れて、それから僕を抱えて新居へ。

 ゲン担ぎって言うか、最早思い出作りなんじゃないかと。


 でも、実際に思い出作りって殆どして無いから。

 もう少し、一緒に何かしたいとは思ってる。


 だってもう、本当に忙しくて。


 致した次の日から、両家の顔合わせと結納の準備をしつつ、慣れる為にって休みが合えばヤりまくって。

 顔合わから結納のコンボが本当に繋がって、その日に籍を入れて、新婚休暇も貰ってるからってそのまま旅行。


 で、ヤりまくってる最中に発情を迎えて、番休暇を取って貰って。


 その時はデキ無かったんだけど、検査の結果、発情してもフェロモン量的には抑制剤が要らないレベルで。

 そこで、じゃああの盛りっぷりは何だったのか、と。


 でもまぁ、一先ずは落ち着いたからと家を探してる最中に、2回目の発情で。

 全然、医療タクシーで帰れる位だったし、案内の人もαなのに誘発されなかった位で。


 なのに、ココを買うからココでさせろって。


 で、デキて。

 元からαの行動力、凄過ぎ。


「はぁ」


「もう大丈夫ですか」

「うん、どうぞー」


 お風呂は広いし、道具も揃ってる、しかも沐浴上手。


「あ、少しお願いします」

「はいはい」


「水です、どうぞ」

「ありがとう」


 至れり尽くせり。

 そりゃΩになりたがったり、Ωのままで居た。


 いや、真島さんだからこそなんだよね。

 酷いαは幾らでも居る、それはカビの影響分類に関係無く、どの分類にも酷いのは居る。


 あの人は結局、しつこく元の番に食い下がって、縋って。

 押し返されて転んで、頭を強く打って死んだって親から聞いたし。


 其々の。

 いや、僕、Σ以外は経験してるからなぁ。


 分かるよ、ホルモンにどれだけ左右されるか。


 けど、理性と自制心の権現が目の前に居るし。

 あんま影響受けない体質だし。


「どうですかね」

「うん、流石完璧超人」


 コレ言うとムッとすんの。

 可愛いなと思っちゃうんだよね、向こうの方が色々と強いのに。


「完璧超人じゃないんで、後は任せます」

「あいよ。よし上がろうね、今日は液体ミルクにしとこうか、お腹空いたでしょう」


 新薬を使ったから、母乳は控えた方が良いって。

 まぁ、直ぐに出なくなったからどの道って感じなんだけど。


 粉ミルクでも良く飲んで、直ぐに大人しく眠ってくれる。

 でも、コレも今だけかも知れないんだよね、肺が育つともう凄い爆音だって聞いてるし。


「手伝いますから、服を着て下さい」

「過保護、ちゃんと入った?」


「手早く洗いましたし、また後で一緒に入ろうと思ってるので」


 僕が抱くってなると無理だったからこそ、やっぱり凄いなと思う。

 異性愛者だったのに、コレ抱けるんだし、抱きたいと思ってるんだし。


「考えとく」


「荷解きしておきます」

「うん、宜しく」


 家具を運び入れたり、配置は殆ど真島さんが。


 けど新しい家具も有る。

 このソファーは買ったばかり、そしてテーブルは僕の。


 棚は真島さんの実家から。

 そうやって使っていた家具を何個か運び入れてあるし、食器は互いに見慣れた物、でも寝間着は新品だったりする。


 何か。

 家だなぁ。


 家族の家って感じ。


 確かにココなんだよね、家選びってもっと迷うかと思ってたんだけど。

 ココだ、って。


「メシ、どうしましょうか」


「ウチ、初日はラーメン頼む派なんだけど」

「ウチもです、親が蕎麦無理なんで」


「成程、半ラーメンチャーハンセット、餃子は?」

「2人前で、肉野菜炒めも付けましょう、残ったら夜食にすれば良いんですし」


「あー、でも中華丼も食べたい」

「五目そば有りますよ」


「違う、ラーメンはラーメンで食いたい」

「じゃあ具だけ頼んで、俺はタンメン大盛りの半チャーハンにしますけど」


「ブレないねぇ」

「野菜取るにはコレが1番なんで」


「ふふふ、凄い家族っぽい」

「家族ですからね」


 コレ、Ωだからかな。

 何か、凄い好きって感じがぶわっときた。




《どうぞ、Σの因子を持った元β、現Ωに第2子が生まれたそうです》


「君さ、どうして1番の盛り上がり部分を。あぁ、罰か」

