魔王退治は1回目
「すんませんすんません」
薄暗く物々しい城の中、この城の主…つまり魔王は涙目で頭を地面に擦り付けていた。
「もう勘弁してください。これ以上飲んだら死んでしまいます。アルコール中毒なんかで死んだらパパ魔王に顔向けできません!」
そう懇願する魔王に威厳なんてものは全くなかった。
「はぁ?私のついだ酒が飲めないわけ?まだテクーラジョッキ3杯しか飲んでないじゃないの。舐めたこと抜かしてると鼻からテクーラ流し込むわよ?」
魔王にダル絡みしているのはパーティメンバーの女騎士だ。顔だちはいいのだが魔王討伐に持ってくる水筒の中にテクーラを入れてくるほどのアル中で、酔うと手がつけられないほどにイキリだす。
するとついに我慢の限界に達したらしい魔王が逆ギレを始めた。
「これ以上何が欲しいんだ!我の財宝を奪い取りタンスのへそくりまでとったくせに!このイキーラ野郎が!ばーかばーーか!」
「何を言っているの?バカって言ったほうがバカなんです〜。そんなことも知らないなんて、魔王さんってもしかしてバカなんですか?魔族のトップがバカなんてパパ魔王に顔向けできるんですか〜?
あと父親のことパパって呼ぶんですね!
ファ雑魚ン魔王さん。」
「お前のほうがバカって多く言った〜。はいお前のほうがバカ〜〜〜〜!」
俺の前では酔っぱらいの女騎士と魔王との壮絶な口喧嘩が繰り広げられていた。なんだろうなぜか小学校の昼休みを思い出した。
「まぁその辺にしとけよ。魔王がこんなダサい姿を晒していたら魔王軍の幹部連中にクーデター起こされるぞ?」
小学生の喧嘩を仲裁したのはゴリゴリのマッチョだ。中年だがダンディでイケメンなおじさんで、とても頼りがいがあるパーティのまとめ役だ。
「黙れ中年クソマッチョ!これは我とイキーラ野郎との世界の命運をかけた聖戦なのだぞ!」
「そうよ!手出しは無用よ。だって私がこのファ雑魚ン魔王を倒して世界を救うんだもの!」
「「ばーかばーかばーーか」」
こんな聖戦いやだランキングで間違いなく優勝できる光景を見せられているこっちの身にもなって欲しい。
「そろそろ飽きてきましたね。2人とも我のペットの餌にしちゃいましょうか?」
「おまえも黙ってろ厨二チビ女!我と一人称が被っててわかりにくくなんだよ!」
「なにを!『我』は我のものです。あなたは『おいら』とか使っとけばいいんです!」
「我魔王ぞ!『おいら』とか使ってたらそこら辺の下っぱみたいになるだろうが!お前もバカなのか?」
「あなたこそ魔王のくせに大人気なさすぎますよ!このファ雑魚ンバカ魔王!」
「「「ばーかばーかばーか」」」
小学生が1人増えてしまった。