《はい、なんせβですから幼稚なんです》


「悪かったよ、素地が重要だとは理解してる」

《ですが、未だに優生思想をお持ちかと、優秀なα様》


「その嫌味の切れ味はどうやって磨かれたのかね」


《聞いて下さるなら、お答えしますが》

「それも罰となるなら聞くよ」


《Ωとαの子供です、当時はαが優秀だとの固定概念が強かった時期、地区に産まれました》


「あぁ、コレはかなりの罰だね」

《お子様がいらっしゃらなかったから良いものを、もし出来てらっしゃったら、一体どうお育てになるつもりだったのでしょうか》


「無責任にも、考えて無かった」

《その時は、ですが今はどうでしょう》


「居なくて良かったと思う、あのまま捻じれた家庭を見せるなんて、それこそ虐待だからね」


 そうして僕がそのまま落ち込みそうになった時。


『どう?良い報告は有る?』

「有るよ、被験者に2人目が生まれた」


『そう、良かった』


 結局、組織は彼女の記憶を改竄した。

 悪しきαの支配下に置かれ操作されていた彼女を、僕とβの従姉妹が解き放った、としていた。


 僕が愛を伝えた頃には既に、改竄がなされていた。


 直ぐに受け入れて貰った喜びと、絶望に気がおかしくなりそうになった。

 僕は、捻じれた部分も愛して貰いたかったのだと、そこで初めて気付いたからだ。


 けれど、組織は既に理解していた。

 コレは罰で、報酬。


《では、失礼致します》

『あ、待って、お願いが有るんだけれど……』


 彼女のお腹には僕の子が居る。

 この報告係に親しみを覚えつつも、嫉妬したり、僕を愛したり。


 それすらも実は植え付けられたモノじゃないか、と。


 けれど、暴けない真実に一体何の意味が有るのか。

 僕はこの組織に数年所属しながらも、その実態を全く把握しきれていない、知る術も利も無い。


 実は、組織なんて無いんじゃないかとすら思う事も有る。

 この牧歌的な田舎に住み、俗世から離れると、数年前の出来事こそ夢だったのではと。


 けれど、報告係が来る事で現実に引き戻される。

 僕らは死者、ココは死の国なのだと。


 海辺から近い、牧歌的な死者の国。


「お帰り、何をお願いしたんだい」

『秘密、ふふふ』


 僕は、幸せ過ぎるとおかしくなる人種らしい。


 こんな都合の良い日は長く続かないだろう、と。

 そうして僕は安定を保とうとする。


 不安が無ければ生きられない、不条理で不合理な生き物。

 αと言う恵まれた分類にも関わらず、あまりにも不完全な生き物。


「知れる日が来るまで、楽しみしているよ」

『ふふふ、そうしておいて』


 壊れるなら、早く壊れてほしい。

 幸せが、不安で堪らない。




《やはりΣ因子についても知っている様でした、論文は直ぐに書式を改め提出されるかと》

『そう』

「α及びΩからのフェロモンに大量に暴露させられると発現する因子、カウンター的存在、Σ。コレで幾つ目の論文になる」


『8つ目、かしら』

《はい》

「もう十分だろう、問題はΣの妊娠率だ」


『不妊を理由に恋や愛から遠ざかるなど、起きてはいけない事』

「有るべきでは無い事象を潰す、コレだけの事に一体、どれだけ我々は対応し続けねばならないのだろうか」

《全ての者に幸福が訪れるまで》


「はぁ」

『良い報告を喜びましょう、2人目よ』

《母体共に健康です》


「彼は、彼らは幸せなのだろうか」


《見に行かれては》

『そうね、ひと段落ついたのだもの、通りすがる位は良いじゃない?』


「Σからβにすらさせられる。もう、本来であれば人はカビの影響分類から解き放たれる術を持っていると言うのに」

《ですが、人が育たねばどんな道具も武器となり、凶器となります》

『人の成熟度の閾値が基準値を超えない限りは、このままでは、衰退し滅亡するだけ』


「私は、許されるのだろうか」


『私の許しだけでは足りませんか?』

「良いのだろうか」


『はい、決断は時に苦しみを生む、アナタは決断してくれたのです。生きるべき者の為に、コレから幸福となる者の為に、傷は浅く少ない方が良いのですから』

「君の幸福の為、人々の幸福の為に」


《では、失礼致します》




 全ては、この人と出会う為に。


『まぁ可愛い子』

「ありがとうございます」

「大変だったろうに、体は大丈夫なのかい」


「はい、あまり変化しない方だったので、母乳が直ぐに出なくなっちゃったんですよね」

『そう、でも良いじゃない、限界までくると切れちゃうもの』


「あー、有るんですね、実際」

『そうそう、それでも張るから辛くても搾乳か授乳、運が良かったのね』

「おめでとう、ご苦労様」


「ありがとうございます」


『ふふふ、アナタも、頑張ってね』

「あまり気張らず、無理せずだ、人生は長いんだからね」

「はい、ありがとうございます」


 上は5才、真ん中は2才、そして彼の中にはもう1人。


「あのさ、もう1人の人、おじさんなのかおばさんなのか」

「多分、男Ωだとは思う」


「あー、ある意味で先天的Ωか、そっか」

「しかもかなり初期から発現していると、かなり中性的になるらしい」


「珍しい人に会えたんだ、そっか」


「追々、この子達も選ぶ時が来るのか」

「気が早いなぁ、大丈夫だって、後で面白い話を聞かせてあげるから」


「よし、ならもう帰るか」


「無理だと思うよ、あのはしゃぎ方は当分無理」

「だろうな」


 彼の目線の先では、長女が元気に走り回ってくれている。

 そして長男は彼に似て、シロツメクサの観察に勤しみ。


「あんな風に走り回ってた?」

「らしい、公園の隣の家に住み替える程」


「それ聞いて無いんだけど?」

「俺も少し前に聞いたんだ、流石に4才の頃の記憶は無いしな」


「大変そう、その年の子を連れての引っ越し」

「祖母に弁当と水筒さえ渡しておけば、公園に放置して楽だったらしい」


「どんだけ」

「潜在的にαへ適応していたんだと思う、だからこそαとなった」


「で、僕はβ、だった」

「確かに変化して欲しく無い気持ちも有るけど、もう2人は欲しい」


「だとして、もう3年は掛かるなぁ」

「代理母出産も、リスクが有りますからね、無理だけは絶対にしないで下さい」


「そりゃね、死にたくないもの、無理はしないよ」


『ママ―!てんとう虫!てんとう虫つかまえた!』

《ママー!ちいちゃんもだっこ!》

「こら、走って突撃しない、抱っこなら俺に言いなさい」

「てんとう虫の子はコッチ、はい、ちいちゃんはコッチね」


「ママの膝の上で暴れたら本当に怒るからな」

「怒らせない様にしようね、はい、先ずはてんとう虫」

『どうしよう、てをはなしたら飛んでっちゃうかも』


「飛ぶ瞬間でも見えるから大丈夫、ママもパパも目が良いから」

『じゃあちゃんとみててね?』

「おう」


『本当につかまえたんだからね?』

「うん、開けてみて」


『いた』

《ちいちゃんもほしい》

「追々ね、君食べようとするから」

「本当にな、お姉ちゃんが良いって言っても。触らずに、触らせて貰うだけにしなさい」


『ちいちゃんさわりたい?』

《うん》

「けど手に乗せるだけ、乗るかどうか分からないけど良い?」


《うん》


「分かってるのかなぁ、コレ」


「頭を抑えておく」

「だね、手を抑えておく。はい、手と手をくっ付けて」


『うごかない』


「まぁ、虫も猫も気紛れだし、好き嫌いも有るからね」

《むしはちいちゃんきらい?》

「不意に語彙が豊富になるな」

『てんとう虫はわたしをすき?』


「どうかなぁ、単に休んでるだけか、怖いのかもね」

『わたしはたべないよ?』

《ちいちゃんもたべない》

「だと良いんだがな」


『あ、とんじゃった』

《にげた》

「とも言えるし、元に戻ったとも言えるよね、きっと葉っぱの上が家だから」


『かえった?』

《おうちどこ》

「何処だろうねぇ」


「他にも居るかも知れないぞ」

「確かに、何処かに家族が居るかもね」


「探しに行くか」

『うん!』

《ちいちゃんも!》

「はい、行ってらっしゃい」


「何処で見付けた」

『あっち!』

《ちいちゃんも!》

「それ絶対こけ、あぁ」


《ちいちゃんも!》

「よし、行くぞ」

『ほらちいちゃん、手をつなごう』


《うん》


 幸せで幸せで堪らない。

 彼と出会えて、新薬が出てくれて、少なくとも俺は幸せで堪らない。

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